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<<   作成日時 : 2010/04/03 20:24   >>

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四月一日 六時二分
牛魔王が遊びに来た。
本当は雲をつくようなでかい白牛だが、普通の人間に化けていた。
おおよそ三百年ぶりの再会だ。
「久方ぶりだな、盟友よ。息災なようで何よりだ」
来ることは前もって言っておけ。
休日の早朝六時に、いきなり部屋の中に現れるな。

六時八分
やって来た目的を聞いてみる。
「久々に暇が出来たのでな、人間の世界を見て回ろうかと思ってな」
牛魔王はそれから、ぐるりと部屋を見渡して苦笑いした。
「しかし、ずいぶんと散らかしているな」
馬鹿にすんな。来るってわかってりゃ、掃除ぐらいしておいたぞ。

六時二十二分
朝食を一緒に食べる。
ご飯、にらの卵とじみそ汁、玉子焼き、浅漬けの和食メニューだ。
時計がわりにつけていたテレビから牛丼のCMが流れた途端、牛魔王がキレてちゃぶ台を叩き割った。
「我が一族を何だと思っている!!」
牛魔王は牛だから、牛肉を見ると許せないのだろう。
「まさか、お前は食べたりしていないだろうな!?」
冷凍庫に牛丼の素が保存してある。すまん。

六時三十分
別の番組が始まった。
毎週、産業に携わる家族の所にアナウンサーがお邪魔して手伝いをするという番組だ。
「今週は、佐賀県の田中さんの家にお邪魔していまーす」
ピンクのつなぎを着た女子アナが、明るい声を上げている。
「田中さんの家では、佐賀県特産の佐賀牛を……」
うかつだった。この佐賀県の田中さん一家とやらは、畜産業を営んでいたのだ。
チャンネルを変える前に、画面いっぱいに牛舎の様子が映ってしまった。
「な、何ということだ……」
ぱきゃっと音がしたと思ったら、牛魔王が茶碗を握りつぶしていた。
中に残っていたご飯が、手にべったりついている。
「我が一族は、三百年の間に、人間に搾取されるほど落ちぶれたのか!?」
うおおお……!と嘆きながら、ご飯のついた手で畳を殴りつけている。やめろ。

六時三十八分
ついに大家が「うるさい」と文句を言いに来た。
「あんまり騒ぐようなら、出て行ってもらうからね! 他の部屋の人にも迷惑なんだよ!」
そう言う大家の声もかなりうるさい。安アパートが揺れている。
平謝りして許しを請い、退散願う。
「情けない。人間風情にこびへつらって頭を下げるとは、それでも我が盟友か」
うるさい、誰のせいだと思っているんだ。
取りあえずテレビは消しておく。

七時十分
人間の世界を見て回りたいと言っていたことだし、出かけることにした。
取りあえずぶらぶら歩いていると、行く手に牛丼屋が見えた。
ごまかそうとしたが、匂いで何を扱っている店か悟ったらしい。
「おおおのれええー!!」
店に突撃しようとする牛魔王を、羽交い絞めにして止めた。
こいつが店で暴れたらしゃれにならない被害が出る。

七時十八分
街にいたら、遅かれ早かれ牛魔王が暴れてしまう。
とにかく人のいない郊外に行けば安全だろうと、レンタカーを借りてドライブに行くことにした。
甘かった。
道を走っていたら、左側、要するに牛魔王の座席側に、厳選をうたった牛肉の皿盛り写真を使った看板が立っていた。
「ああっ! 右、右っ、右の方! すげえ、空飛ぶ円盤だー!」
「何っ、何だそれは。どこだ?」 
「ほらほらほら、あそこ、あそこだよ! ほら、山の方!」
UFOを発見したふりをし、看板を通り過ぎるまで貫き通した。
「おい、なんだあの看板は」
……看板には裏側があった。くそ。

