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zoom RSS 草むらから……

<<   作成日時 : 2008/04/19 22:13   >>

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ある日の朝、いつものように車で通勤していると、道のわきにある草むらに、人が仰向けになっているのが見えた。

「うわわわっ」

私は、思わずブレーキを踏んだ。
自分としてはさほどスピードを出していないつもりだったが、車はけたたましいブレーキの音をたてて止まった。
……後続の車の運転手が、えらい迷惑そうに私を見て追い抜いていく。

あんなもん目撃した日にゃ、誰だってビビるでしょうよ。

私は追い抜いていった車をひとにらみしてから、車を降りて草むらに踏み込んだ。

「大丈夫ですか!?」

仰向けになっている人に駆け寄ってみて、私はあ然とした。
人だと思っていたものは、服を着たマネキンだったのだ。

何て人騒がせな!
……ま、まあ、何事もなかったんだから良しとしよう。

私は自分を無理矢理納得させ、車に乗り込んだ。
通勤途中なのだから、これ以上まごまごしていられない。

次の日、通勤途中にちらっと見ると、また人が草むらに仰向けになっていた。
昨日のマネキンのそばに、無造作に寝転がっている。
どうしようか迷ったが、何かあっては大変なので、声をかけることにした。

「もしもし、大丈夫ですか」

声をかけて、後悔した。
昨日のマネキンのそばに寝転がっていたのは、違うマネキンだった。

一体どこのどいつだ、こんなことして! 何が楽しいんだ!

私は、二度と関わるもんかと心に誓った。

マネキンは、次の日もその次の日もその次の日も、一体ずつ増えていった。
おかげで小さな草むらはマネキンだらけだ。
どこぞの人形メーカーが倒産して、行き場のなくなたマネキンをこっそり捨てていくのかもしれない。

いつしか、マネキンが捨てられている草むらを、ホラーマニアがこぞって見に来るようになった。
人間そっくりなマネキンが捨てられていて不吉な光景が広がっているうえに、夜ともなるとその辺りは明かりがないので、より不気味さを増すのだ。
ホラーマニアにとってはその辺がたまらない魅力らしい。

だが、好んで見に来るホラーマニアが喜んだとしても、地元住民はそうもいかない。
ただひたすら不気味で恐ろしいばかりだ。
草むらの前の道に足を踏み入れる地元住民はいなくなり、その道は子供らの通学路から外され、さらに「行ってはならない危険箇所」指定となった。

――そして、それから数ヶ月後のこと。

残業で遅くなった夜、私はあの草むらの前の道を車で走っていた。
マネキンが増えた頃から、夜になると怖いから通らないようにしていたのだが、最近通ることにした新しい道がひどい渋滞だったので、近道をかねてこの道を選んだのだ。

草むらが近付いてくるにつれて、いやな汗がにじんでくる。
草むらは大した規模じゃないから、車で通りすぎるだけならほんの数秒で終わる。

そのほんの数秒のうちに、何も考えず何も見たりしなければ、万事解決だ。
明日からはこの道を通らないんだから。

ハンドルをぎゅっとにぎりしめたその時、車のライトがタヌキの姿を照らした。

――しかも、ヤツはマネキンの手をくわえていて……

「きゃああああああっ!!」

ブレーキを思いきり踏みこむと、タイヤがキイイイッときしんで音をたてた。
私は衝撃で前のめりにハンドルにぶつかった。

痛みをこらえながら顔を上げると、タヌキが道を渡り、反対側へと姿を消すところだった。

どうやら、あのタヌキ、マネキンの手を獲物と勘違いして持ち帰ったようだ。
食べられやしないのに。

ぷつん。

私の中で何かが音を立ててぶち切れた。
今にして思えば、それは堪忍袋の緒、ともいうべきものだった。

おいこら、不法投棄していくヤツ!
かよわい女をこんなに怖がらせて、何が楽しいんだ、てめえ!
この根性悪が!
お前の腐った性根、叩き直してやるっ。

社会的制裁を受けて、改心するがいいさ!

私は、迷うことなく携帯電話を取りだし、警察に連絡した。

――数時間後。

私は、警察署で事情を聞かれていた。
マネキンが捨てられるようになったのはいつ頃か、というところを重点的に聞かれ、次にどういうわけか遠まわしにアリバイを尋ねられた。

「一体何なんですか? まさか、私があのマネキンを捨てたってお思いなんですか?」

そんなの、冗談じゃない。
私がイライラして眉を吊り上げると、取り調べ中の刑事が手をヒラヒラと振った。

「いえ、実は――……マネキンの山の中から、バラバラに切断された死体が見つかりましてね」

木を隠すには森、という発想か。
犯人は完全犯罪をもくろんで、少しずつ少しずつマネキンを増やしていったのに違いない。
日頃からマネキンだらけなら、そこに本物の死体が一体混じっていたって、そうそうバレやしないだろう。
その状況に慣れきった人々は、せいぜい「ああ、新しいマネキンか」程度のことしか考えないだろうから。

その用意周到さと計画性に、私は身震いした。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
木を隠すには森……ですね。
私が隠れるには美女の中だわ。

死んでから裸で放置されるなんてかわいそうです。ホラーマニアも飽きて見に来なくなった頃に捨てられたのかなって思いました。
七花
2008/04/19 22:37
わたしも、隠れるなら美女の中がいいなあ。
初めに捨てられていたマネキンから、一体ずつ増えていく丁寧な書き方が由愛さんらしいです。そして一気に読ませてしまう。フィクションとノンフィクションの中間みたいな、ゾクッとするお話でした。主人公が男か女か、途中まで伏せてあるところがミソだと思いました。
つる
2008/04/20 00:21
ミスりました。ひとつ消去お願いします。
つる
2008/04/20 00:23
感想ありがとうございます。

七花さま>私はやだ!ブサイクだから美女の中にいたら悪目立ちしちゃう!
殺人の犯人イコール不法投棄の犯人にした方が良かったかな?(今更何を)
ちなみに私は心霊系ホラーが大の苦手ですが、生きている人間が犯人というオチのホラーなら、大好きです。

つるさま>男にするか女にするかは、実は書いている途中に決まりました。
きっと、主人公を男にすると「おらおら男がマネキンごときでびびってんじゃねー!」って思っちゃうからですね、私が。
コメントミスは消しておきますのでご安心ください。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/04/20 21:16
また怖い話だー(T_T)
あ、でも最後まで読ませてもらいました。、最後の方になってから怖い話とわかったから。(笑)

ブチ切れた時のセリフが、コミカルで救われました。
『木を隠すなら森へ』的な発想なら、死体を隠すのにはマネキンがいいのかもしれませんね。これが霊安室から始まる話なら、絶対にスルーしてました。(汗)

ちなみに私が隠れるのに絶好の場所は、ジャニーズです。(違)
けビン
2008/04/20 22:20
感想ありがとうございます。

そうですか、けビンさんはジャニさんのところに……って、いけません!
うっかり五人ぐらいで組まされて、デビューさせられてしまうかもしれないじゃありませんか。
サイン下さい(何

そして、怖い話だと涙する、そんなあなたのために!
次回は怖くない話にします!
たぶん。
いやいや、きっと。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/04/21 22:20
草むらから…… プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
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