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<<   作成日時 : 2007/07/14 00:20   >>

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春になったとはいえ、まだまだ冷え込む季節のこと。
とある王国の城下町を、早朝、防寒用のコートを着た若者が足早に歩いていた。
若者は一軒のあばら家の前で立ち止まると、ドンドンドン、とドアを叩いた。

「ばあちゃん、ばあちゃん。開けてくれよ」

近所迷惑になるのを恐れてか、声を潜めて呼びかけながら。
――やがて、ドアが開く。

「こんな朝っぱらから、一体何の用だっていうんだい、このバカ孫が」

現れたのは、白髪にワシ鼻の、まさしく魔女と呼ぶにふさわしい形相の老婆。
険しい表情で若者をじろりと不機嫌そうに睨む。

「ばあちゃん、あの薬、また出してくれねぇかな? 使い切っちまったんだ」

若者は、必死に頼みこむ。

この老婆は薬屋を営んでいた。
ただし、病を治す薬ではなく、何の役に立つのかよくわからない効果を持った薬の方が専門という、風変わりな薬屋だった。

老婆は、怪訝な表情で若者を見た。

「なんだって? あの薬、こないだ出してやったばかりじゃないか。減るのが早すぎやしないかい?」
「い、いいじゃないか。気にするなよ。代金はちゃんと払うからさ、なあ、頼むよ」

老婆はあごをなで、しばらく考える素振りを見せた。

「……いいけど、条件がある」
「じょ、条件?」

思いもよらない言葉だったのだろう、若者はうろたえた。

「あの薬を何に使っているのか、教えてもらおうじゃないか。何度聞いても答えちゃくれないが、まさか、犯罪に使ってるんじゃないだろうね? いくらバカでも、お前は大事な孫だ。その孫が悪さしてるってんなら、放っておくわけにいかないからね」

若者が目を丸くする。

「悪さなんてしてないって! だから薬を出してくれよ」
「悪さをしてないんなら、話せるだろう?」

老婆に、条件をゆるめたり撤回したりするつもりはなさそうだ。
若者は、ため息をついた。

「わ、わかったよ……だけど、絶対、本当に、絶対、誰にも言うなよ?」 
「はン、あたしの話し相手になろうって奴はいないからね。その点だけは安心しな」
「……人に聞かれたらまずいから、中で話すよ」
「いいだろう。上がりな」

老婆はあごをしゃくり、家の中へと促した。
若者は慎重に辺りを見まわしてから家に入ると、素早く、しかし音を立てないようにドアを閉めた。

二人は、小さな丸いテーブルにつく。

「待ってても茶なんか出さないからね。さっさと話しな」
「そのつもりだよ、こっちも早く戻らなきゃいけないから」

言うと、若者は声を潜めた。

「王様の噂、知ってる?」
「噂ぁ?」
「うん……その、似たような見た目の娘ばかり集めてる、っていう噂」
「ああ、あれか。おそらく、ハーレムを作ってるんだろう? 別に悪いことじゃないよ。隣の国の王様なんか、手当たり次第女を囲っているらしいからね、それに比べりゃ、趣味が一貫してるだけ、上品ってものさ」

若者は、頭をかく。

「……ハーレム……っていうのとも、ちょっと違うんだけど」

「どういう意味だい?」

「ええと……昔、王様がまだ王子だった時の話なんだけど。海岸で一人の若い娘を拾ったんだってさ。金色の長くてきれいな髪に、宝石のような青い瞳で、踊りがすごく上手いんだけど、その代わりみたいにして口をきくことができなかったらしい」

「それで?」

「王様は、その娘を手元に置いて、妹か子供みたいに可愛がっていたんだって。ところが、その娘は王様が結婚した次の日から姿を消してしまって、それからずっと行方知れずなんだ。で、今集めている娘ってのは」

「その、行方知れずになったっていう娘にそっくりな奴ばかり、なんだね?」

老婆の言葉に、若者は頷く。

「行方知れずになった娘のことが忘れられなくて、王様は今になって、探しているんだ。でも、見つからなくて……バカ正直に「見つかりません」なんて言ったら、俺達はクビにされちまうからさ。だから、皆で相談して、代用品として、できるだけそっくりなのを差し出してるんだ。なかなか条件に合うのがいないんだ。特に、口をきくことができない、ってのが難しくて……」

老婆が顔をしかめ、ため息をつく。

「……それで、あたしの薬を使って、のどをつぶして声が出ないようにしてる、ってわけだね?」
「うん……。ばあちゃん、ゴメン」

若者は、申し訳なさそうにうなだれた。

「いいってことよ。王様のご所望を満たすのがお前の仕事だもの。まったく、ひどい仕事を選んだもんだね」
「そうだね。俺、城に勤めるのがこんなに大変だなんて思わなかった」

ため息をつく若者を、老婆は悲しいような、情けないような気持ちで見つめた。

「だが、その娘ってのは、もう結構なトシのはずじゃないか。王様がそこに気付かないわけがないと思うんだがねぇ」

「実はさ、王様はもう、まともじゃないんだ」

老婆の指摘に、若者は頭をかきながら答えた。

「今の王様になってから、この国、ロクなことがないだろう? こないだも戦争で負けて、領地を取られちまったし。そのせいで、王様はすっかり頭がイカれてて、自分がまだ王子だった時の状態にまで、頭が戻っちまってるんだ。だから、あの時の娘の年齢じゃないと、納得してもらえないんだ。『これは絶対におかしい』だとさ」

若者はテーブルにひじをつく。

「こないだ、一人、薬が切れた時にうっかり口をきいちまって、半狂乱になった王様に殺されちゃったのがいるんだよ。王様に娘を差し出す時は、見た目も大事だけど、まず、のどをつぶす必要があるんだ」

「……なるほど、事情はよくわかったよ」

老婆は立ち上がり、棚に向かう。
大小さまざまなビンが並んだ棚を開け、しばらく物色した後で、一つの小ビンを取り出す。

「だがね、のどをつぶす薬を飲ませ続けておくよりは、惚れ薬でも飲ませて、気に入るように仕向けた方が良くないかい?」

そう言って、老婆は、コトン、と小ビンをテーブルの上に乗せた。
その小ビンには、ラベルが貼られていた。

『惚れ薬』と書かれた、ラベルが。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
最近ちょくちょく来ては拝読させていただいております。
こゝろに響く言葉、私は好きですね。

こちらもちょっと面白いブログをやっています。
気が向いた時にでも一度遊びにいらして下さい。
http://blog.goo.ne.jp/ninjaman_rasta/e/2b8baefb397267e962cf94014620076e
虚坊
2007/07/31 07:53
感想ありがとうございます。
この話の何かが心に響いたのなら、書き手として嬉しい限りです。
それにしても「こゝろ」という表現、素敵ですね。

ブログ、後ほど遊びに行かせていただきます。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2007/08/02 22:29
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