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zoom RSS 足元からの危機(二十八回目)

<<   作成日時 : 2008/09/18 00:00   >>

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オバちゃんの後をひたすら追いかけて行くと、とある曲がり角でオバちゃんが立ち止まった。

「ぶっ」

とっさのことで反応が遅れたオレは、オバちゃんの後頭部に鼻をぶつけた。

アウチ!
いきなり立ち止まるなよ、オバちゃん。

「どうし……」

「しっ」

聞こうとしたら、口を手で押さえられた。
それから、オバちゃんが角の向こう側にあごをしゃくる。

「あんまり身を乗り出すんじゃないよ、ちらっと見な」

そ〜っと顔を出してみると、どこかへの入口と、その左右に立つ、槍を持ったマッチョ男が見えた。

「あれって……」

「見張りだよ。あそこから、処刑台に行けるんだ」

ってことは、何としてもあそこを突破しなきゃいけないんだな。

「どうやって突破するんだ?」

するとオバちゃんが、真剣な顔でオレを見た。

「……お前さんに一つ、頼みがあるんだ」

「へ?」

「おとりになってもらいたいんだ。しばらくで良いから、あいつらの気を引きつけておいて欲しい。その間に私があいつらの背後に回って、気絶させるから」

「うっ!?」

何だよそれ、難しいじゃんか!
どうやって引きつけておけってんだ、おい。

「時間がないんだ、ほら、早くっ」

反論しようと口を開く間もなく、どんっと背中を押されて、オレはよろけながら飛び出した。

オバちゃん……これ、頼むっていうより、あれだよな。命令だよな?
だって、有無を言わしてくれなかったもんな。

あ、ああ、もうこうなったらヤケっぱちだ。

オレは、何気ない風を装いながら、マッチョ二人組のところに歩き出した。

オレは小崎豊じゃない、兵士Aだ。
だから、ここを歩いていても全然、変じゃない。
あやしくない、ごく普通なんだ。
ここを歩くのは、口笛吹いてたり鼻歌歌ってたりしてもおかしくないぐらい、日常的なことなんだ。

だから全然、ビクついたりガチガチになったり呼吸が変に早くなったりはしないんだ。
落ちつけ〜、落ちつけ〜、むしろ無関心なぐらいがちょうどいいぞ〜。

そうやって必死に、自分に言い聞かせながら。

「何だ、お前。こっちは立ち入り禁止だ」

近寄ってきたオレを見て、そいつらは警戒した。

「何人たりとも入れてはいかんとのお達しが出ている。さっさと戻れ」

入り口の左右に立ったマッチョ二人組が、通すまいとして槍をガシャンと交差させる。

……さて、引きつけろって言われたけど、どうしたもんか。
上手くごまかして、時間を稼ぐしかないか。

「実は、伝言を頼まれまして……」

オレは、でまかせを口にした。
口にした以上は、つき通さないといけない。
本当のことがバレたら、もう後がない。

「何?」

ひいっ、ただ見下ろされただけなのに、とんでもない威圧感がっ。

「は、はい。隊長から、陛下にと……」

隊長が誰なのかなんて、知らない。
そもそも、いるかどうかもよくわからない。

それでもオレは、さらにでまかせを言い続ける。

「伝言ならこっちで伝えておいてやる。言え」

「いえ、それが、陛下以外誰にも教えるなと」

「本当かあ?」

マッチョが、眉をしかめてオレを見る。

……冷や汗が、わきの下を伝い落ちる。

完全に疑われてるな、今。

「お前みたいな下っ端に、そんな大事な伝言を頼むとは思えんがな」

言われてみると、確かにそうだ。
……なんでもっと上手いごまかし方を思いつかないんだろうか、オレ。

「じ、事情なんか知りませんよ。オレはただ、そう伝えろって言われたから来ただけだし……」

オレが下っ端らしい弱々しさと未熟さを全面に押し出すと、

「ふん……まあ、あいつのやりそうな事だ」

一人が、吐き捨てるようにつぶやいた。
なんとかごまかせた……か?

