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zoom RSS 花束を君に。

<<   作成日時 : 2006/11/01 22:50   >>

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「シノ!」

その声に、私は足を止めて振り返った。
……そこにいたのは、ファーのついたジャケットを羽織った男の人。
こっちに背中を向けて、何人かでやって来る人達に手を振ってる。
私を呼んだわけじゃ、ないんだ。
気付かれないうちに、私は視線を外した。

シノ。
私のことをそう呼ぶ男の人は、もういない。
わかってるはずなのに……今でも慣れない。

12月24日。
クリスマス・イブ。
街は、これでもかと言わんばかりにイルミネーションで飾り立てられて、のん気なクリスマスソングがあちこちで流れてる。

すれ違う、幸せそうな明るい声。笑顔。
私は、浮かれた街の中を、花束を抱えて歩いた。
ショーちゃんと初めて会った時に、すぐそばに咲いていた青紫のトルコききょうを使った花束。

……私は、視線を空に向けた。
眩しいイルミネーションに負けてるのか、今日は星が見えない。


ショーちゃんと出会ったのは、私が幼稚園の年長組で、ショーちゃんが小学二年の頃だった。
お父さんの仕事の都合とかで、お隣に引っ越してきたのだ。
引越しの挨拶にやってきたご両親にくっついて、家にやって来た時、お母さんが春先に植えたトルコききょうが花壇にいっぱい咲いていた。
二つ年上の、生まれて初めてできた男の子の友達。
それから私とショーちゃんは、兄妹みたいに仲良くなった。
小学校に入ってからは、尚更ショーちゃんにくっついて歩いた。
うちのお母さんたら、「まるでカルガモの親子みたいだったわ」なんて、その時のことを言ってる。
その頃の私の口癖は、「大きくなったら、ショーちゃんとけっこんする!」だった……らしい。

私がショーちゃんのことを好きなんだ、と気付いたのは小学校5年の時。
とっくに中学に上がっていたショーちゃんを遠くから見た時、急に胸がドキドキして、止まらなくなった。
顔を思い浮かべるたびに、声を思い出すたびに、妙に照れくさくて、やっぱりドキドキして……頬がゆるんだ。

……それからが辛かった。
ショーちゃんのことが好きなんだってわかっても、そこから関係が動かなかったから。

ショーちゃんにとって私は、『妹みたいな存在』ただそれだけでしかなかった。
中学生になっても、高校生になっても。
私は、一人前の女性としては見てもらえなかった。
ずっとずっと、その背中を追いかけてばかり。
いつか、ショーちゃんに追いつきたい。隣に並びたい。
その一心だった。

なのに、ショーちゃんは。

……ショーちゃんは、アルバイト先にバイクで向かう途中、運転を誤って電柱に衝突して、そのまま帰らぬ人になった。

私は泣いた。
たくさん泣いた。
大きな声を上げて、まぶたがはれるまで泣いた。
何日も、何日も。


人の間をすり抜けるようにして、私は、やっと目的地に到着した。

季節が季節だから、誰もいない。
街の中の喧騒がウソみたいに、静かな場所。
通り抜けた冷たい空気に、吐息が白く煙る。

――墓地。

普通、クリスマスに来るようなところじゃない。
でも……私は今日、どうしてもここに来たかった。
ショーちゃんが死んだのは、クリスマス・イブだったから。

ふと、思ってしまう。
もしかしたら、元気なショーちゃんがどこかからひょこっと出てこないかな、って。
「シノ」って、そう言ってくれないかな、って。

……でも、実際にお墓の前に立つと、そんな夢物語を思い浮かべることなんかできない。
墓石には、ショーちゃんの名前と享年がしっかり刻んであるから。
二十歳。
ショーちゃんは、この世に生まれてから二十年の時間を刻んで、天国に旅立ってしまった。
どんなに手を伸ばしても、大きな声で名前を呼んでも、届かない場所へ。
こんなにも早く、二度と会えなくなることがわかっていたなら、はっきり告白していれば良かった。
「私、ショーちゃんのこと、ずっと前から好きだったの」って、そう言えば良かった。
伝えられなかった『好き』の言葉は、永久に行き場所をなくしてしまった。


お墓の前に花束を置いて、私はそっと目を閉じる。


転んだ私を「どんくさい」って言いながら、引っ張って起こしてくれた。
意地悪されて泣いてると、必ずどこかから現れて助けてくれた。
「あげようと思ってた人に渡せなかったから」ってウソをついて渡したチョコを、甘いものが大嫌いなのに「しょうがねえな」って言いながら食べてくれた。

今でも鮮明に覚えてる、いろんな思い出。


……ねえ、ショーちゃん。

私、あなたに追いつけなかったね。


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