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zoom RSS 魔女の住まう森 16

<<   作成日時 : 2012/12/01 20:07   >>

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泣き出したメグの背中をぽんぽんと軽く叩きながら、ピートはうつむいた。
ひどく疲れを感じる。
気を緩めるわけにはいかない状況だが、物を考えるのがおっくうでたまらなかった。

メグのことが、うらやましく思えてくる。
まだ小さいから。兄がいるから。その理由で、彼女はただひたすら泣いていられるのだ。
泣いていたって、誰かが手を引いてくれるから。どうにかしてくれるから。

(でも、僕は)

両親はすでにこの世になく、唯一便りにできる祖父も今はこの場にいない。
おまけに小さな妹がいるから、自分のことばかりでくよくよ泣いてもいられない。
――誰かに頼りたい、という気持ちがこみ上げる。
メグのように、自分は悲しさや辛さを存分に吐き出しながら、誰かの手に導かれていたい。
誰かに泣きつきたい、とピートは思った。

「……来たんだね」

唐突に聞こえた老婆の声に、ピートはびくりと身を強張らせた。
おそるおそる声のした方へ視線を向けると、いつの間にそこにいたのか、老婆が巨木の根に腰を下ろしていた。
地面についた杖に両手を乗せ、こちらを見ている。

(見つかった!)

ピートの額に、冷や汗がにじむ。
いよいよ、謝り倒す時が来たようだ。
ピートは緊張した面持ちでメグを後ろに隠し、向かい合う。

「おばあさん」

落ち着くために吐いた息が、震える。

「僕、メグのことが心配だったんです。熱を出して心細いだろうって、だから、会いに来たんです。ごめんなさい」

怒鳴り声が飛んでくるか、それともねちねちと嫌味を言われるのか。
どちらにせよ、覚悟の上だ。あとは耐えるのみ。
ピートは、しわだらけの老婆の顔をじっと見つめた。

「あんた、いつ、ここへ来るドアに気付いたんだい?」
「……すみません」

固い声と表情で、ピートは詫びる。

「早とちりしておいでじゃないよ。あたしは怒っているんじゃないんだから」

老婆は、杖の上に老いた手の甲を、反対の手で叩く。
言葉に偽りはないようだ。
いたって静かな口調の上、口元には笑みさえ浮かんでいる。
ずっと仏頂面だった老婆が、怒り以外で初めて見せた、表情の変化だ。
その微笑が、どうしてかピートの目には不気味なものに映った。

「あのドアは、ちょいと特別なドアでねえ。ただの人間じゃ、どんなに力をこめても開けられないようになってるのさ。それに、壊すこともできないし、燃やすこともできない特別製だ。開けられるのは、あたし――それと、あたしと同類の奴だけ」
「あの……?」

一体何が言いたいのだ。
戸惑いながら声を上げたピートは、次に老婆が発した言葉に耳を疑うこととなる。

「おめでとう。あんたはあたしと同類になったんだ。これから、仲良くやっていこうじゃないか」
「同類……!?」

ピートは目を丸くした。
それはどういう意味なのだろう。あまり良い意味ではなさそうだが。

「そうだねえ……あんた、昼寝の最中、妙な植物の夢を見なかったかい?」

言われてピートは思い出す。
昼寝でもしていろと言われて戻った部屋。いつの間にか寝入っていて、気がついた時には……。

「見たんだろう? 植物が、あんたの体の骨を少しばかりいただいていったのをさ!」

どこか嬉々とした老婆の声が、記憶を呼び覚ます。
同時に、強烈な嫌悪感が体を突き抜けた。

(思い出したくないっ!!)

ピートはとっさに、両手で耳をふさいだ。
――後ろにかばったメグから、手を離して。
だからといって、老婆の声が完全に聞こえなくなるわけでもないのだが。

「あれは夢じゃないのさ。その骨は入れ替えられたんだよ――この木の枝とね」

木の枝。
ピートは顔を上げ、巨木から伸びた枝に目をやる。
あれが、左の二の腕に入っているという。
だから、妙なあざや突き出た部分があるのだろうか。

「おや、知らなかったのかい? 最後まで意識が持たなかったようだねえ」

老婆がのどの奥で、くつくつと笑っている。

「この木は、人間の世界ができた頃からある、特別な力を持った木だ」

巨木の幹を手の平でさすり、老婆は言う。

「この木に選ばれた人間だけが、体の骨の一部を入れ替えられて力を手に入れられる。人の世で言うところの、魔女になるのさ」
「じゃ、じゃあ、僕は」
「大方察しはついただろ。今のあんたはあたしと同じく、この木の力を持ったってことだ。まあ、女の方が選ばれやすかったから魔女って言われているだけで、男が力を持ったって不思議じゃないよ」

ピートは耳から手を離し、自分の手をじっと見た。
ところどころにたこができ、つぶれた豆の跡と生傷だらけの手を。

魔女などという、絵本の中でしか知らなかった存在――得体の知れないものになったと言われても、現実感はない。
これまでに不思議な力を使った覚えはないし、今までと違う感覚があるわけでもないのだ。
老婆の頭がおかしくて、妙なことを口走っていると言われた方が、よほど信じられた。

老婆が、緩慢な動きで立ち上がる。
近付いてくる、と思うと、ピートの中に警戒心が生まれた。

「お勤めご苦労さん。小屋にお戻り」

ちらりとクックを見、老婆は「行け」とばかり手を振る。
クックはピートの足元で目を閉じたまま、うずくまって返事をしなかった。
これが何を指すか、ピートはたちまち理解した。

「クック……どういうこと……?」

それでも、ピートは震える声で尋ねていた。
もしかしたら自分の早とちりかもしれない、という思いがそうさせたのだ。
あるいは、そうであって欲しい、という願望が。

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