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zoom RSS カルネ村にて 24

<<   作成日時 : 2013/08/17 10:11   >>

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門の向こう側は、閑散としていた。
雑草だらけの地面の上に、木の板でできた十字架がまばらに立ち並んでいる。
十字架の中で古い物は腐りかけ、斜めになったり倒れたりしている。
カレンが昔、両親とお参りした墓もあるはずだが、もう昔のことでどの墓だったか思い出せない。
その中で目立つのが、ぽつんと花束の置かれた二つの十字架だ。
そこは夫婦の墓なのか、二つの十字架は寄り添うように並んでいる。
だいぶ前に置かれた物らしく枯れてはいるが、他の墓前には何も無いために目立っている。

「もしかして……ここが、あのご夫婦のお参りしたお墓なのかしら」

クララが枯れた花束を見つめている。

「おそらく、そうでしょうね。ここだけ花束がありますし」
「ねえ、どこに穴を掘ったらいいと思う?」

カレンは話に割り込んだ。
自分には最優先で済まさねばならない用があるのだ。
冷たいようだが、中年夫婦の先祖の墓などかまっていられない。

「空いている場所にしましょう」
「いや、だからその空いている場所ってどの辺かっていう話なんだけど」
「そうですね……この墓の隣は空いているようですが」
「じゃあここでいいかな」

カレンは地面に肩掛けカバンを降ろし、さっそくシャベルを地面に突き立てた。
――固い。
雑草のせいなのか、元々こういう地盤なのか、なかなか思うようにシャベルが刺さらない。
ここが空いている理由を、カレンは何となく察した。
もう少し柔らかいところを探そうかとも思ったが、移動するのも何だか面倒なような気がして、カレンはがむしゃらにシャベルで穴を掘った。

「疲れたら交代しますよ」
「そうしてくれると助かるわ」
「何をしているの?」

クララが小首をかしげている。
彼女は荷物を持っていないので、三人の中で一番身軽である。
三人の中で一番疲れていないのも彼女だ。
そう考えると、カレンはうらやましいような恨めしいような気持ちになる。

「さっきの家で、これを見つけたの」

カレンはシャベルを置き、肩掛けカバンから遺髪の入った袋を取り出してクララに見せた。

「それはなあに?」
「遺髪。中に『カルネ村の墓地に埋めて下さい』っていう遺言の紙があったの」
「それで埋めてあげるつもりなの?」
「うん……なんだか放っておけないもん」

その途端のことだった。
カレンは横から何者かに突き飛ばされ、地面に倒れた。
倒れた拍子に土混じりの草の切れ端が口に入り、不快な味が口の中に広がる。

「もう、いきなり何するのよ!」

クララかリーザか。こんなことをするのは一体誰だ。
身を起こし、顔を上げようとした瞬間、すさまじい悪寒が体を突き抜けた。
それは、『恐怖』のもたらすものだった。
……何かとても嫌な予感がする。
見てはいけない、と本能が訴えている。

だが、カレンの顔は少しずつ上へと向けられていった。
本能に逆らう好奇心がそうさせたのだ。
ろくなことにはならないとわかっているのに、目の前の出来事を確かめずにいられなかった。

ずるり、ずるりと音がする。
おそらくは墓場の隅の方から、何かが這い出してきているのだ。
墓場の隅というと、連想せずにはいられない。
そう、ギールの死体が落とされたのも、墓場の隅に開いた穴だったはずだ。

「ひっ……」

かすれた声が唇から漏れる。
真っ先に目に付いたのは、つるりとした柔らかな白い物体だった。
それは、ここへ来るまでに村の中でさんざん見た、白い体に黒い筋の入ったあの幼虫そっくりだった。
言うなれば、巨大な幼虫といったところか。
違いといえば、よく見ると半透明な細い毛のような物が数箇所生えていて、鞭のようにしなっているところだろう。
さらに、体には無数の穴が開いており、嫌な臭いのする液体がじゅくじゅくと染み出ている。
その体の上に、あちらこちらの骨が露出した人間の男性の上半身がついていた。
巨大な幼虫は、そいつの下半身だったのだ。
男のげっそりとした顔は、頬から上の肉があらかた失われていた。
頭の肉片に残った金髪は、元は肩までの長さだったのだなということがうかがえる。
墓場の隅から這い出してきたのは、こいつで間違いないだろう。

「何、これ……っ」
「骨虫(ほねむし)よ」

右腕を押さえたクララが答える。
彼女の右腕は衣服ごと切れた部分があり、そこから血がにじんでいた。
もしかしたら、先ほど突き飛ばしたのはクララで、あの骨虫とやらからカレンをかばってくれたのかもしれない。

「簡単に言うと、深い恨みや憎しみなんかを持って死んだ人間が、死体を食いに来た虫を逆に食らってこうなるの。食らった時間が長ければ長いほど、凶悪なやつが生まれるのよ」
「そんな怪物、聞いたことありませんよ」

リーザが口を挟む。
彼女の声は強張って、震えていた。

「そうでしょうね。恨みや憎しみが消えるか、死体のほうが耐えられなくなって自滅するのが先だから」

その時、そっと肩をつかまれて、カレンはびくりと跳ねた。
慌ててそちらに顔を向けると、相手はリーザだった。

「カレンさん、立てますか」

リーザが顔を寄せ、小声でささやく。
カレンは小さく首を横に振る。
怖いのだ。足がすくんで震えていて、一人では立てそうもない。
カレンには、今の自分の顔が恐怖に引きつっているという自覚があった。

「手伝いますよ」

リーザが両脇に手を差し入れ、持ち上げるようにして立つのを手伝おうとする。
カレンはそのおかげで、やっと立つ事が出来た。
足はまだ震えていて、リーザにしがみつかなければ膝から崩れてしまいそうだったが。

「……あなたがギール?」

クララがこちらと向こうとの間に立つ。
カレンはその背中を見守るしかできずにいた。

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