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zoom RSS カルネ村にて 11

<<   作成日時 : 2013/05/18 20:21   >>

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二人はその後も家々を調べて回った。
どの家にも人の姿はなく、中を荒らされた形跡もなかった。
ぱっと見ただけならば、ただ単に留守にしているだけとも思えそうなほどだ。
しかし、料理の残りが腐ってすえた匂いを放ち、鍋の中の残り物に虫が湧き、傷んだ食材の上で小さな羽虫達が飛び回る様を見れば、やはり異常が起きているのだなと実感する。

「強盗団が来たってわけじゃ、なさそうね」

カレンは途中でそう結論付けていた。
強盗団が来たのなら家の中はめちゃくちゃに荒らされ、食料も全て持ち去られているはずだからだ。
村の家はどれも目立って荒らされた形跡がなく、金にも手がつけられていなかった。
それなら、一体何が原因なのだろう。

(まさか、人さらい……とか)

先ほど見たあの人物のことが頭に浮かぶ。
もしやあの人物は人さらいか、それに協力をしていて、手引きでもしたのだろうか。
そして、そこに偶然居合わせたカレンの父親も……。

(いやいやいやいや、ちょっと待った)

カレンは思考を戻した。
以前、人さらいは子供や若い女を狙うのだと聞いた事がある。
さらう時に力でねじ伏せやすく、買い手もつきやすいから、と。
この村には子供も若い女もほとんどいないというのに、それを狙ったりするものだろうか。

(違うかなあ、やっぱり)

カレンは父親の姿を思い出し、内心首を横に振った。
カレンの父親は熊のようとまではいかないが、かなり大柄な男だ。
それが簡単にさらわれるところなど、想像できない。
人さらいと断定するのは無理があるだろう。

(お父さん……)

父親のことに思いをはせると、どうしても悲しくなってしまう。
鼻の奥にツンと痛みを感じて、カレンは思考の矛先を変えた。

あの人物は一体どこへ行ったのだろう。姿を見失って以来、一度も見ていない。
こんな小さな村に、身を隠す場所があるとは思えない。
こちらの動きを把握していて、見つからないように逃げ回っている可能性がある。
何故逃げ回るのだろう。
非常事態なのだから、人を見かけたら真っ先に助けを求めてきそうなものだが。

(どうして……?)

「カレン、聞いてる?」
「ふえっ!?」

いきなり肩に手を置かれ、カレンの体がびくっと跳ねた。

「ずいぶん考え込んでいるようだけれど、どうしたの? 具合が悪いなら遠慮しないで言って頂戴」

クララが顔を近づけ、じっと見つめてくる。
吐息がかかりそうなほどの距離に、カレンは一気に緊張した。

「ち、違うわよ。その、さっき見た人、全然見かけないなって思って」

さりげなく離れながら、カレンは答える。
怪しまれない程度に、常に距離を置いていたかった。
そうでなければ安心していられない。

「さっき……ああ、逃げた奴のことね」

クララの片眉がぴくりと動く。

「……なんで逃げたのかな」

ごまかすつもりで、カレンは疑問を唇に乗せた。
クララがこの話に乗ってこなくても、別に構わなかった。

「見つかると不都合なことがあるから、でしょうね」

クララはほっそりした指をあごにかけ、話に乗ってきた。

「単純に考えると、犯人に協力している人物ってところね」

カレンは首をかしげる。

「犯人じゃないの?」

そう、もっと単純に考えればそうなるはずだ。
犯人ならば、逃げ隠れする理由も明解である。

「まさか。小さいとはいえ一つの村をこんな風にしたのよ。計画を緻密に練り上げられる頭と、気付かれずにことを運ぶ慎重さがあるはずだわ。そんな奴が、小娘に見つかるなんてへまをするもんですか」

クララは小さく首を左右に振る。

「そうでなければ、犯人を見た村人でしょうね」
「村の人!?」

カレンはそれらしい人物がいないか、脳内をめまぐるしく回転させて考えた。
ぼろ布をかぶっていたせいで、大柄ではないという以外に絞り込む要素がないのが辛い。

「必死で命乞いをして、見逃してもらったんでしょう。その代わり、犯人に脅されているのかもしれないわ。自分のことをしゃべったら殺す、とかね」

なんだか他人事とは思えない。
夕べ、ミミズを食う様を見た事がクララに知られたら、自分も同じ脅しをされるのだろう。
そう思うと、カレンは妙にあの人物に同情してしまう。
犯人側かもしれないというのに。

「しゃべったら殺すって、そんなの無理だよ。犯人が四六時中見張ってるわけじゃないもん、できっこないよ」

半分以上は自分に言い聞かせるつもりで、カレンはそう言った。
すると、クララが目を伏せた。

「……脅される方は、そう考える余裕なんて無いのよ」

ひどく悲しげな様子だった。まるで経験があるかのような、そんな言い方だ。

(クララ……?)

カレンは何を言えばいいのかわからず、クララの顔をそっとうかがい見た。
――クララに対して、初めて恐れや驚きといった感情以外のものを抱いた瞬間だった。

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