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zoom RSS もりのくまさん・承

<<   作成日時 : 2009/08/01 10:39   >>

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男は、女をそのまま小屋に置いた。

関われば厄介なことになるのは、火を見るよりも明らかだ。
だが、どうしても見捨てるという方向に考えが向かないのだ。

――何故か。
男はこの点について、長く自問自答を繰り返した。

恋をした、というわかりやすい理由ではないだろう。
死にかけたぼろきれのような女に惚れるような、悪趣味はない。

とすれば、これは純粋な哀れみ。同情。思いやり。
男は女の手当てをしてやりながら、そう結論づけた。

手当てと言っても、無骨な大男のやることだ、大した事や手まめなことはできない。
朝起きたら女の傷を消毒し、包帯が汚れたら取り替えてやるぐらいだ。
医者を何度か呼んでみたが、うやむやにして結局来ないので、あてにするのはやめた。

そうして女の手当てを終えてから、男は小屋のドアに鍵をかけ、猟に出かける。
ふらふら出て行ってマードック家の人間に見つかるのを防ぐのと、不埒な侵入者から守るのが目的である。

そんな男の気遣いと手当ての甲斐あってか、女は三日目に目を覚ました。

……ここでさらに問題が起きた。
女は「あー」だの「うー」だの、不明瞭なうめき声を言うばかりで、いっこうにまともな言葉を話さなかったのである。

しかし男は気にしなかった。
会話こそ成り立たないが、女は笑うことも怒ることもできたから。

こうして、ある意味穏やかな日々が続いていた。

――やがて、女の太ももにある焼印が薄くなった頃。

男はいつものように女の手当てをし、猟に出掛けた。
だが、慣れから注意力が落ちていたのか、男はミスを犯した。
ドアに鍵をかけるのを忘れたのである。

男が鍵のかけ忘れに気付いたのは、帰り道でのことだった。

「くっ」

何事もなければ良いが。
慌てて小屋に戻ったが、女の姿はなかった。

もしや、何かあったのか。
男は視界が一気に暗くなった気がした。
悪い想像が頭の中をぐるぐる回り始めた、その時。

「らぁら、らら」

女の声が、小屋の裏手から聞こえてきた。
男は獲物も道具も放り出し、声のする方に駆け出した。

「ら、ら、らあ、ら」

女は無事だった。
歌らしいものを口ずさみながら、小さな白い花を摘んで、花輪を作っている。

はああ……と、男の口からため息がもれる。
女はそこで男に気付き、満面の笑みを浮かべて「あー」と花輪を差し出した。
あげる、という意味らしい。

男は渋面を作った。
ゴツゴツした大男の自分が、可憐な野の花の輪を頭に載せたところを想像すると、吐き気すら覚える。

「いや、いい」

男が拒否すると、女は眉を吊り上げ、「うー!」と不満げな声を上げた。
どうしても男の頭に載せるつもりらしい。

「……わかったよ」

男が渋々頭を下げてやると、女は満足そうに笑い、ぼさぼさ頭に花輪を載せた。
そして、落ちないようにというつもりか、女は花輪をぐいぐいと手で押さえ付けて来た。

「おい、やめろ」

男は気付いていない。無精ひげに覆われた自分の口元が、ほんの少しほころんでいることに。

「帰るぞ」

男は女を抱え上げ、小屋へと引き返し始めた。

――刹那、ぞわり、と悪寒が背すじをはい上がる。

何者かの視線を感じる。ただの一般人からは放たれることのない、陰湿さを含んだ視線。
男が鋭い目つきで振り返るも、辺りに人の姿は見当たらなかった。

気のせいだろうか。
だが、男は嫌な予感を拭いきれなかった。


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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
コメントスパムがしつこいので、今回からコメントは認証後に掲載ということにします。
……いっそのこと、コメントいただかない方式でいこうかとも考えましたが。
鈴藤 由愛
2009/08/01 10:55
お約束とわかっていてもハラハラしました。
まずは、かけ忘れた鍵に、そしてラストに。
これがあったから、二人のほのぼのシーンが、すごく生きてます。

認証制になったんだ。了解。
え?うち?スパムさえこないわ。
つる
2009/08/01 22:09
嵐の前の静かさ的に、ほのぼのさせてみました。
次回はずんぎゃらどんぎゃら(謎)な内容でお送りします。ご覚悟を。

スパムが来ないのは良いブログだからですよ、きっと。
鈴藤 由愛
2009/08/02 09:09
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