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zoom RSS 雨の降った日。

<<   作成日時 : 2006/10/27 23:18   >>

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「失礼しました」

私は、ぺこりと頭を下げると、職員室を後にした。

困ったなあ。
廊下を歩きながら、ちらっと窓の外を見ると、外は大雨が降っていた。
天気予報のウソつき。
今日は一日晴れるでしょう、なんて。
おかげでカサを持ってない。

帰り際に、忘れ物のカサを貸してもらえないかと思って、職員室で聞いてみたけど、みんな考えることは一緒だったみたいで、とっくに全部借りられた後だった。

うう……。

昇降口で取りあえず靴を履き替えると、そのまま私は座りこんだ。
もうちょっと待ってみて、それでも駄目なら……しょうがない、学校から一番近くのコンビニまで突っ走っていって、ビニールの安いカサを買おう。

「……白川さん?」

そう考えてると、いきなり、後ろから声をかけられた。

振り返ると、スニーカーを持った男子生徒がいた。
あ……同じクラスの、芝崎君だ。
この前の席替えで一緒の班になったから、ちょっとは話したことがある。

「あっ、ごめんなさい、邪魔だったよね」
私は慌てて立ちあがって、横にずれた。
「別に、邪魔だって言ったわけじゃないんだけど……」
「えっ? あ、そうなの?」
「うん……」
芝崎君は、腰を降ろしてスニーカーに足を突っ込むと、靴ひもをほどいて調節を始めた。
あ、芝崎君って、履くたびに結びなおす人なんだ。
新発見したクラスメイトの一面を、私はぼんやり見ていた。

……と、芝崎君が靴ひもを調節する手を止めて、こっちを見た。
わわ、やだな。ばっちり目が合っちゃったよ。
ど、どこか行ってようかな。
でも、外履きはいてるのにわざわざ脱いでまた内履きはいて校舎のほうに戻ったら、かえって変に思われそうだし……。

「白川さん、誰か待ってるの?」
芝崎君がけげんな顔をしてる。
「う、うーんっ、ちょっとね」
適当にごまかすと、ふうん、っていう感じに芝崎君は靴ひもの調整に戻った。
い、いづらい。
なんとなく気まずくなって視線を移すと、カサが床に置いてあった。

あ……芝崎君、カサ、持ってるんだ。

「白川さん」
「えっ?」
「誰、待ってるの?」
いつの間にかスニーカーの靴ひもを結び終えた芝崎君が、カサを片手に立っていた。
誰、って……そこまで突っ込まれるとは思ってなかった。
ええい、でたらめに友達の名前でも出しとけ!
「えぇ、えーっと、そ、そうっ、サ、サヤカを待ってるの」
「……西野さん、帰ったんじゃなかった?」

しまったぁ! サヤカは今日早退したんだったぁ!

「あっ、そ、そうだったね。忘れてた」
落ちつけ、私。
声が思いっきりうろたえてるわよ。
えーと、芝崎君。
どうして、反応してくれないのかな?
黙ってられても、なんというか、緊張しちゃうっていうか、意識しちゃうんですけど……。
「もしかして、カサ、ないの?」
ぎくっっ。
「そ、そういうわけじゃ……」
「正直に言ってもいいと思うんだけど……」
「……ゴメンナサイ。カサ、ない」

……あっさり見破られた。

「カサ、二本なんて持ってないよね……?」
おそるおそる、ほんの少しの期待をこめて聞いてみると、芝崎君はちょっと困ったように頭をかいた。
「うん、これ一本しか持ってない」
「……そ、か」
……やっぱり、コンビニまでダッシュかな。
気合入れて昇降口のガラス戸の取っ手に手をかけると、
「あ、あのさ、白川さん」
芝崎君が呼びとめた。
「その……僕のカサで良かったら、入っていかない?」
「えええええええっ?」
思わず、大きい声が出てしまった。
だってそれって、つまり、相合傘、ってことでしょ?
「あ……嫌?」
「そ、そうじゃなくてっ。誰かに見られたら、芝崎君、誤解されちゃうじゃない」
「誤解……?」
「え、えと、その……私と、つ、つき合っ……ってるんじゃないかなー、って」
神様。
どうして私は今顔が赤いのでしょうか。
「あー……そうか」
そして、芝崎君が全くそういう意識のないまま相合傘に誘ってきたのを知って、ちょっとガッカリしちゃったりしてるんでしょうか。
「……でも、風邪引いたら大変だし」
芝崎君は、親切心からそう言ってるんだなぁ。
そう思うと、人の親切を無下にしてるみたいで断りづらい。
「う、うん……じゃあ、途中のコンビニまで、お願いしていい?」
「オッケー」
芝崎君は、笑ってカサを開いた。


――雨が降ってるせいか、外は少し肌寒かった。

でも、そう感じたのはホントに一瞬だけ。
だって、今の状況を考えたら……顔から火が出そうなんだもの。
芝崎君がカサを持ってくれてるんだけど、なんだか、こっちの方にカサが傾いてる。
気のせいじゃない。
だって、ちらっと見えた芝崎君の肩、濡れてるんだもん。
この状態を目撃されたら、誤解されるかもしれない。

それにしても……会話がない。
雨音と、足音だけしか聞こえない。
緊張する。
なんだか、妙に気まずい。

えーと、何か、楽しくなるような話、しなくちゃ……。
えーと、えーと。

「あのっ、芝崎君」
「え?」
芝崎君が、きょとんとして私を見る。
その顔を見たら、頑張って振り絞った勇気がぺしゃんこになった。
慣れないことって、やっぱりするもんじゃない。
「あ、その……な、なんでもない」
妙な気を回さないで、静かにしてよっと……。

……結局、ロクな会話もないままコンビニについた。
私は、「ちょっと待ってて」と言い残してコンビニに入ると、ビニールのカサとホットの缶コーヒーを買った。
……と言っても、この缶コーヒー、自分で飲むわけじゃない。

コンビニを出ると、芝崎君がぼんやり道路の方を眺めて待っていてくれた。
「ごめんなさい、待ってて、なんて言って……」
「謝ることないよ。カサ、買えた?」
「うん……」
それから、ちょっと一呼吸。
「あの……芝崎君って、コーヒー、嫌い?」
「嫌いじゃないけど」
「よかった。じゃあ、これ……お礼、なんだけど……」
私は、さっき買った缶コーヒーを差し出した。
「そんな、別にそんなことしなくたって……」
「ううん……だって、おかげで濡れなくて済んだし……」
本心だった。
これをきっかけにして仲良くなろう、とか思ってない。ホントに、純粋に、感謝してるだけ。
私が缶コーヒーを引っ込めないので、芝崎君はちょっと遠慮しながらも受け取ってくれた。

……私は、カサを開いた。

「あの、今日はありがと……それじゃ」
私は手を振ると、小走りに家に向かって駆け出した。
のんびり歩いて帰るような、落ちついた気持ちじゃなかった。
顔はどんどん赤くなってくるし、胸の鼓動はどんどん早くなってくるし……。

え、と。
これってまさか、恋、ってやつじゃないよね。

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