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<<   作成日時 : 2009/12/18 23:09   >>

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*このお話は、つる様企画の「読書感想文/X’mas短編競作しませんか?」 に寄せた作品です。


昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいた。
二人は息子夫婦の忘れ形見である孫を育てながら、日々質素に暮らしていた。

ある真冬の夜のこと。
孫を寝かし付けた二人が、土間で笠やわらじを作っていると、どこからか、しゃんしゃんしゃん……と鈴の音が聞こえてきた。

「じいさま、何だか鈴の音がするだよ」
「馬鹿言うでね。気のせいだ」

二人がそんな話をしていると、家の外で、どんがらがっしゃーん! と大きな物音がした。

「な、な、何事だあ!?」

二人がおそるおそる戸を開けてみると、一台の立派なそりが、深く積もった雪の中に突き刺さっていた。
そのそばで、そりにつながれた、牛とも鹿ともつかぬ妙な生き物が困ったように立ち尽くしている。
よく見ると、そりの中に誰かが倒れているのが見えた。

「ああ、こりゃ大変だ」

おじいさんは、そりに駆け寄って倒れている人を助け起こした。
そりの中に倒れていたのは、赤と白の変なぼうしをかぶり、同じく二色のこれまた変な服を着て、白いあごひげを長く伸ばした、ふくよかな体型の老人だった。
老人は気絶していて、ぴくりとも動かなかった。
視線をずらすと、老人の足元にある、大きな白い袋が目についた。

「はあ、こりゃ一体どうしたことだ?」

事情がよく飲み込めず、おじいさんは首をひねりながら袋を持ち上げてみる。
その袋は妙なもので、ふくらんでいる割にやたらと軽く、まるで空っぽのようだ。

その時、後ろの方でこわごわ見ていたおばあさんが、突然「あっ」と声を上げた。

「じいさま、こりゃ、神様だよ!」
「神様だあ?」

思いもしない単語に、おじいさんはぽかんと口を開ける。

「間違いねえ。おら、庄屋様の家さ手伝いに行った時、掛け軸で見たもの」

おばあさんは、どこか得意げに鼻の穴をふくらませる。

「おら、庄屋様に聞いただ。何でも七福神って言って、木の船さ乗ってる七人の神様がいらっしゃるとよ。その中さ、袋を持ったふくよかな神様もいただよ! それがこの神様だべ、きっと!」

おじいさんはぽかんと開けていた口を閉じ、代わりにあきれ顔をした。

「……だどもお前、あと六人の神様はどこさ行っただ?」
「神様だって、たまには一人で船さ乗りたい時もあるべ。ささ、家さお連れして差し上げるべ。はあ、神様が家さ来てくれるなんて、縁起がいいだ!」

おばあさんは夢を見るような目で、うきうきと語っている。
今のおばあさんに何を言ってもむだだということは、長年連れ添った結果、わかることである。
おじいさんは黙って言うとおりにした。

そりの中にあった袋と共に家に運び込まれた老人――神様は、いろりのそばに敷いたむしろの上に寝かされた。
二人は、神様が目を覚ますまでの間、作業に戻ることにした。

ややあって、神様がうめき声を上げて目を覚ますと、おばあさんは素早くその前に駆け付け、正座をした。

「いやあ、神様、こんなへんぴな家さ、よくお越しくださいました」

指をついて頭を下げるおばあさんを、神様はきょとんとした顔で見つめる。

「ささ、何の持てなしもできませんでお恥ずかしい限りですが、お湯でも飲んで暖まってくだせえまし」

おばあさんは、囲炉裏にかけていた鉄びんの湯を茶碗に注ぎ、お盆に載せて神様の前にそっと差し出した。

「オウ、サンキュー」

茶碗を受け取った神様の言葉に、おじいさんとおばあさんはお互いの顔を見合わせる。

「……じいさま、神様、今何て言っただ?」
「わからねえ」
「はあ、神様は変わった言葉で話をするもんだな」
「そりゃおめえ、相手は神様だもの。話す言葉もおら達とは違うんだべ」

