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zoom RSS 足元からの危機(十四回目)

<<   作成日時 : 2008/05/23 22:22   >>

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……ケツがムズムズする。

オレは、緊張しながら椅子に座っていた。
真っ白い丸テーブルをはさんだ向こう側では、オカマが優雅にカップを口に運んでいる。

「ビッショビショになった服と髪が乾くまでの間、お茶にしましょ」というオカマの申し出を、ありがたーく受けたまでは良かったが……。
……オレ、こういうブルジョワな……いやハイソっていうのか……セレブ……とも違うような……とにかく、こういう雰囲気に慣れていないのだ。

落ちつかないったらありゃしない。

しかも、今オレが着てるのはオカマの借り物だしな。
シンプルなシャツとズボンだが、布の手触りが良い、高そうなやつだ。
普段、良くて自分の小遣いためて買ったやつか、母さんがセールでゲットしてきたやつを着てる庶民なオレの肌には、まるっきり合わない。

「どうしたの? あなたもお飲みなさいな」

「はあ」

すすめられて、仕方なくティーカップを手に取る。

うえっ。

ミルクティーの甘ったるくて独特な匂いが鼻をついた瞬間、オレの背中にぞくぞくっと悪寒が走った。

なんでミルクティなんか飲んでんだよ、オカマ!
オレは……ミルクティーが嫌いなんだよ〜!

これには、ちゃんとした理由がある。

あれは、小学一年生の時だった。
従姉が飲んでいたミルクティを、ねだって飲ませてもらったのだ。
初めての味だった。
口に入れた瞬間、未知の味と風味が広がった。
それを、体が思いっきり拒絶した。
飲み込もうとしたのに、のどから下が受け付けなかった。
ようするに……吐いた。

それがトラウマみたいになって、今でもミルクティが飲めない。

でも、この状況で「ミルクティー嫌いなんで飲みたくないです」なんて言うわけにいかないだろう。
オカマの機嫌を損なうような真似をしちゃマズイことぐらい、オレにだってわかる。

オレは気合いでカップに口をつけ、中身の温度をさりげなく計る。
ミルクティは、人肌ぐらいにまで冷めていた。

……いける!

オレは息を止めて、一気に飲み下した。

「げほっ、けっほ、ごほっがはっ!」

一気飲みは失敗に終わった。
変なところに入りそうになったのを根性で飲み下して、思いっきりむせた。

「あるじ、一体何をやっているのだ」

足元に座って、呆れた目で見上げてくるのは、タマちゃんだ。

「ほっとけ」

完全な八つ当たりとはわかっていたけど、オレはタマちゃんをにらんだ。

「あらあら、大丈夫? さ、口を拭いて」

オカマが慌てず騒がず、きれいなハンカチを差し出してくる。
受け取ろうとしたオレは、寸前で思い止まり、お断り申し上げた。
だってさあ、貴婦人とかが持ってそうなレースのハンカチだったんだもん……。
男としちゃ、何となく使いづらいよなあ。

オレはミルクティで濡れた口を手の甲でぐいぐいとぬぐって、その手をズボンで拭いた。
……借り物だったことを思い出したのは、拭いてからだった。

「で、いい加減話してくれないかしら」

「へ?」

何を話せって言うんだ?
きょとんとしてると、オカマが身を乗り出してきた。

「あなた達、地下帝国の国民じゃないでしょ。軍の関係者ってわけでもなさそうだし。それがどうして、ここにいるのかしら?」

ああ、そうか。
そりゃ疑問に思うわな。

「もしかして……やっぱり、アタシの体が目当て?」

いやいやいやいやいやいや!
それはないから!
絶対それはないから!
そもそも覗いたのだって、セクシーなお姉様だと思ってたからなんだ。
オカマだとわかってたら絶対そんなことしなかったんだー!

「いや、覗くのが目的じゃなくて……その、本当の目的は別にあって」

うーん、どこから説明したものか。
迷いながらオレが言葉を口にすると、オカマの目が興味ありげに輝いた。

「まあ、目的って何かしら」

……オレは、オカマの顔をじっと見た。
あのメガネ男なんかと違って、人の話を聞いてくれそうなタイプだ。
もしかしたら、説得して仲間にできるかもしれない。
オレは、正直に話すことにした。

「オレは、桃太郎に頼まれて、ここに来たんだ」

オカマの眉が、ぴくりと跳ね上がる。

「あるじっ」

タマちゃんがたしなめるような声をあげたので、「いいから」と目で伝えておいた。
タマちゃんは「納得できん!」とばかり、ギロリとにらんできた。

うああ、後が怖ぇ……。

「ワンちゃん。隠すことないじゃない。あなたの正体が割れてる以上、誰が関係してるかはだいたいわかるってものよ。そう……桃太郎様が、あなたを選んだの」

ほれ見ろ。
説明するまでもなく、あっちはわかってたじゃねえか。
ちょっと得意になってタマちゃんを見ると、フン、と鼻を鳴らされた。

「桃太郎は、自分の息子のことを心配してた。息子の気持ちをわかってやれなかったのを後悔してるんだ。言ってたよ、『鬼退治をしておきながら、また一人、鬼を生み出してしまった。最愛の息子を鬼にしてしまった。これ以上の愚行があるか』って……」