「あいつ、抜け駆けするのがうまいからな。力もねえくせに、隊長の役職についてんのが良い証拠だぜ」

「全くだ。ああいう無能が上役につくと、本当に苦労する」

げらげらげら、マッチョ二人は『隊長』とやらをあざけって笑い出す。

その時、すっ、と二人の背後に影が立った。

――と思ったら。

どうっ、と重い音を立てて、マッチョ二人組の体が強張る。

「がっ……」

「ぐ……」

短い声を上げて、巨体がゆっくりと床に倒れこむ。
その手から槍が滑り落ちた。

――まずい!

オレは、慌てて槍をつかんだ。
幸い、床に落ちる前だったから、音は一切出なかった。

間に合って良かった……。
床に落ちて派手な音でも立てられたら、誰かにあやしまれないとも限らないからな。

マッチョ二人が床に倒れた後から、オバちゃんが現れた。

「はー……何とかうまくいったな」

オレ、まだ心臓バクバクいってるよ。
もっとしつこく追及されてたら、オレ、ごまかし切れるかわからなかったぞ。
二度とやりたくないな、うん。

「まあ、途中まではうまくいってたね。百点中で七十点ぐらいはあげよう」

高いんだか低いんだか断言しづらい点数ですなあ。

心臓が静まるのを待ってると、オバちゃんが槍のうち一本を持って、残った一本を、ずい、と押しつけてきた。

「ほら、お前さんも持ちな。役に立つよ」

「オレこんなの使ったことねえよ!」

慌てて突っ返そうとすると、

「いいから持ちな!」

ぴしゃりと言われてしまった。

「槍ってのはね、素人でも案外使えるもんなんだよ。力任せにぶん回しておけば、取りあえず敵に近寄られないで済むからね」

敵……。

その一文字が、胸にずしんと重く響いた。

「お忘れかい。これからいよいよ正念場なんだよ。危険地帯に足を突っ込むんだ、人の助けばかり当てにしてられない状況になるよ。だったら、自分で何とかできるように、役に立つ武器ぐらい持っておきな」

オレは、ぐっと槍を握りしめた。

……重い。
物干し竿なんかとはわけが違う。

そのズシリとした、冷たくて重い槍の感触が、情け容赦なく現実性を感じさせる。

この槍を使って誰かを攻撃する、なんて瞬間が、いつか来るんだろうか?
そんなもん、来なくていい。
でも、本当に、やらなきゃいけない瞬間が来たら……オレは……。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ゲーム感覚のバトルの中で、主人公がふと槍の重さを気にするあたりが良いですね。
ドッペルくんも何やら利用されている気配が。
ストーリーにも、もうひと波乱ありそうですね。
ia.
2008/09/19 00:42
今読み返したらポカミスを結構やらかしていて「うわあ」って凹みました。
直しとこ。グスン。
武道の達人が主役なら槍の重さなんてちっとも考えないのですが、小崎くんだと色々考えますね。
重かろう、痛かろう、怖かろう、って。
鈴藤 由愛
2008/09/19 07:52
スリル満点ですね。
「物干し竿」を出したことで、槍に具体的なイメージが湧きました。そこ、よかったです。
ところで、わたしはポカミスなんて、しょっちゅう。いつもチラチラ手直ししてます。↑上コメによると、由愛さんはあまりしないみたいですね、すごいな。
つる
2008/09/19 23:18
物干し竿とモップ、どっちにしようかな〜って思ったんですけど、物干し竿にして正解だったかな、とホッとしてます。
いえ、ポカミスやらかしたのを発見すると凹むので、前もってよ〜くチェックしてから投稿するようにしてるんですよ。
後から手直しするのが何となく屈辱でして。
変わり者なもんですから、そういう妙なトコ頑固なんですわ。
鈴藤 由愛
2008/09/19 23:36
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