お湯をちびりちびりと飲む神様を前に、二人はひそひそと言葉を交わした。

「ところでお前、そのふくよかな神様ってのは何の神様だ?」
「何の神様って?」
「ほら、神様っていってもいろいろあるべ。稲の神様とか、山の神様とか……今いらっしゃるのは、どの神様だ?」

とりあえず、貧乏神だとか疫病神だとかでなければいいのだが。
七福神とやらがよくわからないおじいさんは、そんなことを考えていた。

「はて……庄屋様に聞いたけども……何だったべなあ……」

おばあさんが首をひねっていると、がらりと奥の戸が開いて、眠そうに目をこすりながら孫が入って来た。
まだ十歳にも満たない、つぎはぎだらけの着物を着た、やせっぽちの男の子だ。

「あ、これ、神様の前だぞ。失礼のねえようにな」

おばあさんは孫に手招きをして呼び寄せ、小さくたしなめる。
と、その時だ。

「ホーホーホー!」

いきなり上がった変な笑い声に、おじいさんとおばあさんは驚いて「ひゃっ」と声を上げた。
それが神様の発したものだと理解したのは、しばらくしてからのことだった。

「か、神様って、このじいさまが? 本当?」

寝ぼけまなこから一転、孫は目を真ん丸くしている。

神様は、そんな孫に微笑んで見せると袋に手を入れる。

確か空っぽだったのでは、と黙ってそれを見ていたおじいさんとおばあさんは、また驚いた。
再び袋から手が出てきた時、神様の手にはけん玉が握られていたのだから。

「プレゼント、フォーユー」

神様は、妙な言葉と共に、取り出したけん玉を孫に差し出した。
突然の贈り物に、孫は真ん丸くしていた目を輝かせる。

「ええっ、もしかしてこれ、おいらにくれるのか?」

孫が尋ねると、神様はにこにこしながら孫の手にけん玉を握らせた。
その通り、ということだろう。

「うわあ、ありがとう! おいら、けん玉、いっぺんやってみたかっただ!」

神様は孫の頭をなでると、やおら袋を担いで立ち上がり、がたがたと外へ続く戸を開けようとした。
が、横に動かすという行動が思いつかないのか、いつまでたっても戸が開けられず、ついにはどんどんと戸を叩き始めた。

「オウ、ノー! オープン! オープン!」

神様というのは、戸の開け方を知らないものらしい。
そう理解したおばあさんが、横から割り込んで戸を開けてやると、神様は「サンキュー」と言って外に出て行った。
そして、そりを雪の中から引きずり出すと、牛とも鹿ともつかぬ生き物達を二列に並ばせ、つないだ手綱などを確認し始める。
確認が終わると、神様は袋を担いでそりに乗り込み、

「メリークリスマス! ホーホーホー!」

満面の笑みを浮かべ、ゆかいそうな声を上げて手を振ると、生き物達にぴしりと鞭を当てた。
すると、不思議なことにそりは空中に浮かび上がり、しゃんしゃんしゃん……という鈴の音を残し、空の彼方へ飛んで行った。
夜空に、光の筋をきらりと残して。

「はあ。おら、わかったぞ」

空を見上げたまま、おじいさんが気の抜けた声を上げる。

「何がわかっただ?」
「ばあさま、あの神様はおそらく、子供らの神様だべ」

それを聞いたおばあさんは、小さくうなずいて、寒さから遠ざけるようにして孫を抱き寄せた。

「違いねえ。親のいねえおら達の孫を哀れんで、こうして来てくだすっただよ」
「やはり、神様っていうのは、知っていなさる見ていなさる」

二人は神様が去って行った方角に向かって、しわだらけの手を合わせるのだった。

「ありがたや、ありがたや」


――クリスマスというものが日本に伝わってくる、ずっとずっと前のことだった。





イメージソング:「ジングルベル」

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コメント(21件)

