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zoom RSS 足元からの危機(九回目)

<<   作成日時 : 2008/03/26 21:02   >>

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「鬼退治からしばらくした後、私は妻を迎えました」

おお。そりゃ昔話になかったな。
オレはふんふんとうなずきつつ、先を早く聞きたくなった。

「私と妻の間には、息子が生まれました。それは可愛い子でしたよ。花と動物が大好きな、心の優しい子で……」

そう言ってじいさんは目を細める。

「それで、今どうしてんだ?」

オレが聞くと、じいさんは表情を曇らせた。

「遠い場所に行ってしまいました」

お、およ。
思わぬ答えに、オレは気まずくなった。

「え……死んだ、とか?」

おそるおそる聞いてみると、じいさんは首を横に振る。

「生きていますよ……遠い場所でね」

何だ?

「外国にでも行ったのか?」
「いいえ。息子は地下にいます」

それって、やっぱ死んでるってことなんじゃ……?
そう思ってると、じいさんは、片手でそっと足元を指さした。

「息子は地下に帝国を作り、支配しているのです」
「な、何っ!?」

オレは目を丸くした。
地下と帝国という二つの言葉が出てきた日にゃあ、あれしかない。

「お、おい。それじゃ何か? オレが見た地下帝国の『陛下』とか呼ばれてた奴は、あんたの息子だってのか?」

「そうです」

沈痛な面持ち、という表現がぴったりな顔で、じいさんはうなずく。

……開いた口がふさがらない。

桃太郎の息子が、何で地下に帝国なんか作ったんだ?
なんで地上を支配しようとしてるんだ?

「あんたの息子に何があったんだよ?」

オレは思わず身を乗り出す。
こうなりゃ徹底して聞き出さなきゃ気がすまない。

「息子は……おそらく耐えられなかったのです。桃太郎の息子という目で、人々に見られることに」

ど、どういうこっちゃ。
心の中のつぶやきを、オレは顔に出していたらしい。
じいさんが、すっと両手を組んでオレの目を見た。

「あなたのご両親は、どういった方ですか?」

う?
なんでオレの親が出てくるんだ?

「父さんはただのサラリーマンで、母さんは専業主婦だけど……時々パートに出たりしてる」

よくわからなかったが、取りあえず答えておいた。

「高貴な血を引いているということは?」
「ないない。家だってローン組んでやっと買ったんだし」
「……では、今まで親を通して自分を見られたことはないのですね?」

オレは、頭をかいた。

「あー……ないな」

「それは幸いです。親の人生は親の人生。子供の人生は子供の人生……そう、当たり前のことです。私は、わかっていたはずなのに……」

じいさんの組んでいた両手の指先に、力がこもるのがわかった。

「私の息子は、私を父に持ったばかりに、生まれて間もない頃から色々と言われていました。『桃太郎の息子だから、将来は武芸に秀でた子になるだろう』とか『いずれは鬼退治に行って名をあげるだろう』とか……周りの人間は、誰一人悪意なんて持たずに、無邪気に勝手な噂をしていたのです」

じいさんの口から、深いため息が出てくる。

「それが、息子をどれだけ傷つけ苦しめているか、誰も気付きませんでした。親である私でさえも」

だんだんシリアスで湿っぽくなってきたなぁ……。
なんて思ったが、態度に出したらマズイので、オレは黙って聞き役に回ることにした。

「そうして十五になったある時、息子は鬼退治に行くことになりました。息子は、本当は鬼退治になど行きたくなかったのでしょう。前日の夜に『鬼は、どうしても殺さねばならないのですか』と私に尋ねてきました。私は『当然だ、鬼は人間に災いをなすのだから容赦をしてはならない。お前は私の息子なのだから、きっと立派に役目を果たせる』……と、励まして送り出しました。かつてのお供であった犬と猿とキジの子孫を共につけて」

犬だけじゃなくて、猿とキジにも子孫がいたのか。
じゃあ、じいさんがオレに継いで欲しい意思って、ひょっとしてその猿とキジを探せってことなのかもな。

「旅に出た息子はすぐに行方知れずになりました。どこを探しても消息は知れず……それから数年後、息子は帰って来ました」

「へえ、良かったじゃん」

「鬼どもの首領になっていても、ですか」

じいさんの目に射すくめられて、オレは、自分の血が引くのを感じた。
桃太郎の息子が鬼の首領になるって……それ、何の冗談だよ?

