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zoom RSS Dear ジュリー 3

<<   作成日時 : 2013/11/23 13:59   >>

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よそ行きのワンピースを着て、ていねいにブラシをかけた髪を赤いリボンでまとめて、おばさんからエナメルの靴を借りて。

「うん、ばっちり! 女の子は可愛い服の着せがいがあるわ!」

着替えを済ませた私を見て、おばさんが満足そうにうなずきました。
私はというと、こんなにおめかしをしたのが久しぶりだったので、うれしくも照れくさくてたまりませんでした。
最後におめかしをしたのは、戦争が始まる前、家族写真を撮った時のことです。
結局、その写真はなくしてしまいましたが。

「帰ったら話を聞かせてね」

いたずらっぽくウィンクをするおばさんに見送られて、私はカフェに向かいました。
途中、知っている人とすれ違うのが恥ずかしくてたまりませんでした。
「おしゃれして、どこへ行くんだい」「あら、今日はおめかししてるのねえ」なんて、声をかけてくるからです。
私はただ一言、「カフェへ行くんです」とだけ答えて、そそくさと逃げました。
人と待ち合わせしています、なんて答えるのは、ちょっと勇気のいることでしたから。

カフェに近付くと、私は窓から中をのぞきながら入り口のドアへ向かいました。
外から見る限り、アレクサンドロさんの姿は見当たりません。
もしかして中の方の席にいるのでしょうか。
私はそっと、カフェのドアを開けました。
カフェのドアには小さなベルがついていて、開けると澄んだ音が響きました。
アレクサンドロさんは、どの席にいるのでしょう。
ずいぶん待たせてしまったのではないかと考えると申し訳なくて、私はそろそろとお店の中に視線を巡らせました。
ですが、お店の中には、アレクサンドロさんの姿はありませんでした。
……まさか、待ちくたびれて帰ってしまったのでしょうか?

ああ、どうしよう。
私、アレクサンドロさんにひどいことを……。

「いらっしゃいませ」

入り口で突っ立っていると、店員さんが近寄ってきました。

「あ、あの……」

私は、アレクサンドロさんの特徴を伝えて、そんな人がいなかったかどうかを尋ねました。
すると店員さんは首をひねり、

「いいえ。そのような方はいらしてませんね。これからいらっしゃるのかもしれませんよ」

ああそうだ。何時から待っているって言われていなかったことを、すっかり忘れていました。
店員さんの言うとおり、きっと、これから来るのでしょう。

私は「その人と待ち合わせをしているんです」と答えて、窓際の席へつきました。
この席なら、アレクサンドロさんが来た時にすぐわかると思ったからです。
しばらくすると、さっきの店員さんが「お待ちの間、何か飲み物でもいかがです」とメニューを持ってきました。
私は暖かいレモネードを注文して、また通りの方へ目をやりました。
見慣れた通りも、カフェで人を待ちながら見るといつもと違った風に見えます。
やがて運ばれてきたレモネードを飲みながら、私はちらちらと窓から通りを眺めました。

お昼の時間。アレクサンドロさんはまだ来ません。
大丈夫、午後の待ち合わせだって、あり得なくはないのですから。
通りがオレンジ色に染まる頃。アレクサンドロさんはまだ来ません。
もう少し待ちましょう。
息急き切ってお店に駆け込んでくるかもしれません。

「大変申し訳ありません。お客様、そろそろ閉店の時間ですので……」

店員さんに声をかけられて、私は思わずうつむきました。

閉店間際。
さすがにもう、来るような時間ではありません。
アレクサンドロさんは、ついに来ませんでした。

「きっと、何か事情があって来られなかったんですよ」

片付けをするお店の人の、その、いたわりとほんのちょっとの苦笑いが混ざったような声が、胸に突き刺さりました。
一体どうして、アレクサンドロさんは来なかったのでしょう?
急に体の具合が悪くなったのでしょうか。
お家に不幸があったのでしょうか。
突然、どうしても外せない用事ができたのでしょうか。
それとも、そもそも……。

私は仕方なく、カフェを出ました。
通りはすでに真っ暗で、街灯に明かりがついていました。
通る人もまばらで、過ぎる風も冷たいものでした。
私みたいな小娘に一日居座られて、カフェの方もさぞ迷惑だったことでしょう。
でもその時の私は、誰かを気遣う余裕などありませんでした。
おばさんのお店に帰る道すがら、アレクサンドロさんが来なかった理由、それだけをずっと考えていました。

お店に着くと、おばさんが入り口の前で待っていました。

「ジュリー、いくら何でも遅過ぎよ」

おばさんはちょっと怖い顔をしていましたが、私の顔を見るとそれ以上何も言いませんでした。
私の顔は、泣くのを一生懸命我慢している顔でしたから。
あとほんのちょっとのきっかけがあれば、私は人目もはばからず泣いていたことでしょう。
それこそ、ちょっとつまづいたとか、何かに軽くぶつかったとか、そんな些細なことでも。

「寒かったでしょ。スープをあっため直してあげるから、着替えてらっしゃい」

おばさんが、ぽん、と優しく私の背中に手を当ててきました。
……あったかい手でした。

私はおばさんに、ぎゅうっとしがみつきました。
おばさんは驚いたようで一瞬体を強張らせていましたが、そっと背中を優しくなでさすってくれました。
私は声を押し殺して、泣きました。
わんわん大声を上げて泣いた方がすっきりするのかもしれませんが、そうはしませんでした。
おばさんの迷惑になってしまうし、それに……泣きわめいたりしたら、今度こそ自分が惨めになってしまう気がしたから。

アレクサンドロさん、どうして?
私をからかっただけなの?
違うよね? 何か来られない事情があったのよね?
でも、そうじゃなかったら……。

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