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<<   作成日時 : 2006/09/25 23:06   >>

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わたしは、鏡を見つめた。

結構年期の入った、簡単なスタンドつきの、プラスチックでできた枠に収まっている鏡だ。
小学校四年の時に、初めてもらったおこづかいで買った物だから、かれこれ八年ぐらいは使ってることになる。
すぐに物を壊したりなくしたりする私が、唯一長く使ってる物だ。
その分、愛着もある。

だけど……。
その鏡は、今朝、壊れてしまった。

ヒビが入ったとか割れたとか、そういうことじゃない。
落とした時に、鏡の中の銀色のまくが上半分はがれてしまったのだ。
最初は何でこんなことになったのかわからなかったけど、それを見たお父さんが聞いてもいないのに説明をしてくれた。
要約すると、鏡っていうのは、ガラス板の裏側に銀色のまくを貼ったもの……なんだそうだ。
「小学生のおこづかいで買えるようなシロモノなんだし、貼りつけ具合も雑だったんだろう」ってお父さんは言った。

とにかく、これじゃあ使えない。
何となくガッカリした気持ちだったけど、私は新しいのを買うことにした。

運良く、通りがかった家具屋が店じまいセールをしていたので、スタンドつきのもっと立派な大きい鏡を格安で買えた。
あとはこの古い鏡を捨てるだけだ。
愛着があるので名残惜しいけど、使えないものは使えない。
ええと、鏡は何ゴミなんだろう。
私がゴミ分別の一覧表を見ていると、

「お願い、ちょっと待って!」

驚いたことに、鏡から声がした。

「な、なんで鏡がしゃべってるのよ」

私がうろたえていると、

「あなたが長年、わたしを大切に使ってくれたから、人格ができたの。本当はこういうの、よくあるんだけど……最近はすぐに飽きて捨てたり、少し直せば使えるのに簡単に捨てたりする人ばかりだから、珍しくなっちゃったのよね」

「……はあ」

いくら否定したくても、目の前で鏡は声を出しているのだ。
無理矢理にでも、鏡の言う言葉を鵜呑みにして納得するしかない。

「お願い、捨てないで!」

鏡はそう言って懇願した。

「でもさ……使えないもん。買い替えるしかないじゃない」
「待って! わたし、特技を身につけたの! これを見たら、あなた、わたしを捨てようなんて思わないわ」
「……何?」
「わたし、未来を映し出せるようになったの」
「はあ?」

あまりに突拍子もない話なので、私は間抜けな声を上げた。

「信じていないのね。それじゃあ、試しに何年後かの未来を映してあげるわ。何年後がいい?」
「……じゃあ、五年後、私が巻きこまれる怖い事件を映して」

あんまり、期待してないけど……。

「わかったわ。それじゃあ、わたしを見て」

わたし、ってことは鏡面を見ろってことよね。
私は、下半分しか映らない鏡を見た。

ほどなく、ゆうらりと鏡の中の風景が揺れた。
うずまきのような形になり……パッ、と全く別の風景を映し出した。

アスファルトの上を、いくつもの人の足が歩いていく風景だった。

音声はない。

大昔のサイレント映画みたいに、風景が時間を進めていく。
そのうちに、人々の足が止まった。
何かが起きたみたいだ。
うろたえたように右を向いたり、左を向いたり。
そのうち、一斉に同じ方向に走り出した。
何かが、道の向こうからやってきているらしい。
決して歓迎したくないような、何かが。
音声がついていなくてよかった、と私は思った。
きっと、聞くに耐えない悲鳴や絶叫が上がっているだろうから。

「ね? 凄いでしょう? わたし、未来を映し出せるの。わたしを持っていれば、未来を見ることができるわ。あなたはそれを見て、この先起こる悪い出来事の全てを避けられるのよ」

「でも……さ」

私は、指摘しなければならない事実を見つけていた。

「上半分映ってないじゃない。意味ないわよ、これじゃあ」

そう、フィルムはほぼ上半分剥がれているから、いくら鏡が未来を映してくれても、誰がどうなってるのかさっぱりわからないのだ。
この場のどこに私がいるのか、それさえ見分けられない。

……これ、やっぱり捨てよう。

ちらりと一覧表に目をやると、鏡は不燃ゴミに分類されていた。

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