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zoom RSS カルネ村にて 6

<<   作成日時 : 2013/04/13 21:17   >>

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朝食を済ませると、カレンは簡単な荷造りをした。
特に何事もないとは思うが、念のため応急処置に使える物を持っていくべきと考えたのだ。
傷薬や包帯、ハンカチ、簡単な裁縫道具を肩掛けカバンに突っ込み、玄関のドアを開ける。
玄関の外には母親とクララがいて、他愛もない世間話をしていた。

「えっと、お待たせ」

おずおずと声をかけると、クララはこちらを向いて微笑んだ。

「あらカレン、もう良いの?」
「う、うん」

カレンはぎこちない笑みを返した。
夜中に見たものを思い出すと、どうしてもクララに向ける眼差しは様子をうかがうようなものになってしまう。
今浮かべているこの微笑だって、人をあざむくためのものかもしれない、と。
だが、そういう目で見られていると悟られたら、どうなるだろう
少なくとも良い感情は得られまい。ことが穏便に済まない場合は、言わずもがな。
そんなわけで、当たり障りのない態度を取るカレンだった。

「ほら、これも持ってお行き」

母親が、白いハンカチで包んだ物を手渡す。

「なあに? これ」

開いてみると、そこには母親のお手製とわかるビスケットが数枚入っていた。
カレンは、少し渋い顔をしてそれを眺めた。
ビスケットというのは固いのが当たり前なのだが、カレンの母親が作る物は通常の固さではない。
母親いわく、「うちはミルクや紅茶に浸して食べるんだから、それでいい」のだそうだ。
できればそのままで食べたいカレンとしては、このビスケットはどうも好きになれない。

「いらない」

ゆえに、カレンはずい、とビスケットを母親に突き返した。

「何言ってんだい、向こうの村に着く頃には小腹が空いてるよ」
「いい。いらない」
「いらないって、お前ねえ」
「だってこれ嫌いだもん」

母親なりに気遣ってのことだろうが、それでも嫌いなものは嫌いなのだ。
その場はおとなしく受け取って、こっそり処分してしまえば良いのだろうが、あいにくそこまで機転がきかない。

「あの」

そこへ、クララが口を挟んだ。

「カレン、ありがたくいただいていきましょ。お母様の気づかいを無下にしちゃいけないと思うわ」

そう言って、クララはカレンの手からそっと包みを取り上げた。
ほんの一瞬指先が触れて、カレンは驚いて固まる。
クララはカレンの反応を知ってか知らずか、涼しい顔でビスケットをきれいに包み直している。

「まったくだよ。親の心子知らず、ってやつだ」

母親が得意げな顔でカレンを見た。
きっと、彼女の中はクララに対し「よくできた娘さん」とでもいったところの印象を抱いたことだろう。
カレンは、むすっとした顔でクララの横顔を見つめる。
気心の知れた仲だからこそ、嫌いな物を嫌いとはっきり言ったまでのことなのに――そう思うと納得いかないところはあった。

「はい」

微笑みとともに、きれいに包み直されたそれが差し出される。
おとなしく受け取ってカバンにしまい、ついでに肩掛けのひもをかけ直しながら、カレンは、もしビスケットを食べることになったら全部クララにあげようと思った。
そうすれば、突っ返したくなる気持ちをわかってくれるだろう。

「それで、だけど。いいかい? 何かあったら深入りしないで、すぐ戻っておいでよ」

母親はカレンの両肩に手を置き、真剣な面持ちでそう言った。

「大丈夫だよ、心配しないで」
「心配しないでって、そりゃ無理だよ」

母親がため息をつき、小さく頭を振る。
カレンはむっとした。
もしや母親は、以前転んだ時の話を蒸し返すつもりだろうか。

「転んで泣いた話はもういいでしょっ」
「それだけじゃないだろ。洗濯物が木に引っかかった時のこと、忘れたのかい」
「あ、あれはシーツを踏んづけたから……」

カレンの言葉に勢いがなくなる。
あれは、昼過ぎから強い風が吹いた日のことだった。
このままじゃ飛ばされる、と洗濯物を慌てて取り込んだまでは良かったが、シーツを踏んづけてすっ転んだ拍子に何枚か飛ばされてしまったのだ。
飛ばされた洗濯物は近くの木の枝に引っかかってしまい、回収するのに大変な苦労をした。
回収したものは、もちろん洗い直しである。

(うう……)

思い出して落ち込むカレンをよそに、母親はクララの方へと顔を向ける。

「うちの娘じゃあんまり役に立たないかもしれないけど、まあ、道案内ぐらいは問題ないさ。面倒見てやっておくれ」
「お、お母さん」

道案内するんだから、面倒を見るのはこっち側――とカレンは言おうとしたのだが。

「ご心配なく。娘さんはきっと、無傷で帰してさしあげますから」

クララがふふふ、と笑ってそう返したので口をつぐんだ。
大して親しいわけでもないのに食ってかかるのも変だし、そのせいで不興を買っても大変だ。
どうせ村に着いたらお別れする間柄なのだから。
そう思うと、やはり大人しくしているのが一番なような気がする。

「それじゃ、行ってきます」
「お世話になりました。お元気で」

カレンは手を振り、クララは母親に頭を下げ、カルネ村へ続く道を歩き出した。

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