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zoom RSS Dear ジュリー 1

<<   作成日時 : 2013/11/10 14:10   >>

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私が六歳の時に、戦争が起きました。
誰が次の王様になるか、それを決めるために八年もの間、二人の王子がそれぞれ軍隊を率いて争ったのです。
私の父は兵士として戦場へ連れて行かれ、そのまま戻ってきませんでした。
母は私を連れて戦火の中を必死に逃げ、戦後間もなく病気で死にました。
一人ぼっちになった私は、親類のおばさんのところへ引き取られました。
おばさんもまた、戦争で旦那さんと三人の息子を亡くしていました。

「悲しいことだけど、生き残った者どうしで身を寄せ合って生きていかなきゃね」

おばさんは、旦那さんの残した小さな雑貨屋を一人で切り盛りしていました。
引き取られた私は、その手伝いをすることになりました。
辛く当たられることはないけれど、手伝いを始めたばかりの時は本当に右も左もわからなくて、よく自分が嫌になって泣きました。
「初めから何もかも上手くはいかないのよ」とおばさんは言ってくれましたが、自分が迷惑をかけているんだと考えると情けない気持ちでいっぱいだったのです。
だから、お世話になっているおばさんに迷惑をかけたくない一心で、私は懸命にお店のルールや商品の扱い方を覚えました。

そうして一年と少し経った今は仕事に慣れて、一人でお客さんの相手が出来るぐらいにはなっています。
それはとりえのない私にとって数少ない、自信を持って言えることでした。

私の仕事はまず、開店前にお店の前をほうきで掃除することから始まります。
やってくるお客さんに不快な印象を持たれたり、お客さんが足を滑らせたりすることがないよう、きれいにしなくてはいけないのです。
重たい鉄のちりとりを片手に、私は今日もお店の前をほうきがけしていました。

「ジュリー」

あ。
男の人の声に、私は顔を上げました。
見ると、微笑みを浮かべたスーツ姿の男の人が、こっちに向かってくるところでした。
この人は、私よりずっと年上のアレクサンドロさんです。
一月ほど前に、この辺りに越してきたのだそうです。
きっと、戦後の混乱で引っ越さなければならなくなったのでしょう。珍しい話ではありません。

アレクサンドロさんは私のそばまで歩み寄ると、にこりと笑いました。

「ジュリー、明日カフェに行かないかい」

ああ、まただ。
私はちょっと困った顔をして、アレクサンドロさんを見ました。
アレクサンドロさんは初めて会った時からずっと、こうなのです。
彼なりの冗談かもしれないと思いましたが、こう毎日続いているところを見ると、そうではないのでしょう。
こんな小娘のどこを気に入ったのかはわかりませんが。
カフェとだけ言うのは、この街にはたった一軒しかカフェがなく、わざわざお店の名前を言う必要がないからだと思います。

「駄目です。明日もお店の仕事がありますから」

私はいつものように、そう言いました。
アレクサンドロさんのことが嫌いだからじゃありません。
おばさんにお世話になっている身の上で、お店の手伝いを休むなんてとても言いだせませんから。
いつもなら、アレクサンドロさんは「そうかい、じゃあまた明日」とあっさり引き下がってくれました。
だけど、今日は違いました。

「ジュリー、じゃあいつなら良いんだい?」

え……。
いつもと違う様子に、私はおろおろしながら彼の顔を見上げました。
私を見るアレクサンドロさんの目は、とても悲しそうでした。

「私、お店の手伝いを休むなんてできません。おばさんに迷惑をかけるようなこと……」
「今日でもう、二十回目じゃないか。いい加減、答えてくれないか」

そう言われても、何と答えたら良いのでしょう。
アレクサンドロさんのことは、嫌いではありません。
だけど、はっきり「好き」と言えるかどうかと考えると、よくわからないのです。
だって、こうしてお店の前で話すだけの関係だから。

「僕は明日、カフェで待っているから」

アレクサンドロさんは、私の返事を聞かずに立ち去ってしまいました。
呼び止めようとして声が出ず、私はほうきを握りしめたまま、うなだれました。
私は、どうしたら良いのでしょう。

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