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zoom RSS カルネ村にて 7

<<   作成日時 : 2013/04/20 20:44   >>

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カルネ村に続く道はわき道など一つもなく、ひたすら前進していれば間違いなくたどり着ける。
要するに迷う心配はないのだ。わざわざ道を外れでもしない限りは。

そんな道を、カレンは顔を引き締めて黙々と歩いた。
頭にあるのは、とにかく早く済ませてしまいたいという感情、それだけである。
とにかく、クララを村まで案内さえすれば、この妙な緊張状態は終わるのだ。
そう思うと、カレンの歩みは自然と大股で足早なものになっていく。

「カレン」

その結果、案内する相手であるクララが徐々に離されてしまうとしても。

「カレン、待ってちょうだい」

ざくざくざくざく、カレンは容赦なく歩みを進める。
その様は、何か……恐ろしいもの、避けたいものから早足で逃れようとする人間のそれだった。

「カレンったら」
「うひゃああ!?」

クララが駆け寄り、薄手のシャツに包まれたカレンの腕をつかんだ。
カレンはびくんっと震え、すっとんきょうな声を上げた。
彼女にしてみれば、視界に突然人が現われたも同然だった。

「カレン、どうしたの?」

クララが不思議そうに首をかしげ、カレンを見つめる。
 
「ま、待って、し、心臓が、心臓が」

びっくりして一気に跳ね上がった鼓動が、心臓を激しく動かした。
こんなに驚いたのは、ずいぶんと久しぶりのことだ。
カレンは自由な方の手を突き出し、言外に「離れてくれ」とクララに訴えた。
まずはこの心臓を落ち着かせなければ、会話もままならない。

「あら、大丈夫?」

クララはきょとんとした顔でカレンを見る。
言外の訴えには気付いていないようで、離れてはくれなかった。

「い、いきなり腕をつかまれた、ら、普通はびっくり、するわよ」
「でも、カレンったらどんどん先に行ってしまうんだもの」

クララがふっと目を伏せる。
みるみるうちに目がうるみ出し、同時に周囲を縁取るまつげが震え、悲しみの表情を色濃いものにする。

(う……確かに)

ものすごい罪悪感がカレンを苛んだ。
そもそもカレンが置き去りにしかねない勢いで歩かなければ、クララだって駆け寄る必要はなかったのだ。
ついでに腕をつかむことも。

同時に、美少女という存在のすごさを思い知る。
仮に、カレンとクララが同じように悲しい表情をしたとして、より人の胸を締め付けるのは間違いなくクララの方だろう。
その美しさの裏に、得体の知れない恐ろしさを秘めていることを知らなければ。

「それは……ごめん……」

ようやく落ち着いてきたカレンは、一言ぼそりと謝った。
そうすることで、ほんの少しだけ、胸につかえた罪悪感が薄れた。

「なら、もう置いていったりしないでね」

一転してクララが微笑む。
カレンはどう返事をしたらいいのかわからず、「ああ、はいはい」とばかり、うなずいた。

「そうだわ、手をつないで行きましょう。そうすれば安心だわ」

妙案、とばかりクララが明るい声を上げた。

「ええええっ!?」

再びすっとんきょうな声を上げてから、カレンは「しまった」と焦った。
口を覆い、視線をそらす。
今の声は驚き戸惑ってというより、嫌悪から上げたような声色だった。

(どうしよう)

しょせん、相当な才能でもない限り、本音をごまかし続けるのは無理があるのだ。
本音というのは、不意をついて出てしまうものである。

「……嫌なの?」

クララが再び寂しげな表情を浮かべる。
カレンは言葉に詰まった。
はいそうです、とはとても言い出せない。

「そ、その、子供じゃあるまいし、手をつなぐなんて……」

それでもおそるおそる、やんわりと拒否を試みる。
先ほど上げた声を、なるべく別の、穏便な意味合いに持っていけるように気をつけながら。
この時、顔が赤くなってくれたのは幸いだった。

「恥ずかしいの?」

クララがそう解釈してくれたのだから。

「あ……う、うん、まあ、なんていうか、そりゃ……」

もごもごとつぶやきながら、うつむく。
本当はそうじゃないけど、と内心でつぶやきながら。

「気にしなくてもいいのに」

ぎゅ、とクララが手をつないできた。
カレンは息を飲んだ。
血が通っているとは思えないほど、その手がひどく冷たかったからである。

「カレンの手、温かいのね」
「いや、そっちの手が冷たいんじゃ……」

まるで、真冬の最中にずっと外にいたか、直前まで冷たい水にひたしていた手の温度である。
これほどの冷たさは、辛い。普通は痛みを感じるはずだ。

「そう? わたし、自分の手が冷たいなんて、ちっとも気付かなかったわ」

それなのに、クララは平然としている。
普通ではない。
今さらながら、カレンはそのことを実感した。

でも今は、そんな風に疑っていることを悟られるわけにいかない。
その意見に賛同してくれる者も、事態打破のために協力してくれる者もいない今は。

「そ、それじゃ、行こっか」

ぎくしゃくとした足取りでカレンは歩き出す。
クララと手をつないだことが、拘束されたように思えてならない。

(村に着くまで、村に着くまでの辛抱だ、私!)

とにかく村に着けば、この異様な緊張状態からは逃れられる。
自分に向かって必死に言い聞かせるカレンだった。

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