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zoom RSS 女にモテたい

<<   作成日時 : 2007/06/15 21:54   >>

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朝、いつものように歩いて通勤していると、途中で子猫の鳴き声を聞いた。
どこにいるのかと探してみると、なんと、白黒ブチの子猫が木の上で小さくなって震えていた。
みゃあ、みゃあ、という哀れっぽい鳴き声が、胸に突き刺さる。

こいつ、降りられなくなったんだな。

俺は、哀れっぽい鳴き声をなんとかしてやりたくて、木の枝につかまると、じたばたとよじ昇った。
子猫は、いきなり現れた人間(当然、俺のことだ)に驚いて、さらに大きな声で鳴きながら、後ずさっていく。

おいおい、お前を助けに来たんだぞ。

必死に手を伸ばすと、にゃーっ! と声を立てて、子猫が俺の指先を引っかいた。
まだ爪がやわらかいからそれほど痛くもないが、心はものすごく傷ついた。
それでも強引にひっつかむと、子猫を枝から引きはがし、手元に引き寄せて抱きなおし、俺は地面に降りた。
まったく、ひどいもんだ。
少しばかり悲しくなりながら、子猫を地面に置いてやると、まるで風のように逃げて行ってしまった。

助けてやったのに……。
別に、危害を加えようとしたわけじゃないのに……。

俺は、朝からブルーな気持ちになった。


ミィオ……。


別の猫の鳴き声がしたので、俺はなんとなくそっちを見た。

そこにいたのは、大きな体にエラの張った丸い顔の……たぶんオス猫だ。
ちょっと耳が長い気もするが、まあ、世の中には耳がカールした猫や耳折れの猫もいることだし、そんなに異常なことでもないだろう。
年取ったやつらしく、老成しているというか、若いやつとは風格が違う。

そんな猫が道端に座り、じっとこっちを見ていた。

かまってやりたいところだが、出勤時間というものがある。

俺は、無視して通り過ぎようとした。


『待ちなさい。若いの』

ぎゃっ!
猫がしゃべった!?

『驚くことはあるまい。ワシは猫の妖精だ。人間はケット・シーと呼んでおる』

俺は、頬を思いきりつねってみた。
……痛い。
てことは、これ、現実ってことか?

『恐れることはない。お前さんがつい今しがた、猫を助けるのを見たのでな。これは感心なことと思い、望みを一つかなえてやろうと思ったところだ』

ケット・シーとやらは、俺を見て金色の目を細めている。

しかし、望みって……?

「なんでもかなえてくれるのか?」
『もちろん。ただし、一つだけだぞ』

じゃあ……切実なやつを!

「……女にモテたいっ!」

俺は、はっきりと答えた。

ふん、笑いたい奴は笑え。
俺の場合、本当に深刻なのだ。
ブサイクなせいで女に敬遠され続け、このままでは女日照りで死んでしまいそうなのだ。
いや、ホントに。
三十過ぎて、彼女いない暦が年齢とイコール、というのは……さすがにマズイだろ?

『よかろう。では、その望みをかなえてやろう』

その答えの後、たった一度、まばたきをする間にケット・シーとやらは消えていた。

……夢でも見ていたんだろうか。

まあ、『望みをかなえてやろう』って言っていたことだし、そのうち夢なのかどうかわかるだろう。

俺は、歩き出した。
素敵な出会い、というのがあるかもしれないと、ちょっと期待して。

――が。

俺の淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。

すれ違う女という女はことごとく、俺に対して無関心だった。

無関心な態度というのは慣れているから傷つきゃしないが……さっきのやり取りがあった以上、ちょっと納得できない。
これのどこが『望みをかなえてやった』というのだろう。
さっきから、何人もの女とすれ違っているが、誰一人、好意のかけらさえ見せてくれないぞ。

やっぱり夢だったんだ。
それか、女に飢えるあまり、俺は妄想でもしていたんだ。
なんて悲しいんだ、俺。

そう思っていると、不意に、足元に何かの気配を感じた。
するり、と何かがこすれたのだ。
目をやると、きれいな毛並みの白猫が、俺の足にスリスリしていた。
……うれしいが、これから仕事に行くというのに、これではズボンが毛だらけになってしまう。
俺は、そっと手でどけたのだが……白猫はすぐに戻ってきて、またスリスリしはじめる。

おいおい……一体なんだってんだ?
俺はエサなんか持ってねぇぞ?

疑問に思っていると、もう一匹、猫が現れた。
そして、白猫と競い合うようにして、俺の足にまとわりつき始めた。


さらに、もう一匹。

また、もう一匹。

…………。


なんか……猫が集まってきてないか?

気がつくと、俺の周りは猫だらけになっていた。
甘えるような声を上げてスリスリしたり、足元に寝転がったり、それはそれは賑やかな状態だ。
さっきから、通り過ぎて行く人がじろじろこっちを見ていく。


俺は、その時になって気が付いた。

そういえば、俺はあの時、ケット・シーとやらにこう言った。

『女にモテたい』と。

人間である俺にしてみれば、女とは人間の女のことである。

だが、あいつら猫にしてみれば、女とは猫のメスのことじゃないのだろうか。


俺は、一番最初にスリスリしてきた白猫を抱き上げて、確かめてみた。

……メス、だ。

ちらっと視線を巡らせて確かめてみると、ここにいる猫は全て、メスだった。


俺は、うなだれた。


女って言ったって……猫に……モテたって、なぁ……。


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