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zoom RSS 足元からの危機(八回目)

<<   作成日時 : 2008/03/24 22:55   >>

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招待されたじいさんの家は、古めかしい洋館、という表現がぴったりだった。

通された居間は、オレの家が物置に思えるほど広いし、暖炉があるし、壁には首だけの鹿のはく製とか高そうな絵とかが飾られてるし、巨大な古い柱時計がゆったり振り子を振ってるし、真ん中にはアンティークっぽいテーブルと椅子が置いてあるし。

そう……例えると、大富豪が亡くなって、その一族が集まって遺産相続を巡って争ってるうちに、殺人事件が起きそうな感じの雰囲気だ。

……お、落ち着かん。
一般庶民のオレにとっちゃ、はるか高みのハイソな世界だ。
こんなとこ、椅子に座ってるだけで、ケツがむずむずしてくる。
あのじいさん、実は相当な金持ちなんじゃ……。

「タマちゃん」

オレは、足元でおとなしく寝ているタマちゃんに声をかけた。
タマちゃんは、くい、と頭を持ち上げてオレを見た。

「どうかしたのか、あるじ」
「いや、あのさ。なんか落ち着かなくって」
「何を臆している。気にせず普段通りしていれば良い」

それができないから、話しかけてんだろが。

と、居間のドアが開いた。
見ると、じいさんがティーポットやらカップやら、クッキーやらを載せたトレイを持って入ってくるところだった。

じいさんはテーブルにトレイを置くと、慣れた手つきでお茶を用意し始めた。

「どうぞ」

オレは、目の前に置かれたカップをじい〜っと見つめた。
カップ自体は珍しくもないが、問題は中身だ。

紅茶とも違う感じの、赤茶色の液体が入っている。

そっと鼻先に近づけてみると、

「ぶふっ」

うおぉ、すんごく嫌な感じの漢方薬の匂いが……。
こんなもん飲めるか。

「体が温まりますよ。お飲みなさい」

じいさんは紅茶でも飲むように、優雅な雰囲気さえ漂わせて飲んでいる。
……これ飲んだら、体が温まる前に、どっかおかしくなりそうな気がする。
オレはカップをテーブルに戻し、クッキーに手をつけた。

