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zoom RSS ある人魚

<<   作成日時 : 2011/10/22 18:20   >>

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昔、ある人魚がいました。
人魚は美しい顔立ちに豊かな金色の長い髪、雪のように白い肌、笑えば鈴の転がるような可憐な声の持ち主でした。
その愛らしさときたら、一目見ただけで誰もが恋をするほどでした。
そればかりか、人魚には珍しく魔法の才能にも恵まれていて、きっと、彼女は人魚族の王子様にめとられるのだろう、と周りは予想していました。

ですが、人魚が選んだのは魔法使いの人間でした。
以前、陸地近くまで遊びに行った時、たまたま砂浜に来ていた魔法使いに出会い、すっかりとりこになっていたのです。
恋人にするなら、同じように魔法の使える相手がいいと考えていた人魚にとっては、まさに理想の相手でした。

「おやめなさい、人間なんて」
「あいつらはろくなものじゃないよ。裏切られて傷つくだけだよ」

周囲の止める声も、人魚を止めることはできませんでした。
人魚は魔法で自分の尾びれを二本の足に変え、魔法使いのもとへと行きました。

しかし、人間になった人魚を待ち受けていたのは、甘い生活などではありませんでした。
魔法使いは初めから、人魚のことを魔法の実験台としか見ていなかったのです。

人魚は逃げ出せないように檻の中に閉じ込められ、来る日も来る日も辛い目に遭わされ続けました。
わけの分からない薬を飲まされたり、新しく生み出した魔法を試されたり。
いずれも傷を癒したりするような種類のものではなく、相手にひたすら苦痛を与えるのが目的のものばかりでした。
あるいは新しい魔法が生み出せず、いら立った魔法使いに殴られ蹴られもしました。
最初のうちは「やめて」と言い、泣きわめきもした人魚でしたが、そのうち声も上げなくなりました。

何を言っても実験をやめることはないし、泣けば魔法使いがさらにいら立つと悟ったからです。

ある時、魔法使いは人魚の体から肉を切り落とし、煮込んで食べました。
魔法使いは、東方の国では人魚の肉が不老不死の薬として使われていると聞き、試したのです。
しかし、期待したような効果がないと知るや、彼は残っていた肉を犬に投げ与えました。
全て、人魚の目の前で行われたことでした。
それでも、人魚は黙りこくったままでした。
胸の奥の方で、何かが音を立てて壊れるような音を聞いた気はしましたが。

そんな日々の中で、人魚は一つずつ、色々な物を失っていきました。
豊かな金色の髪はあらかた抜け落ち、白い肌はどす黒くしわだらけ、しみだらけとなり、声も枯れ果てて、まるで老婆のように変わり果てたのです。
衰弱しきったせいでしょう、魔法はいつの間にか解けて、足が尾びれに戻っていました。
人魚を見た魔法使いは、もう用はないとばかり人魚を海に投げ捨ててしまいました。

生まれ故郷である海は、深く傷つき死にかけていた人魚の体を優しく包み込みました。
長い長い時間をかけ、やっとの思いで我が家に帰り着いた人魚は、泣いて泣いて泣き暮らしました。
以前は見るのが楽しかった鏡も、今や恐ろしい風貌を映し出すばかりです。
家にある鏡という鏡を叩き割り、人魚はまた泣きじゃくりました。

人間に恋をしたばかりに、取り返しの付かないことになってしまいました。
誰もが可愛い、美しいと誉めそやした自分はもういないのです。
魔法使いの愛情を得られなかったことは悲しいし辛いけれど、それよりずっと辛いのが、この変貌ぶりでした。
本当に何もかも、失ってしまったのです。
頭に手をやっても、つややかな髪に触れることはありません。
撫でさする肌はがさがさしていて、声も別人のようです。

こんな醜い老婆のようになった自分を見て、一体誰が以前のように接してくれるでしょう?

(できることなら、以前の体に戻りたい。美しい自分に戻って、全てをやり直したい)

そのためには、一体どうしたらいいのでしょう?
考え込んでいた人魚は、ゆっくりと頭をもたげました。

(そうだ、私には……まだ、魔法が残っている!)





ある人魚が魔法使いの人間に恋をした、あの日から長い年月が経ちました。
人間に恋をしても不誠実な結果に終わる……周りの声に耳を傾けず、恋心の募るままに地上へ行こうとする人魚の少女は、相変わらず、現れました。
彼女達は魔法を使える人魚の元を訪れ、「人間になりたい」と頼みました。
人魚は彼女達から、報酬としてそれぞれが持つ美しいものを取り上げました。
ある者からは、ガラス玉のようなきれいな青い瞳を。
ある者からは、形の良い爪を。
ある者からは、ふっくらとしたばら色の唇を。

そうして。

人魚はくすり、と笑みをもらしました。
その声はもう、以前のかすれたものではありません。
何より、あらかた失われたはずの金色の髪が、今は身の丈ほどの長さになって垂れています。
末の姫の美しい声。姉姫達の美しい金色の髪。
人魚族の姫達から取り上げた物が、今、自分の物になったのです。

他の人魚達から美しいパーツを選りすぐって集め、魔法で自分の体に取り込む。
それが、人魚の選んだ「やり直し」の方法でした。
この方法なら、以前のような美しい体に……いいえ、以前より美しくなることも不可能ではないでしょう。

次は何が得られるだろ。
できることなら、雪のように白い、美しい肌の子が来てくれればうれしいのだけど。

「うふふ……」

魔女と呼ばれ恐れられる存在となった人魚は、鈴の転がるような笑い声を上げるのでした。

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