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zoom RSS ネガイネガワレ 5

<<   作成日時 : 2017/02/11 13:02   >>

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私の身長より遙かに高い塀のたった一つの切れ目には、それ以上の高さの頑丈そうな鉄扉の門がでんと構えていた。
実に重そうだ。開け閉めするのに時間がかかることだろう。

そこを通り、荷馬車の列は中へと入る。
私は、自分の乗った荷馬車が入った後で振り返った。
門の鉄扉には紺色の服と帽子を着た男が二人ずつ張り付いていた。門番、というところだろうか。

視線を前に戻すと、道の上から見たごつごつした石造りの建物が現れた。
近くで見ると迫力がある。圧倒される、というのだろうか。少なくとも人が生活するために建てられたという感じはしない。
その建物の入り口前に通路を作るような形で、左右に有刺鉄線の絡んだ柵がある。高さは塀より少し低いぐらいか。それが門までずっと続いている。

荷馬車が止まる。

入り口の近くに紺色の服を来た男が数名待ち構えるように立っているのが見えた。
鞭を持っている者、棍棒を持っている者、何というのだったか忘れたが、猟犬を連れている者もいる。
彼らの中心に、緑路の軍服姿の男がいた。胸元には勲章がある。いつぞや見た顔だな、と思ったら、ちびを助けに来た奴らの一人だった。こちらには興味なさげに口ひげの先をいじっている。
見たところ、彼はここの管理をする者……いや、支配者の身分だ。紺色の服の連中はその下っ端、といったところか。
紺色の服の連中は、彼にはこびへつらい私達にはさぞ意地悪く接するのだろう。
しかし異様な光景だ。ここがきちんとした教育と仕事の機会を与えるような場所とは思えない。
同じ荷馬車に乗った奴らも同じことを考えたようで、ざわつき始める。
――私は悟った。おそらく生きているうちにここから出ることはかなうまい、と。

「さあ降りろ、早く!」

紺色の服を着た連中に脅されて、私達は荷馬車を降りる。

「もたもたするなっ」

他の荷馬車に乗っていた奴らと一緒くたになって、棍棒で突かれ押しのけられながら、建物の入り口へと歩かされる。
どこから鞭の打ち下ろされる音がするたび、皆びくりと身をすくめる。
まるで牛や馬のような扱いだ。
足元を見つめてのろのろと前の奴に続いていると、唐突に声がした。

「読み書き、計算のできる者はこちらへ来い!」

顔を上げれば、左手の方に軍服姿の青年が立っていた。確かあれもちびを助けに来たうちの一人。そばにはピストルを腰のベルトにぶら下げた紺色の服の男が控えている。

「どうする」
「きっと扱いもましだろうさ」
「行こう行こう」

ぼそぼそと話しながら何人かが列から抜け出して、そっちへ走った。
本当に読み書きと計算ができるのか、私には知りようもない。

私はそのまままっすぐ歩いて行った。
……実を言うと、読み書きも計算もできる。
だが、頭脳を使う仕事にまとわりつく苦労を思えば、そちらへ向かう気になれなかった。
あれは、体のみならず心までも壊すものだ。二度と取り返しがつかないことだって、ままある。

「そこのお前、歩みを止めるなっ!」

怒鳴り声と鞭の音が響いてきて、知らず自分が立ち止まっていたことを知る。
目を付けられたら面倒だ。私はおとなしく、他の連中に混ざって歩いた。

おそらくここが私の終の棲家、ということになるのだろうな。
これからは自由に外に出ることすらできないだろう。ならば見納めとして空を拝んでおこうか。
見上げた高い塀に囲まれた狭い空の色は、先ほどまでの青さからどんよりとした灰色に変わっていた。

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