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zoom RSS カルネ村にて 9

<<   作成日時 : 2013/05/04 14:27   >>

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(悩んでても、仕方ない)

クララに手を引かれながら、カレンはもう一度強く息を吐くと、顔を上げた。
今さら思い煩ったところで、どうにもならない。
「やめろ」と振り切って拒絶する勇気もない者は、状況に流されるのが常なのだ。

カレンはちらりとクララの横顔を見る。
幸い、今のところ危害を加えてくる様子はない。
ならば、こちらはこちらの目的を果たすだけのことである。
三ヶ月以上も会っていない、ここにいるはずの父親を探すこと。それだけを考えていよう。

「カレン、カルネ村にはよく来るの?」
「時々……そんなにしょっちゅうじゃないよ」

村には小さな雑貨屋があり、必要な物がある時に買い出しに来ているのだ。
盛んに交流があるとまでは言えないが、それなりに知り合いもいる。
どうせなら村に引っ越してしまえば良さそうなものだが、カレンの両親はどうしてか首を縦に振らない。

「そうなの」

クララが足を止め、振り返る。
何事かとカレンが構えていると、クララは小首をかしげてこう言った。

「ねえ、これって、いつものことかしら?」
「……は?」

一体何のことだ。
カレンはけげんな顔をする。
すると、クララはつないでいた手を離し、数歩進んで両手を広げた。

「いつもこんな風に静かなの? この村の人は日中に外へ出ないものなの? この村には犬も猫もにわとりも、野鳥の一羽すらいないの?」

言われて、カレンはようやく気付いた。
確かに静か過ぎる。
いくら寂れた村とはいえ、日の高い時間に誰も出歩いていないのはおかしい。
おまけに、よく見ればどの家の煙突からも煙は上がっておらず、煮炊きする匂いもしない。
動物の鳴き声は一切聞こえず、川のせせらぎ以外に何の物音もしない。
今のカルネ村からは、生き物の存在が全く感じられないのだ。
これを、果たして正常と呼べるだろうか。

「変よね?」

クララの問いかけに、カレンはうなずいた。
『いいかい? 何かあったら深入りしないで、すぐ戻ってくるんだよ』――母親の言葉を思い出す。
その、何かあったら、というのはまさに今の状況だ。

「お父さん……」

カレンは顔を上げ、村のあちらこちらに視線をさまよわせる。
この異常な状況下で、父親は一体どうしているのだろう。
どこかに無事でいるのだろうか。それとも――。

(そんなの、やだ!)

カレンは悪い想像を頭から追い出した。

「お父さん!」

カレンは大声を張り上げた。
村のどこかにいるかもしれない父親に届けとばかり、懸命に声を張った。

「お父さん、どこ!?」

無事でいて欲しいとは願っているし、何よりそれを望んでいる。
だが、もし父親が大ケガをしていて、誰かの助けを必要としている状態だったら。
虫の息だったら。今にも死にそうだったら。

そう思うと、いても立ってもいられなかった。

「お父さん、私だよ! カレンだよ! 聞こえてたら返事して! 何か答えて!」 

――返事はない。
いくら耳をすませても、物音も、人の声も聞こえてはこなかった。
カレンの声は、村の中で空しく響くのみ。

(なんでこんなに静かなのよ! なんで答えてくれないのよ! 誰かいないの!?)

村を覆う静けさにいら立ちながら、カレンは一番近い家のドアを叩く。

「すいません! 誰かいませんか!?」

父親のことが心配で、もうじっとしてなどいられなかった。
何か行動を起こさなければ、頭がおかしくなりそうだった。
放っておけば村中の家のドアを叩いて回ることぐらい、やりかねなかっただろう。

「カレン、落ち着いて」

ドアを叩くカレンの手を、クララが両手でつかむ。

「落ち着いてられるわけないでしょ!」

その手を乱暴に振り払ってから、カレンは我に返った。
クララが、振り払われた時の姿勢そのままに目を丸くしている。

カレンは目をそらし、次いでドアに額を押し付けた。
何をやっているのか。これではただの八つ当たりである。
昨日出会ったばかりの、それもおそらく年下らしい少女に八つ当たりとは情けない。
たとえ、夜中にミミズを食らうという得体の知れない相手であっても。

「……ごめん……」

自己嫌悪で顔を上げられない。
泣いている場合ではないのに、涙が浮かんでくる。
このまま消えてしまいたい、とさえ思ったその時、土を踏みしめるかすかな足音が聞こえた。

(誰かいる!)

弾かれたようにそちらを見る。
すると、ぼろぼろの布をかぶった人物が向こうの家の陰に駆けて行くのが見えた。
ここからずいぶん離れているため、どんな顔は定かでない。
ただ言えるのは、カレンの父親ではないということだ。
その人物はカレンの父親とは違い、あまり大柄ではなかった。

「誰かいるのね」

クララのつぶやきを聞き流し、カレンはその人物の後を追いかけた。
その人物が、父親のことを何か知っているかもしれないのだ。
見失うわけにはいかない。

「待って! 聞きたいことがあるの!」

そう呼びかけ、人物を追う。
だがその人物は呼びかけに振り向きもせず一目散に走り去り、とある家の陰に回りこんだ。

「待ってってば!」

カレンはその家の陰に踏み込む。
しかし、そこに人の姿はなかった。
素早く辺りに目を向けるが、周囲はしんと静まり返っていて人気など感じられない。

カレンは立ち尽くしながら、走って乱れた呼吸を整えようとした。
呼吸はなかなか整わなかった。
カレンが今にも泣き出しそうな顔で、息を震わせていたから。

(何か、わかると思ったのに)

どうしてあの人物は逃げたのだろう。
聞きたい事があったのに。それも、切羽詰った、人の命がかかった事なのに。
父親の手がかりが遠ざかったと思うと、言いようのない悲しみが鋭い剣のように体を突き刺す。

「……カレン」

いつの間に追いかけてきたのか、クララがカレンの背中にそっと手を当ててきた。

「しらみつぶしでも、村の中を探してみましょう。きっと、他にも手がかりはあるわ」

唇を必死にかみしめて、カレンはうなずくしかなかった。

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