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<<   作成日時 : 2007/03/18 00:03   >>

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――死んでも君を離さない。
誰にも渡したりしない。


私が初めてお付き合いをした人は、私への想いの深さを、そう表現しました。

二人きりで濃密な時間を過ごした、その後で。
私を後ろから包み込むようにして抱きしめて、そっと囁くのです。

私は、そうされるたびに嬉しくなりました。
自分は、彼にとって本当に特別な存在なのだと……そう思えて。
実際、彼は私のことを壊れ物を扱うように大切にしてくれました。

でも……彼は今、どこにもいません。
交通事故にあい、他界してしまったからです。
彼を失った私は、しばらく放心状態で何も手につきませんでした。

……悲しみを抱えたまま、私は社会人になりました。

私は、同じ職場で働く先輩の男性社員と親しくなりました。
先輩は、彼を亡くした私の悲しみを理解して、受け止めてくれました。

この人になら、私は全てを預けてもいい。
いつからか、私は本気でそう思うようになりました。

私は、先輩のおかげで、彼を亡くした悲しみから立ち直ることができたのです。


そして、一年が過ぎた頃。


「……あの、さ。俺達、本格的に、恋人どうし、ってことで付き合わないか?」


先輩からの告白に、私は嬉しさで目をうるませて、


――それなのに。

告白をした次の日、先輩は前方不注意の自動車にはねられて、意識不明の重体に陥りました。

私は、呼吸器を取り付けられてベッドに横たわる先輩の元に、毎日通いました。
先輩の家族は、毎日ありがたがるような、申し訳ないような顔をしました。

そして今日も、私は仕事を早めに切り上げて、先輩のところに向かいました。

……先輩の容態は、昨日と変わっていませんでした。

頭に包帯を巻いて横たわる姿は、痛々しいとしか言いようがありません。

先輩……。

涙が、あふれそうになりました。
私の恋人になった男性が、二人とも、交通事故にあってしまうなんて。
私が好意を抱いた男性は、事故にあって死んでしまう運命にあるとでも言うのでしょうか?


「う……」


不意に、くぐもった声がしました。
見ると、先輩の腕が、ゆっくり、ゆっくり上がっていくところでした。

先輩は、取り付けられた呼吸器を外し、起き上がって私を見ました。

先輩の……意識が戻った!

「先輩……!」

先輩は何も言わず、無造作に私の両肩をつかむと、

「んっ」

いきなりキスをしました。
ちょっと乱暴に、唇を押し付ける感じで。

せ、先輩ったら。
ここは病室で、しかも先輩はついさっき意識が戻ったばかりで……!

「せ、先輩……っ!」

私は慌てて、先輩の体を押して、キスから逃れました。

え……えぇと。
そうだ。ナースコールで意識が戻った事を連絡しないと……。
ベッドサイドのボタンに手を伸ばそうとすると、先輩が私の両頬に手を伸ばしてきました。

もう、一体どうしちゃったんだろう……。

さっきの続きをしたいのだろうか、と思うと、なんだか恥ずかしくて顔が赤くなってきます。

「あの、先輩……」

お願いだから、それは退院した後で……と言おうとした私は、次に起きたことが全く理解できませんでした。

先輩の手は私の頬を通り過ぎ……首をつかみました。

そして……グイグイと強く締め上げました。


先輩、やめて。
一体何をするの。


必死にもがいていると、先輩がぬっと顔を近付けてきました。
血走った真っ赤な目が私を見つめ、息が顔にかかります。

「言ったよね……? 死んでも君を離さない、って……」

先輩の口から出た言葉に、ぞくり、と鳥肌が立ちました。
――それは、死んだ『彼』の声でした。

「コイツにも誰にも渡さない。誰かに渡すぐらいなら……」

首をしめあげる力が、どんどん強くなりました。

薄れていく意識の中で見た先輩の顔は、確かに、彼の顔でした。

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