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<<   作成日時 : 2008/02/24 21:28   >>

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わたしはお姫様。
ウサギさん達が身の回りのお世話をしてくれるの。

朝はウサギのばあやが起こしてくれて、身支度を整えてくれる。
その後は朝食。
とびっきり美味しい料理を作ってくれるウサギさんがいて、わたし、朝から幸せ。
今日も一日、とっても楽しいことが待っていそうな、そんな気持ちになれるの。

お食事の後は、馬車に乗ってお花畑へ。
お花をつんでいると、お友達が話しかけてくるの。
わたしのお友達は、森の中に住んでいる動物たち。

「おはよう、お姫様!」
「ご機嫌はいかが?」
「今日も気持ちの良い天気だね」

わたし、みんなに会えるとニコニコしちゃう。

大好きなみんなに、つんだお花をプレゼント。

「ありがとう、お姫様」
「わあ、とってもいい香り」
「次に会ったら、きっとお礼をするね」

わたし、逆にみんなから笑顔をプレゼントされちゃった。
幸せって、きっとこういうことを言うのね。


それにしても、今日はなんだかいい天気。
暖かくて、とても気持ちがいい。

うつら、うつら。

わたしは眠りの世界に引き込まれていった……。










「ごめんな、本当に……ごめんな。父さんが、駄目な父さんだったばっかりに、みんなにつらい思いさせて……」

薄暗い車の中で、涙をぬぐう運転席に座った男の人。
――お父さん。
私はそう呼びかけようとしたけれど、どうしても声が出なかった。

「あなた、いいのよ。自分ばかり責めないで……今はただでさえ生きるのが難しい世の中なんだもの……」

お父さんの肩にそっと手を置く、助手席に座った女の人。
――お母さん。

二人はげっそりと痩せこけて、疲れきった表情をしていた。

「家族を道連れにして死ぬ父親なんて、最低だよな。俺がもっと強かったら、お前達に惨めな思いをさせなくて済んだのに……」

「いいのよ……私も生きて行くのに疲れたところだったもの……これ以上、生きていたい理由なんてないわ。そうでしょ……?」

お母さんの生気のない瞳に見つめられて、わたしは黙ってこくりと頷いた。

――これ以上、生きていたい理由なんてない。


お父さんが経営してた会社が倒産して、ものすごい額の借金が出来て。

だんだん、生活のレベルが下がっていくのがわかった。

お父さんの再就職がなかなか決まらなくて、お母さんが働きに行くようになって、家族一緒で過ごす時間が少なくなって。

借金を取り立てに来る人は、毎日やってきては「金返せ」ってわめき散らして。

わたしは、学校でいじめられるようになった。

「あいつの家、ビンボーになったんだってよ。あいつの靴、ゴミん中から拾って来たんじゃねえの?」

クラスメイトに、その言葉を投げつけられた昼休み。
わたしは学校を飛び出して、そのまま家から一歩も出ない生活を始めた。


――生きていたい理由なんてない。

わたしを「生」につなぎとめるものなんて、ない。

こんな「生」なら、捨てたってかまわない。


「大丈夫よ……薬を飲んで眠っていれば、全部終わってるから……きっと、新しい人生が始まってるから……」


わたし達は、睡眠薬を飲んで、そのまま眠った。
車の中に、火のついた練炭の入った七輪を置いて。

……それなのに、わたし一人だけ、死に損なった。

ご親切にも、車を発見して警察に通報してくれた人がいたのだ。

両親は助からなかったけど、私だけは助かってしまった。

生きていたくなんてなかったのに!

たった一人、家に戻ったわたしは、その日、ありったけの風邪薬を――。










「姫様! しっかりなさってください、ばあやの声が聞こえますか、姫様!」

ばあやの声で、わたしは目を覚ました。

「苦しそうにうなされていらしたので、つい差し出がましいことをいたしました。姫様、どこかお加減の悪いところはございませんか?」

目を覚ましたわたしは、びっしょりと汗をかいていた。
ばあやが、それをハンカチでそっと拭ってくれた。

「……ばあや、わたしね、とても恐い夢をみたの……」

そう言うわたしの唇は、震えていた。

「まあ、さようでございますか。おいたわしや……」

ばあやのいたわる言葉に、わたしは、ぽろぽろ涙を流した。

「大丈夫ですよ。ただの夢ですからね。怖がることなんかありません。悪い夢なんか、このばあやが追い払って差し上げますよ」

ばあやの小さな手が、わたしの背中をなでてくれる。

わたしは、少し落ち着いた。


――そう。

だってわたしは、お姫様。

あんな……あんな人達がわたしの両親のはず、ないもの。

きっと、今が幸せ過ぎる反動で、悪い夢を見てしまったんだわ。

「そろそろお茶の時間ですよ。さあ、お城に戻りましょう」




ばあやに優しく手を引かれながら、ふと視線を落とした、もう片方の手。

その手に握られた、つんだばかりの花で作った花束が、みるみるうちに干からびて、ボロボロ崩れていった。



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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんわ。
鈴藤由愛さんの童話風の世界観には、いつも引き込まれてしまいます。
ウサギの国、いいなぁ。
その分、現実の辛さが・・・。
それでもとても綺麗な作品で、面白かったです。
ia.
2008/02/24 22:37
こんにちわ。
ウサギの国が言葉に出来ないくらい素敵です。花束のところが新しい発想だなと思いました。
儚いですね・・でも美しいです。
neon1914
2008/02/25 16:40
ウサギたちと暮らすお姫様が見た夢って信じてます。
それにしても前半の世界がなんて美しく描写されているんでしょう。
つる
2008/02/26 00:32
感想ありがとうございます。
ia.さま>前半の描写は乙女度MAXで頑張りました。後半の悲惨な場面ですが、ホントは全身大ヤケドにする予定でした。あんまりにもあんまりなのでやめました。
neon1914さま>はじめまして、ようこそ。儚いのは人の夢だから、ってやつですね。花束はこれは現実ではないかもよ、という象徴的ないみあいで。
つるさま>どちらを夢と信じるかはあなた次第!でも、ウサギの国の方が現実だったら、私も楽しく生きていけるだろうな。

それでは皆様、よろしければ、またおいでくださいませ。
鈴藤由愛
2008/02/26 18:56
現実の辛さが反作用で綺麗な夢を生むのでしょうね。

2008/02/27 01:33
感想ありがとうございます。
現実が悲惨過ぎるなら、せめて良い夢を見たいものですよね。
この世界は誰かの見ている夢だという話がありますが、それにしちゃあんまりにもあんまりな悪夢です。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/02/28 18:02
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