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zoom RSS 魔女の住まう森 11

<<   作成日時 : 2012/10/27 19:18   >>

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ぱさ、というかすかな音で、ピートは我に返った。
気付けば、手に持っていたはずの紙切れは床に落ちている。
ため息と共に紙切れを拾い上げ、ベッドに座り直す。
そして、書かれていた文章の意味を思った。

魔女とは、誰のことだろう。
ただの炎では死なない魔女。
その魔女を滅ぼすには、異界の炎とやらを用いねばならないという。
真偽のほどはさておき、何故こんな物がここにあったのだろう。
一体誰が書き記したのだろう。
そして、この紙切れの持ち主は?

(……あの人じゃ、ないんだろうなあ)

ピートは紙切れを見つめつつ、思う。
何となくだが、紙切れの字は、あの老婆のものとは思えない。
見れば見るほど、男性的な字体なのだ。
おそらく誰かの持ち物だったか、誰かが書いて老婆に渡したか、そのどちらかだろう。
となると、今度はその「誰か」が誰なのかという点が気になるところだが。

ピートは紙切れを元通りにたたみ、上着をたぐり寄せてマッチと同じポケットに入れた。
持ち物をバラバラにしておくと、後々必要になった時に使えなかったり、置き場所を忘れて探す羽目になったりする。
悠長に取りに行けるうちは良いが、そうではない場合、大変なことになってしまう。
だから、ピートは持ち物を一つにまとめる癖を身につけていた。

紙切れのことは一旦忘れ、ピートは上着を片手にもう一度、部屋の中を見渡す。
やはり、上着をかける所はなさそうだ。
あきらめて上着をベッドのすみに置き、ピートは息を吐いて頭を抱えた。
髪に指を差し入れ、乱暴にかき上げる。
おじの家にいる間、ろくに手入れもできなかった髪は指通りが悪い。
ところどころで引っかかって、痛みが走る。
このところ、己の身なりを省みる暇はなかった。
そのため、今の自分がどんな有様なのか、さっぱりわからない。
おそらく顔色の悪い、ぼさぼさ髪のみすぼらしい姿なのだろうな、とちらりと思った。

そのうちに、次第に思考がぼやけてきた。
ここ最近の労働量に比べればずっと少ないはずなのに、何だかやたらと眠くてたまらない。
慣れない場所での労働だから、普段以上に疲れたのだろうか。
うつらうつらと眠気に引きずられ――ピートの意識は混濁していく。
いつ自分が眠ったのか、などということは、もはや覚えてさえいなかった。

――気がついたきっかけは、足の震えだった。
びくん、と跳ねるように動いたのだ。
うたた寝にありがちな体の動きか。
ピートは小さくうめきながら、目を開く。

そして。

(何だろう、これ……?)

鼻先に、妙な物体が迫っているのを見た。
今朝自分を起こし、薪割りの手伝いをした植物のつるに似ているが、茶色くて表皮が厚く、まるで枯れ枝のような物体。
何でこんな物が目の前に、といぶかしんだその瞬間、それは蛇のように動いた。

「ひっ……!」

思わず顔を引きつらせ、息を飲む。
人間は本能的に蛇を、あるいはそれに似た形、動きをする物を嫌う。
ピートもまた、それに対して強烈な嫌悪感を抱いた。
振り払おうとして、腕が動かないことに気付く。
腕だけではない。足も動かない。立ち上がることさえ……いや。
ベッドに腰かけていたはずのピートは、いつの間にか立ち上がった体勢のまま、動けなくなっていた。
奇妙なことに、両手をいっぱいに広げて。

(どうして? だって、僕は……)

必死に記憶をたぐりよせる。
自分は、ベッドに腰かけてうとうとしていたはずだ。
ならば、座ったままか寝転がっているかのどちらかのはず。

……何かがおかしい。
ピートは見開いた目を、そのまま己の体に向けた。
そして、自分の体が足先から手の先まで、枯れ枝に締め上げられているのを見た。
その様は、捕食者が捕らえた獲物を逃すまいとしているかのようだった。

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