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zoom RSS ネガイネガワレ 22

<<   作成日時 : 2017/07/01 18:17   >>

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アマンダに一行が来たことを告げると、私は森の中で猟をしている男達を呼び戻すよう頼まれた。
呼び戻すと言っても、わざわざ森に入って人を探すなんて効率の悪いことはしない。入り口の木の枝に板がぶら下げてあり、それを木槌で打ち鳴らすことで男達に知らせるのだ。
何でも叩き方で何事かわかるように決めてあるとかで、カン、カンと一回ずつなら死人か急病人が出た、カンカンと二回ずつなら火事が起きた、カンカンカンと三回ずつならそれ以外、という意味だそうだ。
今回は三回ずつ叩けとのことである。
そんなわけでカンカンカンと叩き続けていると、そのうち森の中から「おーい」とまばらに男の声がした。三つ子がそれぞれ声を上げている。

「何があった?」

そう言って他の男達よりも先に森を出てきたのはグレッグである。ヒースも一緒だ。

「あいつらだよ」

私が答える前に、歩み寄ってきたアマンダが答えた。

「ここの代表を出せってさ。まあ、あんたが相手すんのが筋じゃないかね」

彼女は馬車の停まっている方へとあごをしゃくる。
丸太を二本並べた橋の向こう側に停まった四頭立ての馬車の隣にはそばかすの軍人が立っていて、荷馬車の方では下働きとおぼしき高齢の男が荷台の荷物を見ている。
少し離れた場所に他の奥さん達が集まって、馬車を見ている。アマンダが声を掛けて集めたのだろう。

「わかった」

短く返事をしてグレッグがヒースに「待て」と命じて馬車へと近寄る。
私とアマンダ、そして残りの男達は、少し離れたところからその様子を見守った。

「こんなへんぴな所に何の用だ」

グレッグが問いかけると、そばかすは馬車のドアの前に立ち、中へ向かって「どうぞ」と声を掛けてから開けた。
馬車からは刺繍の入った重たそうなコートを着た男が二人出てきた。眼鏡をかけた背の高い奴と、ぎょろっとした目玉の背の低い奴だ。
それで全員かと思いきや、彼らはドアのそばに一列に並んだ。誰かがまだいるらしい。

最後に現れたのは、いかにもお役人といった風体の、毛先をくるくる巻き付けた妙な髪型――あれはかつらなのか地毛なのか――の太った男だった。
体つきから察するに肉体労働に縁の無い階級出身なのだろう。
彼は一つ咳払いをすると、その場にいた村の人間をじろりと見回し、懐から一本の巻物を取り出した。

「我々はフランツ殿下の命により派遣された調査団である」

フランツ……あのちびの名前だな。フランツ・グローセス・ヴィダリアとかいう名前だったはずだ。
殿下と呼ばれているということは、まだ彼は「お世継ぎ様」扱いなのだな。
病弱だったはずの腹違いの兄上はいまだ健在なのだろう。いかに世継ぎと言われていても、前国王が亡くならない限り王にはなれない。

「この森の向こうにある更正施設が収容者に対する虐待を日常的に行い、さらに施設長が人身売買に手を染めているとの情報を得て、殿下は調査を決定した。私はブランドン。ブランドン・バリー。調査団の責任者である」

尊大な態度だな、というのが私の率直な感想だった。それでも思考が単純なら扱いやすいかもしれない。
それよりも気になるのが、施設長が人身売買をしている、という一言だ。
施設を作ることを提言した人間がそれを真に受け直々に調査しろと言うぐらいなのだから、ただの噂話ではなくほぼ事実と見て良いだろう。

……ちびは現在不利な立ち位置にいるのだ。だから少しでも汚点をそそごうとして調査を命じたに違いない。
その場合ただ調査しておしまい、というわけにはいかないだろう。その場で主犯を始末せよ、ぐらいのことは言ったかもしれない。