「息子は率いてきた鬼どもに命じて、村を破壊しました。私は刀を取って立ち向かいましたが、結局、村人の大半を死なせてしまいました」

おいおいおいおい。
何がどうしてそうなった?

「……息子は、私に言いました。『お前の息子というだけで俺はずいぶん苦しんだ。お前達は残酷だ。期待する言葉で、本当は俺を縛り付け呪いをかけていたのだ』と」

それが『人間は悪意もなく残酷なことをしてのける』ってことか。
オレは、鼻のわきをぽりぽりかいた。

なんとなく、桃太郎の息子とやらの気持ちがわからないでもない。
あんまり立派過ぎる親がいて、周りから絶えず「がんばれ」だの「期待してるよ」だの言われ続けたら、窮屈でかなわんだろうな。

中学の時に、クラスにいたなぁ。
親が大学病院の院長をしてるとかで、テストで毎回最低九十点以上は取らないと許してもらえない、って言ってた奴。
三年の二学期に、有名な進学校に行くって言っていたのを、いきなり生物関係の学科のある高校に行きたいって言い出して、三者面談の日に親と学校で大ゲンカしてたっけ……。

クラスの連中はあいつを見るたび、言ってたな。
「さすが、大学病院の院長の息子ともなると、住む世界違うよなー」とか「なんか、勉強できて当たり前、って感じ」とか。

オレも、進路どうするか悩みながら、似たようなこと考えてた。
「あいつは良いな。もう将来何になるか決まってるんだし」って……。


「息子は、鬼どもに出会い、歓迎されない悲惨な境遇にある彼らに自分を重ねたと言っていました。村を破壊した息子は各地で鬼を集め、地下へともぐり……そこに鬼どもを国民とする帝国を築いたのです。道中で落石にあって生き別れになってしまった犬をのぞいて、猿とキジも息子に賛同し、帝国建設に協力しました」


じいさんが話を再開しているのに気付いて、オレは慌てて思考を現実に戻した。

「私は……この手で鬼退治をしておきながら、結局、また一人この手で新たな鬼を生み出してしまったのです。最愛の息子を鬼にしてしまったのですよ。これ以上の愚行がありますか」

悲痛な声でそう言うと、じいさんは深く深くうなだれた。

「……じいさん」

オレは、テーブルに手を置いた。

「あんたの意思を継ぐってことは、何をすればいいんだ? あんたの息子を殺せってことなのか?」

じいさんは「違います」と静かに答えた。

「私は……息子の死を望んではいません。できることなら、救い出したい……」

「……やるよ、オレ。あんたの息子を説得して、地上を侵略するの止めさせる」

「良いのですか?」

じいさんの目が希望に満ちた輝きを見せたので、オレはついっと目をそらした。
直視するのが何となく気恥ずかしかった。

「……だって、オレ、自分の家に帰りたいし、さ」

気にするな、ぐらいは言えそうな気もしたけど、オレの口からは素直じゃない言葉が出て来た。

「ありがとう……ありがとうございます……」

しわの中に埋もれたじいさんの目が、涙でゆらゆら光って見えた。






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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
え〜!と、まさかの展開でした!
気付かなかったです。伏線もあったのに。桃太郎に惑わされました。
極上のミステリのような裏切りに、キャキャ☆と大喜びしちゃいました♪
面白い、実に面白い。(←フクヤマ風?)
ia.
2008/03/27 01:14
感想ありがとうございます。

良い意味で裏切れましたか、良かった良かった♪
略奪にしようかどうしようかと悩んでいるうちに、こうなりました。
こんな品行方正っぽいじい様が、強盗なんかしてたら嫌だし。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/03/27 06:50
いやー、この「オレ」が、だんだんその気になっていく過程が自然だわ。
盛り上がってきたね。
つる
2008/03/27 23:09
感想ありがとうございます。

自然に感じられますか、良かった。
最近描写してて「不自然かなあ」って悩んでいたところだったので。
でも主人公はかっこよくなったりしない方針で(おい)

よろしければ、またおいで下さいませ。

鈴藤由愛
2008/03/28 06:58
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