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zoom RSS 足元からの危機(十六回目)

<<   作成日時 : 2008/07/31 22:52   >>

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「殺しあえ、って……」

オレは、メガネ男をにらんだ。

「そんなこと、できるわけねえだろ!」

にぎりしめた拳に、力が入る。
ぶん殴れる位置にいたなら、たぶんオレはメガネ男に鉄拳をお見舞いしているところだ。

効くか効かないかは別として、だけど。

メガネ男は、鼻で笑った。

「皆、同じことを言うものだ。だが、最後は結局、殺しあう……泣きながら、な」

「絶対やらねえ!」

オレは言い返した。

そうだ。
何で、オレとタマちゃんが殺しあいなんてしなきゃいけないんだ?

バカバカしい。
腹立つ。
くっだらねえ。
冗談じゃねえ。

「タマちゃん。何とかして檻から出ようぜ」

オレの言葉に、タマちゃんは黙ったままだった。
何かをじっと考え込むような感じで、目を閉じてる。

「タマちゃん?」

心配になって、声をかけた。

具合でも悪いのか?
オカマに捕まってる間に、暴力をふるわれたとか……?

「本当に……」

心配になるほど間を開けてから、やっとタマちゃんが口を開いた。

「本当に、どちらかは生かしていただけるのだな?」

それは、オレに向けられた言葉じゃなかった。

「初めに言っただろう。勝った方を生きて地上に帰してやる、と」

メガネ男の尊大な返事に、タマちゃんは怒るでもなく、静かに「お座り」をした。

「では……我の命を差し出そう」

な、何っ!?

「ほう。戦わんというわけか」

メガネ男が、眉をピクリと動かした。

「さよう。主の命ばかりはどうか……」

「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!」

オレはタマちゃんの話をさえぎった。

「何、弱気になってんだよ! いつもの偉そうな態度はどうしたんだよっ」

「主……」

タマちゃんの黒目がちな目が、悲しそうにオレを見る。

「我は主に仕える身。主の命を踏み台にして、どうしてのうのうと生きながらえよう? これが一番妥当な選択なのだ」

小難しい話しやがって!

オレの頭に、かあっと血が上った。

「オレは許さねえからな!」

気がつくと、オレはそう口走っていた。

「主……」

「ああそうだ。オレはタマちゃんの主だ。ご主人様だ。飼い主だ。だから、立場はオレの方が上!」

自分でも何を言ってるかよくわからんが、気にするもんか。

「だから命令してやる。そんな命の捨て方、オレが認めないっ、許さないっ」

オレはつばを飛ばして主張する。
今、タマちゃんを犠牲にしたら、オレはあの世の果てまで行っても後悔し続けるに違いない。

「し、しかし」

「命令だって言ってんだろ! 反論すんなっ」

タマちゃんの口から、はああ……と深いため息がもれた。

「ああ、主……馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまでとは……」

「ご主人様に向かって馬鹿って言うな!」

「いや馬鹿だ。大馬鹿だ。この上もなく大馬鹿だ。主、何故我の気持ちがわからぬっ!」

「死にたがる奴の気持ちなんかわかってたまるかっ」

「我は死にたがっているのではないっ、主をお助けしようとしているのだぞ!」

「だいたいなあ、生きて帰ったところで、もう帰る場所なんかねえだろ!」

オレの指摘に、タマちゃんがハッとした。

「オレはどこに帰りゃいいんだよ! 父さん母さんばあちゃんからも、サトルからもバイト先からも、きれいさっぱり忘れられちまってんだぞ? 存在消されちまってんだぞ? だいいち、桃太郎にどんな顔して会えってんだ!?」

そうだ。
オレが地下帝国に潜入したそもそものきっかけは、桃太郎に頼まれたからなんだ。
息子を止めてくれ、ってな。

それをほったらかして帰るわけにはいかない!

「……処刑を中止せよ」

その時、奥に座っていた若桃の声が、静かに響いた。

「陛下っ?」

メガネ男がうろたえた。
……お前、そんなに殺しあって欲しかったのか、おい。

「処刑は中止せよ。両名を檻から出すように」

これはもしかして、ラッキーな展開ってやつか?

「何故です。連中は我が帝国に不法侵入した罪人なのですよ? 捨て置けば示しというものが……」

うるせえメガネ男。
良いって言ってんだから、黙って出せ。

「短い時間でかまわん。個人的に、彼らと話がしたいのだ」

若桃の発言に、メガネ男は、納得できないとはっきり顔に出して、立ち尽くしていた。

こいつ、冷静そうに見えて、案外そうでもないんだな……。

「何をしている、聞こえなかったか?」

メガネ男がハッとした様子で、若桃にうやうやしく頭を下げた。

「で、では安全のため、私が陛下のおそばに控えます」

「あら。それはあたしでも良いじゃない?」

オカマが女の口調で提案すると、メガネ男はギロリと恐ろしい目つきでにらんだ。
それをオカマはゆったり笑って受け流す。

うーん……すげぇな、こいつ。

「お前は奴らを檻から出して、妙な真似をしないように見張っていろ」

オカマが小さく肩をすくめてから、檻に近付いて来て、ガチガチャと鍵開けらしいことを始める。

……なんか。
なーんか。

ピンチを脱出できたはずなのに、いまいち安心できない……ような気がするのは、考え過ぎか?






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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
タマちゃん、侍ですね。主も頼もしい感じになってきました。帰る場所がない、というところでグッときました。なのに、
>ピンチを脱出できたはずなのに、いまいち安心できない
で、主らしくて笑ってしまいました。
つる
2008/08/01 22:33
感想ありがとうございます。

タマちゃんに苦労をかけまくり、髪の毛より根性無しだった主も、非日常的な状況にもまれるうち、すっかりたくましくなったようです。
でも基本は変わりません。ええ、きっと。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/08/02 07:00
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