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<<   作成日時 : 2012/07/21 13:41   >>

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昔、ある夫婦に娘が生まれた。
夫婦の暮らす町では、生まれた子供を魔法使いに見てもらう風習があった。
子供が不幸にならないためにどうすれば良いか、教えてもらうのだ。
魔法使いは、その人の一生を一度だけ見る事ができるという力を持っていた。

夫婦はさっそく魔法使いを呼び、娘を見てもらった。
魔法使いは娘を見ると、さっと表情をくもらせ、黙り込んだ。

「あの、どうかしましたか」

もしや、どうやっても避けられない不幸でも待っているのだろうか。
母親は不安に怯えながら魔法使いに尋ねた。
魔法使いはそれでもしばらく黙っていたが、やがて、こう告げた。

「この子を不幸にしたくないのなら、人気のない山奥に移り住むのだ。決して鏡を見せてはならぬ。また、川や泉にも近づけぬこと。わかったな?」

何とも奇妙なお告げではあったが、魔法使いの言うことだからと夫婦は従うことにした。
山奥に引越し、鏡を全て捨て、川や泉には近寄らせずに育てた。
娘はすくすく育ち、家の裏の畑で野良仕事を手伝ったり、編み物をこさえて父親に町で売ってもらって家計の足しにしたりした。

そうして、娘が十五歳になったある日、両親がそろってまきを拾いに行った。
最近天気の悪い日が続いていて、まきが底をつきかけていたのだ。
森には川があり、近付けるわけにはいかないからと、娘は留守番である。
娘が野良仕事をしていると、見知らぬ男に声をかけられた。
黙っていても気品のある、立派な馬にまたがった、二十は年上とおぼしき男である。

「娘よ、お前はこの家の者か」
「は、はい」
「すまないが、水をもらえないか」

娘はうなずき、家に戻ってコップに水を入れ、男に手渡した。
水を飲み干した後、男と娘はしばらく話をした。
男の方は自分の事をほとんど話さず、娘のことを色々と尋ねた。
いつからここに住んでいるのか、両親はどんな人間か、どんな風に一日を過ごしているのか、など、他愛の無い内容だ。

「こんな山奥に若くて美しい娘がいるとはな。王都にも、そなたほどの娘はなかなかいるまい」

魔法使いの言葉に従う両親の計らいで、娘はこれまで鏡や水面に映る己の姿を見たことがなかった。
だから容姿のことをほめられても、きょとんと男を見つめ返すばかりだ。
男は、そんな娘を見て小さく微笑み、去っていった。

その一月後、男が再び娘を訪ねてきた。
しかし今度は王冠をかぶって着飾り、大勢の従者を連れていた。
なんと、あの男は国王だったのである。
夫婦が娘と共に山奥へ引っ越して間もなく、王位を継いだらしい。

王は娘を気に入ったと言い、妻にしたいと夫婦に告げた。
王妃になれば、今後の人生は保障されたも同然である。
夫婦は大喜びで娘を送り出した。

「そうか、魔法使いが山奥へ行けなんて言ったのは、こんな理由だったのか」
「山奥で王様に見初められるなんてね。人生ってわからないもんだねえ」


一方、その知らせを聞いた魔法使いは喜ぶどころか、ひどく取り乱していた。

「おお、何と言うことだ! 運命からは逃れられぬというのか!?」

まだ赤ん坊だった娘を見た時、魔法使いには、その未来が見えたのだ。
夫婦の娘が町で育った場合の未来が。

夫婦の娘は成長すると、美しさで名を知られるようになる。
その噂は町の中だけにとどまらず、やがて王宮にも届く。
噂を耳にした王は娘を所望し、気に入って妻にする。
しかし、その美しさに王は夢中になり、政治を放り出すばかりか、国庫が空になるほど貢ぎ始める。
いさめる者は処刑され、ごますりばかりのずるい者が生き残る。
娘の一族は取り立てられ、権力をかさに甘い汁を吸い、国を腐らせていく。
国民は搾取され尽くし、飢えと乾きに次々と死ぬ。
やがて耐えかねた者達がクーデターを起こし、娘を捕らえると「国王をかどわかした悪女め」と民衆の前で首をはねる――。

だが、娘を授かって喜ぶ夫婦に「この娘は国に災いを招く」とは言えない。
そのため、美しさが噂になって広まらないよう、できるだけ人里から遠ざけるべく山奥へ行けと言ったのだ。
鏡を見せるな、川や泉に近づけるなと言ったのは、己の美しい容貌を自覚して飾り立てたりしないようにするためである。
そうすれば、王に見初められずに済むかもしれないと思っていたのだが……。

「いや、しかし……あの時見たのは町で育った場合の未来だ。山奥で育った場合の未来は……」

今後訪れる未来が、少しでもましなものであることを、魔法使いは願わずにいられなかった。

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