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zoom RSS カルネ村にて 12

<<   作成日時 : 2013/05/25 16:51   >>

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「それで、もう一度話を繰り返すけれど」

クララが小さく息を吐いて顔を上げ、村の一番奥にある一軒の家を指す。
木や土壁の家がほとんどの村の中で、唯一レンガ造りの家である。
大きさも他の家に比べて大きい。

「あと調べていないのは、あの家だけね。あなた、あれが誰の家か知ってる?」

カレンはその家を知っていた。

「うん、村長さんの家だよ」

白髪頭に白いあごひげの、小太りな初老の男がこの村の村長である。
この村の村長は代々同じ家の人間が継いでおり、彼は一度都会へ出たものの父親の死を機に村に戻り、この役職についたのだ。
村長には一人息子がおり、無論のこと次期村長とみなされている。
しかし村長の息子は村へ戻るのを拒み、妻子とともに都会に残っていた。

村長は眼光鋭く無口な性格で、あまり親しめない人物ともっぱらの評判である。
ただ、彼の若い頃を知る人は「戻ってきたばかりの時は気さくだった」「村長になってからこうなった」と口をそろえるので、立場に見合うよう性格を改めたのかもしれない。
上に立つ者は下の人間に対して常に平等でなければならない。
時には非情な決断を迫られる立場で、特定の人物に情があっては正しい決断を下せない。そのため村人を一定の位置から遠ざけているのだろう。

「そう」

短く返事をし、クララはそちらへ向き直る。

「重要な手がかりがありそうね」
「だといいんだけど……」

あの人物のことや、クララの表情の理由など、気になることは色々とある。
だが何よりも早く父親の安否が知りたい、とカレンは思った。

しかし、村長の家にも手がかりらしい手がかりはなかった。
人っ子一人おらず、台所の残り物や食材に虫が湧いて嫌な臭いを放つばかりだったのである。
これでは他の家と大して変わらない。
カレンが知りたいのはいつから人がいないかではなく、父親がどこにいるかなのだ。
冷たいと言われようが、カレンにとっては村人のことより父親のことである。

村長の家の中、居間のテーブルに手をついてカレンは重苦しい息を吐いた。
ぴかぴかに磨かれた立派なテーブルに、冴えない顔をした自分が映っている。
完全にお手上げ状態だ。気が滅入って仕方ない。
せめて、先ほど見かけたあの人物と話ができれば良かったのだが、逃げられてしまったものは仕方ない。

(お父さん、一体どこにいるんだろう)

また一つ、ため息が増える。
もう少し早く探しに来ていたら、父親を見つけられたのだろうか。

悩むカレンのそばで、クララはまだきょろきょろしている。
カレンはその様子を横目で見ながら、そういえばクララは何の用事でこの村に来たのだろう、とぼんやり思った。
村についてからというもの、用事とやらを気にする様子は見られない。

(まあ、でも)

彼女の用事が何であれ、ここでお別れなのは確かである。

(……家に帰ろう)

カレンはテーブルから手を離した。
これ以上の手がかりが望めないのなら、家に帰って母親に報告しよう。
そして他の村に連絡をし、何かしらの対策を取ってもらうのだ。
ずぶの素人の小娘がまごまごしながら探し続けるより、その方が効果的だろう。
父親を心配する気持ちを、今後も長く引きずらなければならないが。

「ねえ、どうするの」

カレンはクララに呼びかけた。

「私、家に帰るよ。お母さんにお父さんのことや村のことを話さなきゃいけないもの。だから、村に残るっていうならクララさん……が一人で残るってことになるんだけど」

彼女の名前を呼ぶのは初めてだ。
どう呼んでよいか迷い、ぎこちなく「さん」付けで呼ぶと、クララがふっと微笑んだ。

「呼び捨てでかまわないわ。それより……まだ帰るのは早いわよ。この辺りにまだ調べていない場所があると思うの」
「ええ?」

カレンは首をかしげた。
調べていない場所というと、残るは共同の墓地ぐらいのものだ。

「村の外れに墓地があるけど……」

だが、墓地は高い柵で囲まれていて、門までついている。
門にはいつも閉められており、出入りするためには村長の持つ鍵が必要なのだ。
何故そこまで厳重に管理するのか、カレンにはわからない。

「いいえ、もっと近い場所だわ。ねえ、心当たりはないの?」
「そう言われても……」

カレンははたと思い出した。
村長の家の裏手には納屋があるのだ。
納屋といっても人が寝泊りできそうな大きさのもので、秋の収穫祭の道具をはじめ村人が共同で使う道具などがしまわれているのだ。
以前収穫の手伝いをした時に、納屋から道具を運び出す村人の姿を見た事がある。

「……あるわ」

(もしかして、お父さんはそこにいるの?)

そう思うといても立ってもいられない。
カレンは「こっち! 家の裏!」とクララに告げて駆け出した。
後ろの方でクララが何か言っているが、気にしていられない。

どうか、そこにいますように。無事でいますように――ただそればかりを思うだけだった。

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