内 容 ニックネーム/日時
サンタを知らない昔の日本人は、こうだったかもしれませんね(笑)
老夫婦のサンタへの視点が面白かったです^^
サンタ……七福神で言うと、布袋様かな?
たろすけ(すけピン)
2009/12/19 01:19
実は大黒様のつもりで書きました<七福神
大黒様は、元をたどればヒンズー教の破壊の神、シバ神だとか。やっぱりこええなサンタ(違う)
昔の人の、前知識のない視点からサンタを書くのがちと大変でした。
面白いって言ってもらえると苦労もむくわれます。ハイ。
鈴藤 由愛
2009/12/19 10:25
うふふ。これもおもしろいなぁ。
ニヤニヤしながら読んでしまいましたよ。
戸の開け方がわからないところとかも、全部好意的に解釈してもらえて、サンタさんはラッキーでしたね。
七花
2009/12/20 23:14
戸の開け方がわからないのを、「何だこいつ」って疑われたらアウトでしたね。
素直な老夫婦で良かった良かった。
あのけん玉はおそらく、しばらく神棚にまつられるに違いない。
鈴藤 由愛
2009/12/21 06:12
楽しかったぁ♪
おばあさんの思い込みもすごいけど
何も言えずにおばあさんの言いなりのおじいさん
日頃の生活が見えるようで
可愛かったです。
神様とサンタさんをダブらせるところなんて
由愛さんじゃなきゃ浮かびませんよね。
クリスマス=恋愛と結び付けないところが
作家としてはちょっとにくいところだわ。
楽しい気持ちが読後残りました。

2009/12/21 11:19
私も最初は恋愛モノを書こうとしてたんですが、途中でにっちもさっちもいかなくなって、結果、昔話になりました。
うおー! 恋愛モノを書けない呪いがかかっているに違いないー!
サンタと神様の共通点は、無理くり関連づけました。
楽しんでいただけたら幸いです。
鈴藤 由愛
2009/12/21 12:45
日本の昔話の時代にサンタクロースが来るとは!
とっても楽しい話でほっこりしますねえ!

名前を聞いて「へえー、隣の三太が苦労すっとよ」と予言を貰って後で騒ぎになると妄想!
銀河径一郎
2009/12/21 22:29
「大黒様じゃねーよ」とサンタの代わりにツッコミながら読みましたよ(笑)
まさか昔話で来られるとは思わなかったので、意表を突かれました。
ところでこのサンタ、本当に外人ですか?やたら簡単な英語しか使わないけど(笑)
可笑しかった、いえいえ、とっても面白かったです。
ありがたや、ありがたや。
由愛さんの"恋愛モノを書けない呪い"がとけませんよーに(^^
ia.
2009/12/22 03:35
銀河径一郎様>たまたま隣に住んでいたばかりに、三太さんがえらいとばっちりを!
そしてその辺りでは「三太と名付けると苦労するらしい」と言われ、名付けられなくなるのですね、わかります。


ia.様>簡単な英語ばかりなのは、英語の成績が○だったからです(○には好きな数字を入れよう!)
いや、実際どこまでなまりを入れるかとか、英語はどうするか悩みましたよ。
はうッ、呪いが固定されてしもうた!?
鈴藤 由愛
2009/12/22 06:10
はじめまして。
今回クリスマス競作企画に参加させていただいたヴァッキーノっていいます。
よろしくお願いします。

昔話風な展開がいいですね。
不時着したサンタさんが、時間気にして、じいさんばあさんに時刻を聞いたら面白いかもしれませんね。
「ホワッタイム・イズ・イト・ナ」
「あん? 掘った芋いじるなじゃと?」
とか言って。
すいません、ベタでした(笑)
日本昔ばなしのナレーションで聞きたいような
いやはや、面白いお話でしたあ。
ヴァッキーノ
2009/12/27 11:11
久々に初めましての方が。
はじめまして、どうぞよろしく。
そちらのサイトにも後ほど伺わせていただきます。

その考えは浮かばなかった!<掘った芋
空耳英語になる可能性が思いつかなかった辺り、まだまだ未熟ですわ。
しかし、この場合、「掘った芋をいじってはならない」というお告げとして伝わり、変な風習になって残りそうな気配が。
そしてナレーションですか。うーん、男の人バージョンだとぴったりかな。なんとなく。

よろしければ、またいらしてくださいね。
鈴藤 由愛
2009/12/27 12:10
はじめまして!
初参加させていただきました、矢菱虎犇といいます。ヴァッキーノさんともども、よろしくお願いします。