「なんか態度が気に入らねえな」

すぐ近くにいた三つ子のうちの……やはり見分けがつかないが、一人がぼそりと呟き、片手に持った猟銃のグリップを握り直す。
「俺もだ」「俺も」とほぼ同時に声が上がり、やはり三つ子だと妙な感慨を覚える。
そんな声に気付いているのかいないのか、ブランドンは巻物をグレッグに差し出した。
グレッグの受け取った巻物には赤い封蝋がされている。彼はそれを破り、巻物の内容に目を通し始めた。彼は文字の読み書きができる人間だったらしい。
読み書きができるならそれなりの職業につける。ここへ来る前はさぞ良い暮らし向きだったのだろう。
それが開拓をしようなどと考えたのだから、息子と娘を亡くす以外にも辛いことがたくさんあったのではないだろうか。

「殿下の命である。調査にあたって、村の者達は我々の調査に協力せよ。協力した者には殿下より褒美が与えられるが、拒む者は処罰の対象になり得ることを宣言しておく」
「言いたいことはわかったが……おたくらが本当にお世継ぎ様の命令で動いてる人間だって証拠はあるのか?」

グレッグが胡散臭そうに巻物の文面をにらんでいる。信用できないと言わんばかりだった。

「馬鹿なことを言うな。この巻物の封蝋が見えなかったのか。書面にも王家の紋章が刻まれているだろう」
「とは言ってもな。よく出来た偽物かもしれん」

グレッグは疑わしげに首をひねっただけだった。三つ子達がブランドンや馬車に警戒の目を向け、猟銃を握り直している。何だか不穏な空気だ。
私は素早くグレッグの手の中で開かれたままの巻物に目をやった。
書面の上部に確かに紋章がある。栄光を表す月桂樹の葉と武力を表す盾。その上に荒鷲が鎮座するというデザインで、金色に着色されている。
金色の着色料は一般には出回っていないし、偽物を作るのは難しい。それに私はその紋章に見覚えがあった。貴族の馬鹿息子に買われてから「解放」されるまでの間に何度か見たし、施設に飾られていた「お世継ぎ様の肖像画」にも同じ物があった。
あれは間違いなくちびが発行した物だ。
それを疑って派遣されてきた一行を追い返したとなったら、こんな小さな村はあっという間に潰されてしまうだろう。
……誰かが取りなさなければ事態は悪化する。
私は一歩前に進み出た。

「何だ」

グレッグが私をじろりと見る。
私が自ら何か行動をするのは珍しいから、内心驚いているかもしれない。

「……この紋章は、本物、です」

私はつとめて冷静に述べた。
この村に来てからは丁寧な言葉を使うように心がけているが、身についた男言葉を使わないようにするのは骨が折れるな、と頭のどこかでぼんやり考えながら。

「何でわかる」
「あの施設にいた時、食事の前にお世継ぎ様の肖像画に感謝の祈りを捧げていました。それにも同じ紋章がありました」

私はとっさにそう答えた。嘘ではないのだから問題はない。とはいえそれは三十年前の話で、今もお祈りをしているかは不明だが。

「ほう、お前はあの施設にいたのか」

ブランドンが興味深そうに私を見る。
私は口ごもり、目をそらした。

「逃げだして来たんだよ」

見かねたらしいアマンダが割って入る。

「今までにも何人か、ここに逃げて来た奴がいるんだ。もっとも、皆弱り切ってて死んじまったけどね」
「ほう。これは話を聞く必要があるな」

面倒なことになった……が、一行と村人との衝突という事態よりはましな展開になったと思いたい。
グレッグが鼻を鳴らした。

「じゃあうちで話をするとしよう。言っとくが、もてなしは何も出来んからな」

グレッグに促されて、一行がぞろぞろと付いていく。

「ほら、あんたも」

私はアマンダに肩を叩かれ、仕方なくその後ろにくっついて家に入った。

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