クッキーの方は、変な匂いがするとか、変な物が混ざってるとかいうこともない、いたってごく普通の美味しいクッキーだった。

「なあ」

ぼりぼりクッキーをむさぼった後、オレは口を開いた。

「何でしょう」
「あんた、何者なんだ?」

質問すると、じいさんは静かにオレを見た。
穏やかで知性と気品が感じられる眼差しの中に、何か、ぞくっとする光が見えた。

「私の事が知りたいと?」
「お、おう」
「……困りましたね。どこから話せば良いか……」

そう言うじいさんの顔は、本当に困っているようだった。

「いいから教えろよ。一から十まで全部!」

オレは立ち上がってテーブルに手を置き、身を乗り出した。

「あんた、初めて会った時言ったよな? 『私の意思を継いでいただきたい』だの『継ぐか無視するか自分で選べる』だの――あれはどういう意味なんだ?」

じいさんは答えない。
ただ黙ってオレを見ている。
オレは負けじと見つめ返す。
なんとなく、目をそらしたら負けになるような気がして。

しばらくそれが続くと、じいさんが、ふーっ、と息を吐いた。

「わかりました。では全てを話しましょう……長くなることだけは覚悟しておきなさい」

「わかってら」

オレは椅子にもう一度腰掛ける。
その時、柱時計がボーン、ボーン、と古めかしい音を立てた。

今は……九時、か。


「桃太郎の話をご存知ですか」

「は?」

いきなり何を言い出すんだ、じいさん。

「有名な昔話でしょう?」
「そりゃ……知ってるけど」

「私は、ひどく乱暴で簡潔な言い方をしてしまうと、その桃太郎なのです」

…………………………。

「わりぃ。もう一回言ってくんねぇ?」

「私は桃太郎なのです」

「あ、すいませんオレ帰ります」

「真面目に話しているのですよ、聞きなさい」

静かだけど、声音に怖いものが混ざっている。
オレは、浮かしかけた腰をもう一度椅子に沈めた。

「あんたが桃太郎だとして・……つまりアレか? 意思を継げってことは、オレに桃太郎やれってことか?」

「そういうことになります」

じいさんがうなずく。

「無茶言うなよっ! オレの体育の成績知らないのか? 五段階評価で3だぞ、3。剣道とか空手とかもやってねえし、鬼なんかと戦えるわけねーべっ!」

「武勇に秀でていれば良い、ということではありません」

ふと、足元のタマちゃんが視界に映った。

「って、タマちゃんっ! お前確か桃太郎のお供やった犬の子孫なんだろ? このじいさんが桃太郎なら、なんで反応しないんだっ?」

ほとんど八つ当たり状態でタマちゃんに追及する。
タマちゃんにしてみれば、とんだとばっちりだろう。
カッコ悪いよオレ、と冷静に頭のどこかで考えている自分がいる。

だけど――非現実な状況に直面してる思考回路は、そうそうブレーキがかからない。

「この子は末裔でしょう。私とは面識がありませんよ」

じいさんが、タマちゃんをかばうように発言する。

「……まさか、伝説に聞いた本人のお顔を拝見できようとは。だが我があるじはただ一人。いかに桃太郎様とは言え、先祖のような忠誠は見せられぬ」

「そう、それで良いのですよ。自分で自分のあるじを見つけるのが一番です」

待て待て待て。
オレは最大級のツッコミを入れたくてたまらなくなった、

「桃太郎が何でお茶汲みに慣れてんだっ。何でこんなハイソなお屋敷に住んでるんだっ」

桃太郎を名乗るならせめて、和風の屋敷に緑茶とおせんべいで迎えてほしかったぞ、オレは。

「今の世に合わせて生きているだけのことです。それに、この家は人から頂いたもの。私の存在はこの国の中枢に携わる人間達だけが知り得る国家機密です。衣食住全て、この国に守られて生活していますが……反面、完全な囲われ者です。人としての最小限な自由すら持ち合わせていません。ほんの少しの外出すら、良い顔をされないのですよ」

な、何が何だか……。
オレは、頭がクラクラしてきた。
いっそのこと、このままぶっ倒れちまえば、このメンドくさい状況から逃げられるのかな。

「あなたの知る話の通り、桃太郎……私は鬼退治をしました。桃から生まれたという点だけをのぞけば、昔話はほぼ事実です」

「ふ、ふーん」

「私は鬼退治を終え、鬼達が差し出した宝を持って村に戻りました。育ててくださったおじいさんとおばあさんに楽な生活をさせることもでき、たくさんの人々に尊敬されたのです」

じいさんは、どことなくなつかしそうな目をしていた。
たぶん、今話している辺りの頃が、じいさんにとって『一番輝ける時代』ってやつだったんだろうな。

「ですが……」

不意に、じいさんは悲しげに目をふせた。

「私はそれまで知らなかったのです。人間は悪意もなく残酷なことをしてのける、ということを……」






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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
うわあ、由愛さんすごい!昨日今日でこの量の更新はすごい。きっと集中力がハンパないとみました。それに由愛さんがのってる感じもする。読んでいて面白いもの。じいさんに受け答えするオレが可笑しくって。壮大なスケールになりそう。
つる
2008/03/24 23:54
感想ありがとうございます。

のってる……というか、なんか、書かずにいられないんですよ。
気がつくとどう展開させるか考えてるし。
取りあえず主人公はこれからもこんな調子で。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/03/25 07:19
洋館で密室殺人が起こるのかと(笑)
桃太郎の懺悔が始まりそうですね。
鬼退治は略奪だった?
ia.
2008/03/25 13:11
感想ありがとうございます。

洋館イコール密室殺人イコール名探偵という安直な図式が作者の頭にはあります。
うーん、略奪にしようかそれとももっと別のことにしようか。
実はまだ決めてません(何)

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/03/25 20:37
おお、桃太郎出てきた!彼の語り口が好きです。「安楽椅子の探偵」みたいに(読んでないけど
neon1914
2008/03/26 08:19
感想ありがとうございます。

ええ、ついに桃太郎登場ですよ。
しかもじい様になってますよ。若い時は、きっと勇ましい口調だったに違いないのですよ。

安楽椅子の殺人、私も読んだことない。
誰の作品だろ?

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/03/26 14:02
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