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zoom RSS ネガイネガワレ 7

<<   作成日時 : 2017/02/25 13:14   >>

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私は女の方へ振り分けられた。
この体で女と見なされたからではない。少なくとも男じゃない、と見なされたからだ。

振り分けられた後で私達を待ち受けていたのは診察だった。
左の通路を進んだ先にあった広い部屋で並ばされ、白衣を着た胡散臭そうな中年の医者に体を見せた。
病気を持っているかどうかを診るだけではなく、腹に子がいるか、その疑いはないかということも判断していた。
医者は私の体を見るなり眉をぴくりと動かし、「そうではない者」に振り分けた。

その振り分けが済むと、今度は番号を付けられた。
背丈の順に整列をさせて、番号を振っていったのだ。私は78番。女の中で一番背が高かったので、一番最後の番号である。

その場にいる全ての女の振り分けが済むと、徹底的な洗浄をされた。
集団で暮らす上で衛生は大事だ。そのために、路上で暮らすうちに身に染みついた垢や泥を洗い落とし、様々な虫を取り去る必要があったのだ。
実際、全員がノミやシラミを持っていたし、汚れていて臭かった。
嫌だの何だのとぎゃあぎゃあわめく女もいたが、紺色の服の男――ここじゃ守衛と呼ぶらしい――に押さえ込まれてはどうしようもなかった。
私達は衣服を剥がれ髪を刈られ薬をかけられ、固いブラシでがしがしと無遠慮に体をこすられた。
視界が髪の毛でふさがっていないのは、何年ぶりのことだろう。私はおでこや頬がすうすうして落ち着かなかった。

洗浄が終わると、これを着ろと言われて下着一式と頭に巻く三角巾と灰色のごわごわしたワンピース、エプロンと固い皮の靴を渡された。
だが私の場合は背が高いので、三角巾以外はサイズが合っていなかった。幸い、サイズが合わない者は申し出ろというので、取り替えてもらえた。

着終えると、今度は病気の者と妊娠している者を除いて別の部屋に通された。一番奥の壁にはたった一つ、横に動かして開ける仕組みの窓がついていた。小さな窓だ。おそらく腕が通るぐらいの幅しか開けられないだろう。
両側に奥までずらりと三段ベッドが並んだ部屋である。ベッドごとに番号が付けられていて、自分の番号のベッドを使うように言われた。
私のベッドは一番奥の一番下だ。窓に近いので、おそらく窓開け係を押しつけられるだろう。
気をつけて寝起きをしないと、たちまち上段のベッドに頭をぶつけてしまう狭苦しさだが……ここが、これからの私の個人的なスペースである。
ベッドのマットレスを押してみると、固かった。おまけに底板に当たる感覚がする。どうも新品ではなさそうだ。それでも路上で布を敷いて寝るよりはましだろう。

「次に呼に来るまでここにいろ。いいか、勝手にどこかへ行くなよ。棍棒や鞭でぶちのめされたくなかったらな」

守衛がふんと鼻を鳴らし、部屋のドアを閉めていく。

「なんだい、あの態度。鼻持ちならないね」
「男なんてみんなああよ。威張りくさってさあ」

入口側のベッドの女達が陰口をたたいている。すると、同調からかその辺り一帯が賑やかになり始めた。
別にすることもないし、話す相手もいない私は、ベッドに上がって壁に背をつける格好で座り込んだ。
こうすれば、一見では誰がいるかわからない。覗き込んでまでわざわざかまってくる奴はいないだろうと思った。
風が吹いてくるので目をやると、窓枠の周りに隙間があることに気づいた。これでは冬場が大変だ。吹雪でもしたら、この辺りには雪が吹きだまるだろう。
目張りをする必用がある。おそらくは窓開け係にされるであろう私が。
どんな具合か前もって見ておこうと、私はベッドから抜け出して窓枠に近づいた。
古い木製の窓枠。石でできた壁にモルタルで取り付けてある。年月の経過で亀裂が入り、それがだんだん広がったようだ。
どのぐらい動くものだろうかと、手をかけて少しばかり動かしてみたら――ばきり、と音がした。見れば窓枠の木に亀裂が走っている。
その途端、しいんと場が静まるのを感じた。
何だお前達。さっきまでぺちゃくちゃしゃべっていたくせに、何故こんな些細な物音を聞きつける。
だいたい木枠が割れたのは私が馬鹿力で動かしたからじゃなくて、元々腐っていたかもろくなっていたせいだぞ。
……まずいことをした、という自覚がないではないが。

と、その時出し抜けに部屋のドアが開いた。

「おい! お前達、今から仕事の説明をするから着いて来い。もたもたするなっ」

守衛が入り口で声を荒げている。部屋の中の女達は一部で不満そうな顔をしながら部屋から出て行く。
これは幸いと、私はそそくさと人の列に加わった。

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