オレは、オカマをまっすぐに見つめた。

「頼む。協力してくれよ。地上をこれ以上めちゃくちゃにして、取り返しつかなくなる前に、桃太郎の息子を止めたいんだ」

オカマの口から、ほうっ……とため息が漏れた。

「あなた、何のためにそんなことするのかしら?」

――何のために?
思ってもみなかった質問に、オレは面食らった。

「桃太郎が後悔してたから……何とかしたいって思ったんだ。それだけだ」

「あら。正義感がとっても強いのねぇ」

違う。
オレは、正義感がどうこう、なんていう立派な人間じゃない。

オレは、首を横に振った。

「正義感から行動しているのじゃないのなら、何が理由かしらね。何か得をするのかしら?」

得……か。
その方がしっくり来るような気がする。

事実、桃太郎の息子を止められたら、オレは元の生活に戻れるんじゃないか、ってうっすら考えてもいるんだから。

本当はどうなるかわからないのに。

「得は……どうなるかわからないけど、期待してるよ。元の生活に戻れるんじゃないかって。オレ……地上に家族や友達がいるけど、存在を消されてるから、今はもう、誰もオレのこと知らないんだ。帰れないんだ」

存在を消されてる。
誰もオレのことを知らない。

とっくに理解したと思っていたのに、自分で口にした瞬間、グサッと刺されたような痛みが走った。

――オカマはしばらく黙ってた。

「うーん。語ってくれたところ悪いけど、アタシってば、若桃様派なのよねえ」

オカマがカップをソーサーに置き、腕組みをした。

「わかももさま?」

誰だ、そいつは。

「桃太郎様の息子だから、若桃様。アタシはそう呼んでるわ」

あー、なるほど。

って、ちょっと待て。
それってもしかして、協力はできないって言ってるようなもんじゃねえか?

……まずくね?

「そうそう、言っておかなきゃいけないことがあるの」

オカマが、にこりと笑った。

「そのミルクティー、実は睡眠薬入りだから。そろそろ効いてきたんじゃない?」

――そんなこと、言われるまでもなかった。

オレの体からすーっと感覚がなくなって、視界がやたら狭くなってきたから。

「あるじっ!」

タマちゃんが立ち上がった……と思ったら、オレの首筋に冷たい感触の物が押し当てられた。

「動かないで。アンタの大事なご主人様の首が、胴体とサヨナラするわよ」

ってことは、首筋に当てられてるコレって……刃物なんだな。
ああ、こりゃピンチだねえ……。
自分のことだっていうのに、まるっきり他人事にしか思えないのは、薬のせいだろうか。

「くっ……わかった。抵抗はしない。キジ殿、あるじに手出しするな」

タマちゃんが牙をむいて筋肉を震わせながらも、しぶしぶ「お座り」をする。

「はいはい、物分かりが良くって助かるわあ」

タマちゃんに笑顔を向けると、オカマはオレのあごをつかんで、目をのぞきこんできた。

「アンタってお人よしねえ。敵のところにいるんなら、用心しなくちゃダメじゃない。出されたものに毒が入ってたらどうすんの。一体どんな生活してるんだか」

普通の高校生は「出されたものに毒が入ってるかも」なんて心配しねえっての。

オレはそう言い返したかったが、眠くて眠くてそれどころじゃなかった。

「あらら、ひょっとして薬が強すぎたかしら? でも、不法侵入者を見逃すわけにはいかないの。これも仕事のうちだから、許してね」

ああ……頭の中が真っ白になっていく……。

「あるじ……っ!」

タマちゃんの声が、くぐもって聞こえる。

ああ、タマちゃんごめんね。
オレ、ホントにダメな奴だ。

自分が危ない所にいるんだっていう自覚もなしに、あほんだらな行動取って、ピンチになって……。

強烈な眠気に引きずられて薄くなる意識の中で、オレはどうにか「タマちゃん、ごめん……」とだけ言った。






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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
わたしも素直だから騙されました。キジの子孫だし、オカマだし、話せばわかるって誰だって思っちゃいますよ。
あるじが眠っている間に、少しでも事態が好転するといいんだけど。
オカマのエレガントさが良くでてました。そこんところ感心しちゃいました。
つる
2008/05/23 23:50
感想ありがとうございます。

エレガントなオカマって前々からちょっと書いてみたかったので、つい力を入れてしましました。
子孫かどうかは実はまだ保留中です。
タマちゃんは確実に末裔なのですけど。
展開によっては(作者の都合ともいう)、鬼退治に行った本人ってことになるかも?

主人公が目覚めた時、事態はどっちに転がってるのか!?
待て次回!

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/05/24 21:19
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