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zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞7〜

<<   作成日時 : 2010/03/06 19:02   >>

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それから幾日かが過ぎて、うさぎは舟を調達したという知らせを聞き、川原で待つ老人の元に向かった。
老人の調達してきた舟を見て、うさぎはがく然とした。
舟は、うさぎがようやく乗れるという程度の大きさだったのである。おまけに舟を操るのに必要なかいが付いていないという有様。
この舟でたぬきを乗せて川の深い所へ行き、突き落とすのは難しい。

「すまんなあ、これしか調達できなかったんだ」

しかし、目の前の心底申し訳なさげな老人に、馬鹿正直に言えるはずもない。

「何か、良い手を考えますよ」

うさぎはそう答えるしかなかった。

何はともあれ、まずは舟のかいを調達しなければならない。
うさぎは杉山に行き、削ってかいを作るため、杉の木を切り倒すことにした。
かーん、かーんと木に斧を振り下ろしていると、うさぎの背後に誰かが立った。

「てめえ、この間のとうがらし山のうさぎだな!」

忘れるはずもない、たぬきの声である。
おそらく、木を切る音を聞いてやって来たのだろう。

振り向いた先に立つたぬきは、悲惨な姿をしていた。
やけどをしたところはじくじくしたうみを持ち、嫌な臭いを放っている。
おそらくは眠れもしなかったのだろう、げそりとやせこけ、残っている毛もばさばさだ。

「何のことかわからないな。僕は杉山のうさぎだよ、とうがらし山のうさぎのことなんか、知るもんか」

いつかと似たような言葉を返すと、たぬきは、今回もあっさり信じた。

「ところでお前、うさぎのくせに杉の木なんか切ってどうすんだ?」
「ああ、かいを作ろうと思ってね。これから川へ行って舟を浮かべて、魚を取って売るのさ。いい金になるよ」

金になる、と聞いた途端、たぬきの目の色が変わった。

「なあ、俺にもやらせてくれねえか。いい加減、稼ぎてえんだよ。食わせなきゃいけねえがきが八つもいるから出稼ぎに来たっていうのに、まだ一度も仕送りできてねえ」
「別に良いけど、僕の舟じゃ小さいしなあ」

そう言い、うさぎはしばし考え込んだ。
一緒の舟に乗せて突き落とす作戦がだめになった今、別の作戦を考えなければならない。
確実に上手くいくような、そんな作戦を。

(そうだ)

うさぎの脳裏に浮かんだのは、伝え聞いた、泥を材料にした舟の話だった。
なんでも、どこぞの国に実在する舟で、材料こそ泥だが、乾けば石のように硬く、頑丈になるという。
そんな舟など、重くて沈んでしまいそうなものだが、不思議なことに沈むことはなく、舟としての機能をまっとうできるそうだ。
ただし、その泥はその国でしか取れない物だが。

「……そうだ。泥で船を作るといいよ。川原の泥は、乾くと石みたいに固くなるから、頑丈な舟を作るにはもってこいだ」

実話を元にした作り話なら、信用も得やすいというものだ。
少なくとも、たぬきは「そうか、そいつはすげえな」と疑うそぶりすら見せなかった。

(馬鹿で間抜けな悪党め。今日がお前の命日だ)

しかし、いくら馬鹿で間抜けであっても、こんなにだまされやすい悪党がいるものだろうか。
ほんの一瞬疑ったうさぎだったが、すぐにその考えを打ち消した。

(いいや、こいつは間違いなく悪党なんだ。僕は忘れちゃいないぞ)

おばあさんうさぎをあざ笑い、ののしったあの声は、間違いなくこのたぬきの物だ。
きっとこいつは、ただの馬鹿で間抜けな悪党なのだ。
だから、目の前のうさぎが全て同一のうさぎだと見抜くこともできないでいる。

切った木を担いで歩きながら、うさぎは自分に言い聞かせた。
ここで奮い立たねば、仇討ちも償いも一生できない、と。

川原に着くと、うさぎは木を削って舟のかいを、たぬきは泥の舟を作り始めた。
たぬきの手先はなかなか器用で、うさぎがかいを作り終える前に、黒い泥の舟を完成させた。

「ずいぶん、手際がいいんだね」

うさぎが目をぱちくりさせると、たぬきはにやりと笑って鼻をこすった。

「へへ、昔、舟作りをやったことがあるもんでな。さあ、早いとこ魚を取ろうぜ」

急かすたぬきにうさぎは「そうだね」とうなずき、川へと舟をこぎ出した。
そして川の真ん中ぐらい、落ちたら足の着かない深さの所まで舟をこぐと、うさぎはたぬきに声をかけた。

「ここだよ。この辺が一番魚の取れる所なんだ」
「はあ、ずいぶん深いな」

川をのぞきこみ、たぬきがため息をついている。

――それはそうだ。お前を溺れ死にさせるためなんだから。
うさぎは腹の中でつぶやく。


一連のうさぎの復讐劇は、ある結末を迎えようとしていた。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ここまでくると、たぬきもうさぎも哀れですね。
次の更新を楽しみにしてます^^
たろすけ(すけピン)
2010/03/07 19:02
復讐って、する方もされる方も哀れなもんなんですよ。
えー。今回で一気に片をつけようと思ってたんですが、長くなったんで分けました。
簡潔にまとめられる力が欲しい……。
鈴藤 由愛
2010/03/07 21:05
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