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zoom RSS 足元からの危機(十五回目)

<<   作成日時 : 2008/06/27 22:19   >>

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――のど渇いた。

オレは、その意識で目を覚ました。

体を起こしたら頭がぐわんぐわんして、めまいがした。

うああ……気持ち悪ぃ……。

へたばって床に手をつくと、ゴツゴツした固い石の感触がした。
なんだか体があちこち痛いのは、ここで寝てたせいか。
あ、もしかしたら顔に跡がついてるんじゃないだろうか。

……にしても、ここ、暗いなあ。

目が慣れて来たところで、オレは自分のいる場所がどんな所かを知った。
オレがいるのは、じめじめしてカビくさい牢屋の中だ。
鉄柵の向こうに、遠くまで続く通路がぼんやり見える。

――何でこんなトコいるんだ?

跡がついてるかもしれない顔をなでながら、オレは記憶をかき回す。

――そうだ!

オレ、あのオカマに睡眠薬入りのミルクティ飲まされたんだ。
きっと、寝てる間にここに放り込まれたに違いない。

ったく、あのオカマめ〜。

思い出したら、無性に腹が立ってきた。

大っ嫌いなミルクティを飲ませた上に、薬まで盛りやがって!
次に会ったら、きっちり仕返ししてやる!

あっ、タマちゃんはどうしてるんだろう!?

オレは慌てて牢屋の中を見回した。

……この中にはいない。

ああ、タマちゃん……ひどい目にあってなきゃいいんだけど……。

……。

タマちゃんのことを一番最初に思い出せないあたり、オレって飼い主失格だよな。

オレは、なんとなくひざを抱える。

タマちゃんに、「あるじ」なんて呼んでもらうほどの人物じゃないよな。
オレを「あるじ」にしなきゃ、タマちゃんは幸せな毎日を過ごせたんじゃないかな。

コツ、コツ、コツ、コツ……。

落ちこんでると、靴音が近づいて来た。
オレは鉄柵の向こうに目をこらす。
暗くてよく見えないが、靴音の間隔からすると、こっちに来るのはたぶん男じゃないだろうか。

よし、来るのがオカマだったら鉄柵から手を出してぶん殴ってやろう。

そう決意して立ち上がり、拳を握っていると、薄暗い所から声がした。

「目を覚ましたようだな」

げっ。
こ、この声は……!

「メガネ男っ!」

思わず叫んじまった。
同時に鳥肌が全身にびっしり浮き上がる。

薄暗い場所から、靴音の主がはっきり見える位置まで近付いてくると――やっぱり、メガネ男だった。
もっとも、今はメガネをかけてない。
黒っぽい鎧を身につけてて、やたらと威圧感がある。

メガネ男は、不愉快そうにオレを見下ろした。

「その頭の悪い呼称を撤回しろ」

ふんっ。メガネ男をメガネ男と呼んで何が悪い。

断固拒否の姿勢を見せるベくそっぽを向き続けると、メガネ男は咳ばらいをした。

「……まあいい。ところで、お前はまだ気付かないようだな」
「な、何が?」

ええと、何かあったかな?
オレが焦ってると、メガネ男は見透かしたように嫌な笑いを浮かべた。

「私との接触以後、お前の片目は、かゆくならなかっただろう?」

「あ……」

そういえば、かゆくない。
今までは妙なものに関わると、片目がかゆくなって大変だったのに。

「何故だかわかるか?」

「知るかっ」

メガネ男が顔を近付けて来たので、オレは鉄柵から離れた。

「私が術を解いたからだ。お前を特定してからは、そうする必要がなかったからな」

はあ、なるほど。
何にせよ、あの猛烈なかゆみに襲われなくて済むのは助かる。

「代わりに、お前の耳に術をかけておいた」

「耳?」

オレは、思わず自分の耳を押さえた。
冗談じゃない。
術をかけたり解いたりまたかけたり、人の体をなんだと思ってんだコンチクショウ。

「お前の耳が聞いているものを、私も同時に聞くことができる術だ」

おい!
それ、盗聴じゃねえか!

「それじゃ……オレの行動、全部筒抜けってことかよ」

オレが指摘すると、メガネ男は何だか楽しそうに笑った。

「見かけによらず察しがいい。その通りだ。桃太郎に会ったことも、地下帝国に侵入したことも、全て把握済みだ」

あ、悪趣味なやつ……。
ていうかこの野郎、オレのこと、さらっとバカ扱いしたな。

「ンなことより、ここから出せよっ」

無駄だろうなと思ったけど、オレは要求するだけしてみた。
弱気にはなってねえぞ、とアピールしとかないと不利かなと思って。

「そうか。出たいか。そうしてやろう」

うおっ?
思ってもみなかったことをあっさり言われ、オレは面食らった。

「マ、マジかよ」

こいつ、実は案外いい奴……?

