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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 十

<<   作成日時 : 2010/07/11 15:59   >>

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「俺を子犬呼ばわりするんじゃねえ!」
「なーに言ってるのよ、まるっきり子犬じゃない。きゃんきゃん吠えて、かみついて。残念ながら迫力はないけどね」
「何だとぉ!?」
「あら、やる気?」

お陽とカジカは、奇妙な二人組の言い争いを聞きながらお茶を飲み、団子を食べる羽目になってしまいました。
こんな所、長居するものではありません。
お茶を飲み終え、最後の一つになった団子を口に入れると、お陽はすくっと立ち上がりました。
出発するぞ、という意思をくみ取ったカジカも立ち上がります。

「それじゃ、お勘定ここに置きますね」
「はーい、お気をつけて」

女将の明るい声に送り出され、出発というまさにその時。

「あら、お二人さん、もう行くの?」

女物の服を着た大柄な男が、不意に言い争いをやめてこちらを向きました。

(何で気付くのよっ!)

お陽が心の中で叫んだのは言うまでもありません。
叫ばなかったのは口の中の団子のせいですが。

「はい。どうぞ、遠慮なく言い合いを続けてください」
「やあねえ、私はこんなやいのやいの言い合いしたくないんだけど、相手がねえ、どうも突っかかってくるんだもの。仕方ないわよねぇ」

受け答えをしているのはカジカです。
警戒心でがちがちになっているお陽とは違い、ごく自然にやり取りをしています。

「あのなあ、何度も何度も呼ぶなって言ってるのにお前が性懲りもなく子犬って呼びやがるから怒ってんだよ俺は!」
「ふっふーん、子犬って呼ばれて怒るのは、図星だからでしょ」

「……ところでお前ら、二人だけで旅をしてるのか?」

男物の服を着た女は、大柄な男をひと睨みしてから、どっかりと座り直しました。

「はい」
「そうか。お前ら、道中危ない目にあったりしなかったのか?」
「僕の方は何度か……ちょっと、行き倒れて死にかけたりとかしました」
「僕の方は、って、あなた達一緒に旅をしてるんじゃないの?」
「いいえ。少し前に行き倒れていたところを助けてもらって、それから一緒なんです」
「まあ、そうなの」
「それでお前ら、どこまで行くんだ?」

その質問に、カジカがお陽の方を向きました。

「……お陽さん、どうします?」
「え、何が?」

お陽は首をかしげます。

「だって、僕じゃなく、お陽さんが向かう所ですよ? 勝手に答えるわけにはいかないじゃないですか」
「ああ、そっか」

言われてみれば確かに、カジカに任せておくわけにもいかない質問です。
お陽は仕方なく、自分で答えることにしました。

両親は「狸族であることは知られるな」とは言いましたが、誠城寺に行くことを黙っていろとは言っていません。
それに、先にカジカに教えていることですし、寺の名前を出すぐらいなら大丈夫でしょう。

「その、誠城寺まで……」
「誠城寺!?」

正直に言った途端、女の方が声を上げました。
腰掛けから立ち上がってお陽の両肩をつかみ、真剣な顔で見つめてきます。

「お前、誠城寺に行くのか!?」
「え、えと、はい」
「頼む。俺も同行させてくれないか」
「えっ、ええ? どうしてですかっ?」

出し抜けな頼みに、お陽は目を白黒させました。

「ごめんなさいねえ。この子、方向音痴なのよ。いろんな人に場所を聞いてるくせに、歩き出すと全然違う方向に行っちゃうの。だからぁ、次に誠城寺に行く人に会ったら一緒に連れてってもらおうって考えたらしいの」
「うるさいっ! だいたいお前もお前だ! 俺が迷ったらでたらめな方向ばっかり教えてやがって!」
「だって私、お寺に興味ないもの」

女は、茶々を入れる大柄な男に吠えています。

「この前のあれはなんだ、右か左かで聞いたらまっすぐだなんて答えやがって!」
「あら、あれはあんたにだって非があるわよ。人の冗談真に受けて、畑の真ん中行っちゃうんだもの」
「すぐに否定すりゃ済む話だろうが!」
「右か左の道しかないんだから、冗談だってすぐわかるでしょ。んもう」
「何故あの状況で冗談を言う!?」
「……おもしろいから?」
「おおおおい!!」

ほうっておくと、言い争いはいつまで経っても止まりそうにありません。

「その……どうして誠城寺に行きたいんですか?」

お陽は女のわき腹をつつき、こちらに注意を向けさせました。
その疑問を抱くのはもっともなことでした。
わざわざ指定して寺を訪れるというのなら、よほどの理由があるはずです。
そう、たとえば狸族だからとか。

すると、女は目を輝かせ、こう答えました。 

「もちろん、和尚に勝負を挑むんだよ!」
「…………へ?」

思わぬ答えに、お陽はぽかんと口を開けるばかりでした。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
この二人、やっぱり仲間入りですね。
お陽は嫌がってるけど、私は嬉しい(笑)夫婦漫才みたいで楽しいし。
誠城寺の和尚さんって何者なんだろう?
まだまだ波乱の予感。楽しみです!
ia.
2010/07/14 01:15
お陽が嫌がってるのは未知の人種だからです。
そのうち打ち解けると思います。

男女あべこべ組はとにかく会話を! と心がけちょります。
夫婦漫才なんて言ったら「誰が夫婦だ!」って怒りそうだ、うん。

和尚さんの噂が真実かどうかは、ワクワクぎくぎくしながらお待ち下さい。
鈴藤 由愛
2010/07/14 07:02
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