異文化を理解するのってなかなか難しいですよね。昔話の世界にサンタクロースが現れたら?っていう発想、大好きです。

サンタさんから貰ったプレゼントの箱を開いたら、白い煙がモクモク・・・
みんなおじいさんになってしもうたそうな。
あ、違う話だ・・・
矢菱虎犇
2009/12/27 12:34
はじめまして、どうぞよろしく。
お名前は何て読むのかな? 
後ほどサイトにお伺いしますね。

こういう変な組み合わせを考えるのは私も好きです。
ドリフの「もしも……」シリーズのようなノリで考えてます。
童話や昔話はいじりがいがあって楽しいですね。

お、おばあさんがおじいさんで、孫もおじいさんで、ええい、何というおじいさんスパイラル!<白い煙
あ、でも元からおじいさんだったおじいさんはどうなるんだろう……超ウルトラスーパーおじいさん?

よろしければ、またいらしてくださいね。
鈴藤 由愛
2009/12/27 13:12
遅くなってごめんなさい。
コメントしたとばかり思ってました。はい認知症です。

まずね、派手なサンタの登場に大笑いしました。つかみはばっちりですよ。
それから、客人に白湯しかふるまえない老夫婦の貧乏っぷりに、日本の原風景を見ました。
このあと、やせっぽちの男の子は、けん玉を大事にするんだろうなあなんてことが想像されて、大いにほのぼのしましたし、シンプルな「ジングルベル」にぴったりのお話でした。

ああそうだ。面白かったから、わたしも祈ってる。由愛さんの"恋愛モノを書けない呪い"がとけませんよーに(^^
つる
2009/12/28 02:49
いえいえ、「やっぱ年末のお母さんって忙しいんだな」って思ってました。

白湯はかさ地蔵へのオマージュってやつです。
あちらはお湯と漬け物でしたが。

けん玉はきっと家宝になりますね。
代々「これはな……」って引き継ぐの。
ありがたや、ありがたや。

ぎにゃーっっ!! 呪いが重ねがけされたー!!
鈴藤 由愛
2009/12/28 06:49
お久しぶりです。
サンタ=神様=大黒様
この見立てが面白いですねぇ。
それにしても昔話のフォーマットに、
これほどすんなりサンタがはまるとは。
目の付け所も料理のウデもお見事。
とても楽しく読ませていただきました。
レイバック
2009/12/28 23:30
袋持っててでっぷりした神様って、割といるんですよね。というのが書いてみたきっかけ。
昔話や童話は、幅広く応用のきく食材みたいなものですね。
どんな話に変わるかは書き手次第。うーん、深い。
鈴藤 由愛
2009/12/29 08:19
あけましておめでとうございます!

老夫婦から見たサンタに対する独特の視点もおもしろいですが、登場するこのサンタのドジっぷりもいい味出してますね! ジングルベルもよいですが、「あわてん坊のサンタクロース」の選曲でも合ってたかも・・・。無事に次の目的地にたどり着けたのか、ちょっと心配です(^-^;)
shitsuma
2010/01/01 14:27
明けましておめでとうございます。

ああ、そんな歌もあったか……思いつかなんだ。<あわてんぼうのサンタ

しかしあの歌だとサンタは煙突から落ちてくるんですが、この場合、どこから落ちてくるんだろうか。
ま、まさか屋根をぶち破って……?
そんなサンタなら神様とは思われないよな、うん。じいさんばあさんも怒りますな。うん。
鈴藤 由愛
2010/01/01 16:59
サンタさんが神様だったら。髭を生やして大きな袋担いで……大黒様?

おじいさん、おばあさんとサンタさんのズレっぷりが異文化コミュニケーションの難しさを語ってますね(笑)

2010/02/28 23:24
大黒様に間違われたからまだ良いものの、風神に間違われてたらえらいことだ。
ということに最近気付きました。
「神様、風呼んでくだせえ」って、そりゃ無理だもんな!<袋

異文化コミュニケーションの難しさは、NOVAの宇宙人も言ってましたからねえ。猫とのコミュニケーションも、通じてるようで実は違ってたりして……。
鈴藤 由愛
2010/03/01 07:08
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