八時二十七分
気分転換にラジオをつけてみる。
「さあ、ラジオショッピングのお時間です!」
「らぢおしょっぴ……何だこれは」
「声だけで商品の紹介を聞いて、買いたくなったら注文をする、というような仕組みだ」
「ほう、人間は店に出向かずとも物が買えるのか」
「まあな」
「本日は……こちら! ハンドバッグです。一枚一枚、立体感のあるクロコダイル型押しを施した牛か」
牛革、と言われる前にスイッチを切れた俺を、誰かほめてくれ。

九時二十三分
牛のブロンズ像の前を通った。
「うむ。我が一族には、人間に像を作らせるほどの切れ者もいるのだな」
牛魔王が上機嫌でうなずいている。
残念だが、あれは特産の和牛をPRするためのものだ。

九時三十二分
だいぶ郊外の方に出た。
平らだった道が山道に入った。
山道を走っていると、木々の間に草原が見えた。
「おい、この辺で休憩といこう」
草原が好きなのは、もともと牛だからだろう。
腰も痛くなってきたところだし、賛成する。
伸びをして一息ついたところで、どこからか「ぶも〜」という太い鳴き声が聞こえてきた。
……う し だ 。
「そろそろ出発しようぜ!」
慌てて声をかけた時には、すでに遅かった。
牛魔王は、牛舎を発見していた。
黙りこくって真っすぐに向かっている。
「おいっ、待てよ!」
立ちはだかる俺をなぎ倒し、牛魔王は牛舎に入って行った。

九時四十七分
「な、何だ君は!」
「関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
追いかけて牛舎に駆け込むと、牛魔王が抵抗する飼育員達を殴り飛ばしていているところだった。
「やめろ! その人達はこれが仕事なんだよ、生きていくために必要なんだ!」
「見損なったぞ盟友よ、お前は人間の肩を持つ気か!」
血走った目でにらまれて、動けなくなった。

九時五十一分
牛魔王は、牛達の前に立つと、ぐるりと牛舎の中を見渡した。
「諸君、現状に満足しているか。このような所に押しこめられ、来る日も来る日も、乾燥した……こんな物を食わされ、太らされ、汚物を垂れ流す日々。諸君は、こんな日々を果たして望んだのか?」
こぶしを握りしめながら、よく通る声で熱弁を奮い始めている。ああ……。
「誇りを失ってはいないか! 諸君は人間どもよりも遥かに長い歴史を持っている! それが、この体たらく! 悔しくはないのか、良いように使われ、殺されて……こんな日々が、諸君の望みか!」
ぶも〜、ぶも〜、と牛舎のあちこちから鳴き声が上がる。
牛語はわからないが、「望んでない」とかそんなことを言ってるんじゃないだろうか、たぶん。
「諸君! 諸君の命は人間のためにあるのではない! 諸君の命は諸君自身のものである! これは何者も侵しがたい、第一等の権利である!」
何だか、えらいことになってきた。
「立ち上がれ、同士よ。我らは家畜ではない、誇り高き古来よりの種族である!」
ぶもぉー! と牛達が一斉に鳴き声を上げた。

四月一日 十時二分
牛達は「人間族の黄昏(たそがれ)」と呼び、人間達は「ステーキどもの反乱」と呼ぶ、牛と人との長い戦争が、幕を開けた――。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
補足としまして。
エイプリルフールに載せる予定だったのに間に合わなかったということです。
……うぐぐ、くしゃみと鼻水が止まらない……(関係ねえ)
鈴藤 由愛
2010/04/04 09:14
牛魔王、面白いですね(笑)
牛にはもう少し敬意を払った方がいいかもしれないと思いました。
銀河径一郎
2010/04/16 19:15
いつもと書き方変えたんですが、面白かったですか、良かったです。
猪八戒とどっちにしようか迷って、怖そうな牛魔王をチョイスしました。
猪八戒だと泣いてるだけで終わりそうだから。
肉は食うわ、皮も使うわ、角も使うわ、人間は牛に感謝した方が良いですよね。
と言いつつ食うビーフカレーは美味。うめえ(人でなし)
鈴藤 由愛
2010/04/16 20:52
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