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zoom RSS 片付けられない男

<<   作成日時 : 2006/12/31 00:47   >>

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本日、やっとこさ仕事納めにこぎつけた。

……とは言っても年内の仕事を片付けた上に、休み明けの仕事の下準備もきっちりやっておかないといけないので、ちっとも楽じゃあなかった。
「明日から休み」という希望がなければ、乗り切れなかったかもしれない。
ちょっと大げさだが。

そんなわけで、俺はずるずると体を引きずるように帰宅すると、コンビニ弁当をつまみながらビールを飲むという、いつも通りの夕食を済ませた。

その後風呂に入り、テレビでやってるお笑い番組を見てダラダラしつつ、ふと、部屋の中をぼんやり見渡してみて――俺は、自分の部屋の散らかりようを冷静に考えた。

これは……もしかしなくても、マズイんじゃないだろうか。

歩くスペースと座るスペースを空けた感じで、物が置かれているのだ。
いつだったか、ゴミ箱めがけて投げたけど入らなかったゴミがそのまま床に落ちていたり、空き缶が何本も転がったりしている。
テーブルの上にはカップが二つも三つも並んでいて、食器なんかを置くスペース以外を雑誌が占領している。

一人暮しの男の部屋は散らかるもんだと思って、ほったらかしにしてきたが……これは、ちょっと片付けたほうがいいかもしれない。
取りあえず、テーブル周りだけでも。

俺は、雑誌をビニールのヒモでまとめ、空き缶をゴミ袋に入れるという作業に取り掛かった。

そんな中で、ソレが見つかったのである。
ありとあらゆる雑多なものの一番下に、果物の缶詰ぐらいの大きさの、缶が。

缶とは言っても、それはそれは妙な物だった。
普通、缶詰といえば表面に何か印刷されてたり、印刷した紙が巻かれていたりするものだ。

それが、こいつの場合、何も印刷されていないのだ。

銀色の表面が剥き出しの状態で、なんだか記号だか外国語だかわからない4文字が書いてある。
フタの部分を見てみると、プルトップがついていた。
いわゆる、「缶切り不要」というタイプのやつだ。
振ってみたが、何の重みもない。

――もしかしたら、空なんじゃないだろうか。

そう考えてから、俺は苦笑した。
空っぽなら、缶のフタは開いているはずだ。

そもそも、コレはいつ、どうして、俺の部屋にこうして鎮座する羽目になったのだろう。
買った覚えは全くない。
世の中には、空気の缶詰とか言って、観光地の空気を缶詰にしてみやげ物として売っているところもあるらしいが……そんなものをくれるようなセンスの持ち主は周りにいない。
それに、そういう観光のみやげ物なら尚更、デカデカと地名や写真が印刷されているはずだ。

「……なんじゃこりゃ」

ありとあらゆることを考えた果てに、俺は、ぼそりと呟くしかなかった。
こんなもの、ほったらかしてしまえば良いのかもしれない。
片付けの作業だって、まだ終わっていないのだから。
しかし、俺はあいにく、何かが気になったら止められない人間だった。

……仕方ない、開けてみるか。

リングに指を引っかけ、くい、と引いてみると、やや重たい感じで持ちあがった。
少しばかりためらったが、俺はそのまま一気にリングを引いた。

「やったあ! 出られるぞ!」

唐突に妙な声がしたと思ったら、しぽん、と栓を抜いたような音がして……視界がぐにゃりと曲がった。

「出してくれてありがとうよ。感謝するぜ」

視界が元に戻った時、どこからか声をかけられた。
きょろきょろして探してみると、さっきまではいなかったものが、テーブルの上にいた。
小さくて真っ黒くて、子供の頃に絵本で見た「むしばきん」みたいなヤツ、である。
そいつは、俺を見てにやりと笑った。

