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zoom RSS カルネ村にて 27

<<   作成日時 : 2013/09/07 20:02   >>

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「ふふふ」

緊迫と混沌と不気味さが交じり合った異様な空気の中、クララが小さく笑った。

「クララ……?」

カレンは思わず目を開け、クララを見た。
何故この状況で笑うのだろう。
あまりに大きな異常の度合いに付いていけず、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
それとも、人間ではないが故に独特の笑いのつぼを持っていて、何かがそこを突いたのだろうか。

「何がおかしい?」

明らかに気分を害した様子のギールが、クララをぎろりとねめつける。
見た目と相まって、見られたら誰もが震え上がりそうな視線だった。

「だってあなた、ただの馬鹿なんだもの」

その視線を受けてなお、クララは平然としている。
そればかりか、まだくすくす笑いを続けていた。

「あなた、復讐のつもりなのよね? これで、復讐しているつもりなのよね? 一つの村をこんな風にして」

クララはそこで笑いを引っこめ、ふう、とため息をついた。
あきれたと言わんばかりの態度である。
カレンは血の気が引いた。
先ほどからの一連のクララの言動、これはギールを煽るばかりではないか。
案の定、ギールの目にはありありと怒りの感情が浮かんでいる。

「矛先が違うじゃないの。ハンナさんが憎いなら、最初からハンナさんをぶちのめしに行けば良かったのよ。どうして最初からハンナさんだけを狙わなかったの?」 
「俺はここから動けないんだよ! だからずっとずっと、待ち続けるしか……!」
「さっきして見せたように、虫達を差し向けるぐらいはできたはずよ」

クララがちらりと遺髪の入った袋の方を見る。
その時になって、カレンはようやく物音が止んでいることに気付いた。
恐る恐るそちらを見ると、遺髪はすでに袋ごと食い尽くされた後だった。
小さな幼虫達がその場でうぞうぞとうごめいている。
それがカレンには、ギールからの次の指示を待っているように見えた。

「結局、あなたは臆病で怠惰なだけよ。何が復讐ですって? 笑わせてくれるわね。これは八つ当たりと言うのよ」
「何だと!?」
「わたしを人間ではないと見抜いたから、さぞ力をつけた虫なのかと思えば……ただの低俗な虫とはね」

と、ギールが下半身である幼虫の部分を伸ばし、体を起こした。
まるで、威嚇するヘビのようだ。
そうして、頭上高い位置から三人を見下ろしてくる。

「俺を見くびるなよ。お前もリーザと同じようにしてやる。お友達の前でたっぷり汚してやるよ」

と、ギールが初めてカレンに目を向けた。
にごった目玉だった。
カレンは力いっぱい、その目をにらみ返した。

「いいや、お友達と一緒にな」
「うるさいっ!」

カレンは吠えた。
黙っていられなかった。
これ以上相手に言いたい放題させておくなどと、我慢できない。
どちらに分があるとか、言い負かす自信があるかとか、そんなことはかまっていられなかった。

「あんたのせいで私のお父さんが……! 絶対に許さないから!」
「お父さん……?」

ギールが考えこむような素振りを見せる。
犠牲者のことなどいちいち覚えていないとでも言わんばかりだ。
それがカレンの神経を逆なでにした。

「お父さんは三ヶ月前、橋を直す人手が欲しいって村に呼ばれたのよ! 村とは関係なかったのに、なのに、村に行ったばっかりに……!」

泣いている場合じゃない。
それなのにカレンの視界はにじみ、つうっと涙が頬を伝い落ちた。

「そりゃ、間の悪いことだ」

ギールはあざけ笑い……ふと、その笑みを引っこめた。

「お前……何してる?」

その言葉がクララに向けられていると悟るのに、少々時間を要した。
カレンが目を向けると、クララはゆっくりと手を上げるところだった。

「今頃気付いたのね。デカブツって、やっぱり鈍感なのかしら」

クララがその手を振り下ろす。
途端、ギールの体にびしびしと細かい傷が入った。
傷はたちまちぱっくりと割れ、嫌な臭いのする体液をにじませた。

「私、とても目が悪いのよ。あなたが視界に入ってきてくれないと、何もできないの」
「くそっ!」

ギールが慌てて体を後退させようとする。
しかし、どういうわけか体は動かず、上半身だけでもがく羽目となった。

「でも――視界に入ってきたなら、こちらのもの」

同時に、クララの姿がゆうらりと陽炎のように揺らめいた。
赤いコートの面積が狭まり、彼女の体は真っ白な別の生き物の形に変わっていく。
三角形の頭についた複眼。鎌のような両腕は、カマキリそのものだった。
言うなれば、人間の少女ほどの大きさの白いカマキリといったところだろうか。
だが、カレンの知るカマキリとは決定的に違う点があった。
背中が赤く、黒いたてがみのような毛が生えており、何より――カマキリのそれとは違う、蝶のような羽が八枚付いていた。

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