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zoom RSS ネガイネガワレ 24

<<   作成日時 : 2017/07/22 13:27   >>

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彼ら……ブランドンは施設内の情報を求めていたが、一番知りたがっていたのは地下にある水路のことだった。
施設のどこにあるか、どこにつながっているか、主にそんなことを訊かれた。
地図を見れば解決しそうな話だが、地下水路は後からこっそり作られた物で地図には載っていないのだという。
その存在が明らかになったきっかけは、とある人身売買組織を一網打尽にしたことだそうだ。
吐かせてみると色々な所と取引があったと判明したわけだが、その取引相手の中にあの施設長がいたのだ。
妊娠した女性を施設から引き取り、別の組織へ引き渡すという仲介役をやって金を得ていたという。ただし引き渡した女性がどこへ行ったかは見当もつかないらしいが。

度重なる説得にも関わらず施設への立ち入の拒否と、ほぼクロとみなされた人身売買の容疑から、力尽くで容疑者を捕らえることになったのだろう。
おそらく地下水路を抑えた上で表門から突入するつもりなのだ。

しかしこちらとて、そこへ通じる扉を探して入り込んだわけではない。身を隠してしまいたい一心で開いている扉の中へ入っていっただけなのだ。
だから具体的にどこにある扉だとは答えられなかった。だが、その扉が女性だけが生活している区画にあることは確かだ。だからそこだけは確信を持って伝えた。

「情報の提供に感謝するよ、サンドラ」

ブランドンの礼に小さくうなずいて、私は椅子から立ち上がった。
用が済んだのだから、これ以上ここにいてもしょうが無い。
辛い記憶をほじくり返して情報を伝えたので、ひどく疲れてしまった。頭の中身が全部泥に変わってしまったかのようで、気分も悪い。
どこか人のいない所へ行って休みたかった。

「それで、君にもう一つ頼みがあるのだが」

……何?
私は机から離れかけた姿勢のまま、ブランドンの顔をじろりと見た。
地図や筆記用具をしまい込むレックスとハンクをよそに、彼は机の上に肘をつき、両手を重ねてこちらを見ていた。

「君としては辛いことだろうが、我々の協力者としてもう一度施設に戻ってもらいたい」
「内通をしろと?」

私は驚いて声を上げた。

「そこまで難しいことを頼むつもりはない。施設に突入する合図を送って欲しいのだ。皆が寝静まった後で表門の鍵を開けて、これを思い切り、上に放り投げて欲しい」

そう言って彼が机に置いたのは、小さな穴が一つだけ開いた奇妙な細長い石ころだった。表面がつるつるに磨かれているのだから名前のある道具なのだろうが、私にはわからない。

「上に向かって放り投げると、落ちてくる時にピーッと音の鳴る道具だ。これを合図にして突入する」

夜中に施設を抜け出して門の鍵を開けて、合図を出せなどと……本業の人間にやらせることではないのか。

「……断ると言ったら」
「ここまで聞いてしまったのに、断れると思うのかね」

ブランドンがやんわりと首を振ると――乱暴に両肩を掴まれて、椅子に座り直させられた。
何を、と言おうとしたところで、頭を横にひねられて机に叩き付けられる。
痛みに顔をしかめると、目の前にナイフが突き立てられた。目だけを動かすと、深緑色の制服が視界に入る。
……シャールだな。

「人質を取れれば確実なのだがな……さて、もう一度聞こう。協力してくれるな?」

机に突き立てられたナイフの放つ銀色の光を見つめながら、私は思った。彼らが私に期待していた役割は情報提供者ではなく、内通者だったのだ、と。
だから、あまり詳しくない私の情報程度でも文句を言ったり目に見えて失望したりして見せなかったのだ。
いずれにせよ、この状況で「お断り」なんてできる人間はいないだろう。できない怖いと泣きわめくのは別にして。

私はかすれた声で「協力します」と答えるしか無かった。

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