「お、お前、何だよ」

俺は我が目を疑った。幻覚が見えるほど酔った覚えはない。

「オレ様かぁ? オレ様は悪魔だよ」

どう頑張っても絵本の中の「むしばきん」にしか見えないそいつは、大層なことを言って胸を張った。

「どうだ、オレ様と契約しないか? オレ様は今、とてもとても機嫌が良いからな。特別に欲望をかなえてやるよ」

その上、自称・悪魔はそんなことまで言い出した。

「欲望って……」

「そのまんまの意味だよ。ありとあらゆる欲望をかなえてやるぜ。いいか、これは一世一代のチャンスなんだよ」

自称・悪魔は身振り手振りを交えて話し始めた。

「会社で毎日あくせく働き続けるのも面倒だろ? 仕事仕事で出会いがなくて、可愛い彼女もいないままなんて虚しいだろ? いいのか? そんなことじゃ、惨めったらしく年取って死ぬのが関の山だぜ。人間なんざ、せいぜい百年ぐらいしか生きられないってのによぉ。味気ない、つまらない人生だよなぁ」


可愛い彼女もいない云々のところは、放っておいて欲しいが……。

「でもな、オレ様と契約しさえすれば、仕事しなくても大金が手に入るし、女だって思いのまま。名声が欲しいってんなら、何やったって大成功できるようにしてやるよ。どうだ、悪くないだろ?」

自称・悪魔の言うことは、確かに魅力的だ。
グータラしてても金が手に入って遊び放題なんて、まさしく夢みたいな生活じゃないか。
そういえば、俺は毎朝起きるたびに思っていたものだ。
あとちょっとでいいから寝ていたい、と。
こいつと契約すれば、あとちょっとどころじゃなく、好きなだけ寝ていられる。

……しかし、だ。

「……それ、タダじゃないんだろ?」

こういう、悪魔と名のつくものと軽々しく契約をした人間は、最後に手痛いしっぺ返しを食らうものだ。
俺は、そのテの物語を幾つか読んだことがある。

俺の真意が読めたのか、自称・悪魔はニタリと笑った。

「なぁに、怖いことなんか何もねぇよ。お前が死んだ後、その魂をオレ様に食われるってだけの話さ。転生はできなくなるが、たった一度でも思いっきり楽しい人生満喫できりゃ、充分だろ? ずるずるとくだらない一生を、何度も何度も味わうより、ずーっと……」

俺は、全てを言わせなかった。
そいつが入っていた缶を逆さにすると、素早くかぶせた。

「おいこら! 出せ! 出せ! 出せったら出せ! こんなことして良いと思ってんのかぁ!?」

缶の中できぃきぃと自称・悪魔が吠えまくっている。
押さえつけた缶ごしに、暴れているのが伝わってくる。

俺は缶を片手で押さえつつ、手近なところにあった分厚い電話帳を取り、缶の上に乗せた。
その上に雑誌を何冊か乗せると、どうにか缶は固定され、閉じ込めることができた。
最初はぎゃあぎゃあと吠えまくって、缶から出ようと暴れていた自称・悪魔も、時間が経つと大人しくなった。

……ふう。

俺は、ため息をついて、どすん、と座りこんだ。

別に、こいつが誰かに実害を及ぼすのでは、なんて正義感に溢れたことを考えたわけじゃない。
ただ単に、悪魔と契約するなんてのが怖かっただけだ。
死んでから魂を食われるなんて、まったく想像もつかない。

それで、閉じ込めるなんてことをしてみたわけだが……これ……テーブルの上の一角を強制的に占めるわけで……。
しかし、テーブルからどけたら悪魔が出てきてしまうし……。

俺はもう悪魔を怒らしてしまったので、こいつが出てくるようなことがあったら真っ先に仕返しをされるに違いない。
殺される……どころで済むんだろうか、この場合。

そんなわけで、俺の暮らすマンションの部屋では、何冊もの本を重しにした、逆さまの缶がテーブルの上に鎮座しているのである。

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