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zoom RSS 絞首台の奇跡

<<   作成日時 : 2011/09/16 13:47   >>

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昔、あるところに一人の若者がいた。
若者はたいそうな猫好きで、家にいる猫をかわいがっていた。

ある時、若者は二人の男女が言い合いをしているところに出くわした。
見れば、男の方は地元で有名な悪党の息子である。
悪党は方々にわいろを渡しており、役人も手出しができない人物である。
その息子は父親の権力を盾に、やりたい放題の乱暴者となっていた。

そんな奴の言い合いだ、仲裁に入ったら、どんな目にあわされるか。

「どうせ、つまらない痴話ゲンカだ」

無視を決め込んで素通りした若者の背後で、ぎゃあっと女が悲鳴をあげた。
若者が振り返ると、女が血まみれで倒れているのが見えた。
頭に血が上っているのだろう、男は血のついたナイフを片手に、なおも女の体を蹴りつけている。
状況から、男が女を殺したのは間違いなかった。

恐ろしさで若者が動けないでいると、つかつかと男が歩み寄ってきた。
男は若者の胸倉をつかむと、鋭い眼光でにらみつける。

「お前、俺がしたことを誰かに言ってみろ。お前に関わりのある奴、全員なぶり殺しにしてやるからな」

若者は怖くてたまらず、がくがくと震えてうなずくしかなかった。

その後しばらくして、女を殺した犯人として別の男が捕まった。
明らかに濡れ衣である。
だが若者は、報復されたろ思うと怖くて「犯人は別の奴だ」とは言えなかった。

若者は猫に向かって、ふがいなさを嘆いた。

「僕はなんて弱虫なんだろう。脅されているからって、怖い相手だからって、黙っているなんて。犯人は悪党の息子の、あいつなのに。僕はあいつが女の人を殺した時、その場にいたんだ」

この国において、殺人を犯した者は例外なく縛り首の刑である。
役人達はおそらく悪党の息がかかっているから、無実を訴えても聞き入れてもらえまい。

「ああ、濡れ衣を着せられた人は気の毒に。やってもいない人殺しで捕まって、処刑されてしまうんだ」

ひとしきり猫に胸のうちを嘆いてみせると、若者は我が身の情けなさを酒で押し流し、眠った。

若者が眠りについた後、猫はそっと家の窓から抜け出した。
夜の町を駆け、たどりついたのは原っぱだった。
原っぱには大勢の猫がいて、お互いににゃあ、にゃあと鳴き交わしている。
今夜は満月。猫の集会が行われる日なのである。

「みな集まったな。では集会を始めるぞ」

ひときわ大きな猫がぐるりと猫たちを見回す。
この近辺を束ねるボス猫である。

「お前達、何か特に報告することはあるか」

いつもなら、どこぞで子猫が生まれたとか新入りが来たとか、そんな話が始まるところである。
だが、この時若者の飼い猫が声を上げた。

「この前、人殺しで捕まった人間がいましたが、あれは濡れ衣です」
「ほう、確かな証拠はあるのか?」
「おいらの飼い主がその殺しの現場を見ていたのです。悪党の息子が犯人なのです。脅されているから、本当のことを言えないんです」
「なるほど、あいつはろくでもない奴だったからな。我々猫の一族にも被害者が出ている」

ボス猫は一つうなずき、

「よし、あいつに鉄槌をくだそう。人間が恐れて言えぬなら、我々が代わりに言えば良い。みなの者、連絡は後日だ。号令をかけたらすぐに集まるように」

そう言って、集会を解散にした。



哀れな男は牢獄から連れ出され、絞首台へと引き立てられた。
処刑の日を迎えたのだ。
ただ、処刑までの日数が異例の短さだったことから、悪党の差し金があったことは間違いなかった。

「ちゃんとよく調べてくれ! 私は無罪だ、人殺しなんかやっていない! あの女性とは一度も会ったことがないんだぞ!」

男は涙を流し、必死に訴えたが聞き入れてもらえない。
暴れた所を殴られ、蹴られ、首にロープをかけられる。
そうしていよいよ処刑が始まる、というその時。

「待ちなさい! その男は無罪である!」

突然どこからか聞こえてきた声に、処刑人が手を止めた。

「犯人はお前達もよく知っている通り、あの悪党の息子だ」

今度は別の方向から、違う声が言う。
探してみても、どこにも人間の姿はない。

「それと知っていながら真実を捻じ曲げる愚か者どもめ。お前達は末席ながら人間を束ね、導く立場であろう。それが力に屈するとは何事か!」
「い、一体誰だ。どこにいる」
「誰でも良いだろう。良いかお前達、己の職務というものを、もう一度よく考えるのだ」

役人と処刑人は、お互いの顔を見合わせた。
今、一体何が起こっているのだ。
これは何を意味するのだ。
そして――どうすれば良いのか。



ほどなく哀れな男は無罪放免となり、かわって悪党の息子が捕らえられた。
処刑場にいた役人と処刑人が口をそろえ、「神の声を聞いた」と述べたことから、教会の関係者、さらには教皇が後ろ盾となったためである。

悪党は憤慨し、あらゆる報復を行うと宣言したが……そう日を置かないうちに死んでしまった。
自宅の階段から転げ落ちて、首の骨を折ったのだ。
人々はこれぞ神罰だと噂をし、ますますこれは神のご意思だと信じた。

こうして悪党親子が消えたことで、平穏な暮らしが戻った。

「ああ、悪党の親子がついに消える日がくるなんて。こんな間違ったことが、いつまでもまかり通るわけがないんだ」

若者は飼い猫を抱き上げ、語りかける。

「そうだよ、やっぱり神様は見ているんだ。いつか、報いは来るんだよ」

にゃあん、と猫は一声鳴いて目を細めるばかりだった。

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