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<<   作成日時 : 2007/12/07 21:51   >>

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昼休みに入った。
たくさんの生徒が歩いていて、廊下はにぎやか。

私は、視聴覚室で一人、固まっていた。

私の前には内ばきが一足ぶん。

視聴覚室は一段高くなってて全面じゅうたん張りになってるから、内ばきは脱がなきゃいけない決まりなのだ。
しかも靴箱がないから、リノリウムの床の入り口のところに脱いでおく。
さっきまで、ここには大量の内ばきが置いてあった。

今残ってる一足ぶんの片方には、私の名前が小さく書いてある。
そしてもう片方には……「鈴木」。
これ、私の名字じゃない。

これがどんな事実を示しているか、普段どんくさい私にも嫌というほどわかった。


だ、誰か、私の内ばき片方間違えて履いてった……っ!


今日の四時限目は視聴覚室に移動しての英語の授業だった。
私は英語の教科係。
授業が始まる前に先生のところへ行って、今日の授業のことを聞いて、クラスの皆に移動するように伝えた。
そして授業が終わると、片付けで最後まで残っていた。
教科係は施錠までが仕事だから。
皆が出ていった後、さて出ようとした私を待っていたのは、今まさに目の前の状況。

ちょっと〜……。

私は、鈴木と書いてある方の内ばきをにらんだ。
名字だけじゃなくて、名前までちゃんと書きなさいっての!

……いや、私も人のこと言えないけど。

汚れ具合から言うと、なんとなく男子の内ばきっぽい。
でも、実は女子のだったりして……?
わ、わかんなくなってきた……。

「あれ、どうしたの?」
「あ、石田さん」

途方にくれてると、学級委員の石田さんが声をかけてきた。
美人で気さくで、特に男子に人気がある優等生だ。
……そのぶん、女子の中にはライバル意識というか敵対心というかをメラメラ燃やしてる子がいたりして。

私は同じ土俵に上がれるレベルの見た目じゃないって自覚してるから、一度もそんなふうに考えたことないけど。

「視聴覚室から出てこないから、心配になって……どうしたの?」

うう、石田さんっていい人だなあ。

「誰か私の内ばき、間違えて履いてったみたいで……」

私は、違う名前の書いてある内ばきをひょいと持ち上げてみせた。

「大変ね。探すの手伝ってあげようか?」

一瞬、手伝ってもらったほうがいいかな、と思った。

けど、石田さんが内ばき持って「これ誰のー?」って言うんだろうかと考えたら、非常に申し訳ないような気持ちになった。

「ううん。同じクラスの人のを見ればいいんだし、そんなに大変じゃないと思う。自分で探すよ」
「そう?」
「とにかく、ここ出よう。鍵かけておかなきゃいけないから」
「じゃあそれ、私がやっとくわ」
「え、良いの?ありがと」

私は、彼女の好意に甘えることにした。
だって、早いトコ自分の内ばき見つけたいんだもん。

「内ばき見つからなかったら手伝うから、いつでも言ってね」

私は石田さんのキュートな笑顔に見送られ、視聴覚室を出た。
片足に自分の内ばき、もう片足は学校のスリッパ、というスタイルで。

だって、自分のじゃない内ばきをはくのは、ちょっと抵抗あるし……。

あう……すれちがう人達が変な目で私のこと見てる……。

今の私には、教室までの道のりがやたら遠く感じられた。


浴びせられる視線を耐え抜いて、どうにか教室までたどり着いた。
さてと、捜索開始といきますか。

うちのクラスに、鈴木っていう名字の人は男女合わせて八人いる。
つまり確率は八分の一。
片っ端から捕まえて内ばきをチェックすれば大丈夫、なはず。

私はまず、友達とお弁当を食べてる鈴木さんに声をかけることにした。

「ねえ、ちょっといい?」


――昼休みが三十分ぐらい過ぎた。


私は自分の机に突っ伏していた。

内ばきはまだ見つからない。

クラスの「鈴木」を見つけ次第内ばきを確認させてもらってるんだけど、今のところ該当者ゼロ。

八人中七人にチェックして、全滅。

だから、今は最後の一人を待ってるところ。

最後に残った「鈴木」は、男子。
学食に行った上で部活に顔を出したとかで、まだ戻ってこない。

お願いです。
早く戻って来てください、鈴木君。

ガラッ。

教室のドアが開いた。
入ってきたのは……鈴木君だ!
友達と喋りながら窓際に歩いていく。

私は急いで席を立ち、鈴木君に駆け寄った。

「ねえ、ちょっといい?」
「え?」
「内ばき片方間違えてない?」

私の言葉にきょとんとしながら、自分の内ばきに視線を落とす鈴木君。

間違えてるのよ、鈴木君。
だってあなた以外に有り得ないんだから!

……なのに。

「間違えてない、けど」

え――!?

思わぬ返事に慌てて私も見てみるけど、その内ばきは両方とも彼のものだった。
そもそも名字じゃなくてイニシャルが書いてあるし。

じゃあ、私の内ばき片方は、一体何処へ行ったの!?


混乱してると、鈴木君の隣にいる友達の内ばきが目についた。

「あれ……?」

彼の履いてる内ばきの片方、私のだ。

でも、どうして?
彼は鈴木じゃなくて、内藤っていう名字なのに。

「ねえ、ちょっと」
「何?」
「内ばき片方、私のと間違えてない?」

内藤君は自分の内ばきに視線を落とし……

「あ、わりぃ。間違えてた」

と、頭をかいた。


何はともあれ、私は、自分の内ばきを見つけ出した。

持ってきた内ばき片方と、内藤君が履いてた私の内ばき片方を取り替える。

「でも、どうして内藤君の内ばき、片方だけ鈴木って書いてあるの?」

疑問に思って聞いてみると、内藤君はあっさり答えた。

「あ、俺の内ばき片方ボロボロでさ。引退した先輩に片方だけもらったから」


…………。


紛らわしいことすんなーっ!

私は、彼の頭をひっぱたいてやりたい衝動を押さえ込むのに必死だった。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
これ面白かったです。
ふつうの生活の中でふつうに起こることをここまで読ませるなんて最高。鈴木が8人いるのにはびっくりしたけど地域によっては多くみられる苗字ってありますものね。
こっちのほうでは内ばきではなく一般的に上履きと言いますよ。日本も広い。
つる
2007/12/09 02:34
感想ありがとうございます。
非日常的なことばかり書いてると、日常生活が舞台の話を書きたくなるんですよ。
恋愛とか、ねー……(書けないくせに)

私の高校時代、鈴木はクラスで男女合わせりゃ八人ぐらいだったような気がしたので、八人にしました。
鈴木か佐藤どっちにしようか迷いましたが、当初「スズキクエスト」というタイトルを考えていたので鈴木さん採用になりました。

つるさんのところは内履きじゃなくて上履きって言うんですね。
いやうちも本当は「上履き」って言ってたかもですが。
「内ズック」と書きそうになったのは内緒です(ぇ

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2007/12/10 22:46
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