「出された後は処刑が待っているが、な」

ぐあーっ!
期待させんじゃねーよ!
こいつ悪人だっ、間違いなく悪役だあ!

「おい」

メガネ男は後ろの暗がりに声をかけた。
すると、マッチョな大男――タマちゃんを守るためにやっつけた奴と似てるから、たぶん鬼だな――が三人ばかりぞろぞろ出て来た。
何をするんだと思って見ていると、一人が牢屋の鍵を外して、残った二人が牢屋の中に入ってきた。

そして――。

「うわっ」

マッチョな大男に両脇から腕を掴まれて、オレは焦った。
そんなオレを見て、メガネ男はバカにしたように鼻で笑う。

「さあ、行こうか」

メガネ男の後に続いて、オレはマッチョな大男に引きずられるようにして薄暗い通路を進む。


――そのうち、デカイ扉の前までやってきた。
両開きで、高そうな装飾がされた扉だ。

メガネ男は扉を開けると、うやうやしく頭を下げた。
オレも同時に頭を下げる。
もっとも、オレの場合は開いた扉から差しこんできた光がまぶしかったせいだが。
マッチョ男達は、そんなオレにお構いなく、ずるずる引きずって部屋の中に入る。

「陛下、帝国に侵入した不届き者を連行してまいりました」

「そうか、この若者が……確か、この若者以外にも侵入者がいると報告があったが」

――そのうち目が慣れて来て、オレは部屋の様子を知ることができた。

そこは、いつかオレが道路に開いた穴から見た広間だった。
奥の方に、豪華な椅子に腰掛けた金ピカ鎧の男が座ってる。
兜をかぶってるから、顔はわからない。

こいつが……桃太郎の息子、ってわけか。

「共犯者はこちらに」

オカマの声が、まじめな口調でそう告げた。
目を向けると、真っ赤な鎧を身につけたオカマが、鎖を引いた。

たったったった……。

かすかな足音を立てて、柱の陰から姿を現したのは……タマちゃんだった。
タマちゃんは手を触れそうで触れられない位置で立ち止まり、ちょこんと座る。

――タマちゃん!

タマちゃんは頑丈そうな首輪をつけられて、さらにその首輪に切れそうにない鎖をつけられている。
その鎖の先をしっかり握っているのは、オカマだ。

タマちゃんは、鎖の長さいっぱいまで、オレに近寄ってくれていた。

――タマちゃんが、生きている。
どこかをケガした様子もなく、規則正しい息遣いで、そこに、存在している。

オレの胸が、感動で震えた。
今まで生きてきて、こんなに感動したのって、生まれて初めてだ。
何かを見たり聞いたりして、「わー感動したー」なんて言ってたことはあったけど、そんなものとは比較にならない。

本当に感動した時って、「感動した」なんて言えないものなんだ。
オレは、ただひたすら、目をウルウルさせるだけだった。

「タマ、ちゃん……」

よかった、無事だったんだ!

そう言おうとした瞬間、

「では、処刑を始めよ」

奥にいる、桃太郎の息子が厳かな声でそう言った。
声の感じからすると、かなり若そうな感じだった。

……ちょっと待て。あのじいさん、いったい何歳の時に子供作ったんだ?

「はっ」

メガネ男が短く返事をすると、マッチョ男がサッとオレから離れた。
同時に、オカマがタマちゃんに近付いて、首輪から鎖を外す。

途端、がしゃあん! と派手な音が耳元で炸裂した。

――気付くと、タマちゃんとオレは、広い檻の中に閉じ込められていた。

「何だよこれ!」

これから何をされるのか、不安で不安で押しつぶされそうなのをこらえて檻を蹴飛ばすと、

「さあ、犬の末裔と貴様とで殺しあえ。これが処刑だ。生き残った方は地上に帰れるぞ」

メガネ男が、頭から冷水をぶっかけるようなことを言った。






*1〜14話はこちらからどうぞ。


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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
今回はめちゃめちゃ緊迫した展開でしたね。どーなるの?
まだサルが出てないよね?もしかしてサルが?それとも・・・?
あんまり予想しちゃうと書きづらいですよね(笑)
ia.
2008/06/28 23:02
とうとう桃太郎の息子が出てきましたね。いよいよクライマックスなんだ。
あるじの目のかゆみはそういうことだったんだ、と納得。でも、タマちゃんとは戦えないよぉ。どうなるんだろ、これ。
つる
2008/06/28 23:34
感想ありがとうございます。

ia.様>サルですか。サルはですねえ……うふふ、既に出演済みですよ。
妄想万歳です。大歓迎ですよ。

つる様>実はちょっと前から考えてた伏線だったりして。<片目
やっと出せて満足です。
タマちゃんと主人公の運命やいかに!

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/06/29 09:13
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