プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS ネガイネガワレ 4

<<   作成日時 : 2017/02/04 15:28   >>

トラックバック 0 / コメント 0

あのちびの名は、フランツ・グローセス・ヴィダリアという大層なものである。
……ということを、私は人づてに知ることとなった。まあどうでもいい、私にとっては「ちび」である。

私がちびの名を知るに至ったのは、天使に願った翌日、あいつが大々的にこの国の王室の正当な後継者と触れ回られたからだ。路上で暮らしているような連中でも知るぐらいなのだから、相当なものである。
ちびは今の国王様とは腹違いの弟で、母親はその王妃の輿入れに付いてきた侍女らしい。
先代の国王に見初められ、ちびを身ごもったことで愛人――この場合寵妃と言うのだったか――という身分に引き上げられたものの、四年ほど前に突然発狂し、命を絶ったという。
それに胸を痛めたのか先代の国王はみるみる弱ってご逝去、代わって今の国王が即位した、という経緯だそうだ。

今の国王はまだ年若い上にひどく病弱で子供がおらず、継承権を巡って王宮は不穏だったらしい。
それを一番すんなり解決できるのが、あのちびの存在だったのだ。先代の王の子であるなら誰も文句を言うまい。
かくてあのちびがこの国の次期国王として迎えられたというわけである。
庶民の間では名前ではなく「お世継ぎ様」と呼ばれているようだ。

まさか、あの状況で「国王の腹違いの弟にしてくれ」なんて回りくどい願い事をするとは思えないから、血筋や出生自体は間違いないのだろう。
……なんでそんな生まれの子があんなところにいたのだろうか。政争のどさくさだろうか。

ともあれ、めでたく世継ぎが決まったということで、近いうちに病弱な国王はお隠れになるという。そうしたら、晴れてちびは国王様である。
体は弱くなさそうだし、大勢の世継ぎと長い治世が望めることだろう。
とはいえ状況は簡単に穏やかになるまい。
国王が伏せっている間、ずっと代行として政治を執っていた大臣にとっては一大事のはずだ。きっとちびを妨害にかかるだろう。
王妃だって、ちびの存在を内心疎ましく思うはずだ。
自分に子供がいたなら次の国王の生母として権力を握れたはずなのに、それがかなわぬのだから。
ひょっとすると、大臣と今の王妃が手を組んで様々な工作をするかもしれない。

――というようなことが、あのちびを取り巻く状況らしい。
私はかぶっていた布を深くかぶり直し、ため息をつき、膝を抱えなおした。
私がいるのは、人間でぎゅうぎゅう詰めになった荷馬車の荷台の上。真ん中ぐらいの所だ。
晴れているのに肌寒いという、冬の訪れが近いことを予感させる天候の中を、数台の荷馬車が列を作って進む。
進む道は青々とした草地が広がるばかりで何もない、田舎道だ。
たまに車輪が道に転がった石を踏んだり、くぼみを超えたりした時にガタンと揺れる時以外、何の変化もありはしない。

どうしてこんなことになったのかというと、お世継ぎの身分となったちびがさっそく行動を起こしたからだ。
国王に対して、路上で暮らす者は不幸だから、教育と仕事に就く機会を与えてやって欲しい、というような内容の「お願い」をしたわけだ。
あんな粗暴な連中になったのは、まっとうな教育の機会が与えられなかったからに違いないと。教育しさえしてやれば、あんなことをする奴にはならない、と。

なんとまあ慈悲深いことかと王宮内にはちびを讃える者も結構な数がいたそうだが……その行いが同情や憐れみからではなく、無意識のうちに見下して蔑んでいるからこそのもので、施すことで心を安定させようとしていることに、何人が気づいているのだろうか。

そんなわけで私を含んだ路上生活者は片っ端から荷馬車に乗せられてしまった。
荷馬車に乗せられた私達は退屈しのぎに、現状で知りうる限りの情報を交換し合っている。
もっとも私はだまりこくって耳をそばだてているだけなのだが、それでも結構な情報が集まった。
あくまでも常識的なものを集め、判断した結果である。

人の口に戸は立てられぬ。その上、うわさ話の宿命として何か変な尾ひれが付いていた。
やれ「王妃様と侍女は先代の国王の愛を巡って闘った」だの、「今の国王は病弱なんじゃなくて、男にしか興味がないから世継ぎができなかった」だの、色々である。
「なんでもお世継ぎ様は、天使に導かれたらしい」というのが聞こえた時には、思わず口がひくついたが。

「おい、何か見えてきたぞ」

誰かの声に顔を上げれば、荷台の上の全員が馬車の行く手を見つめていた。
私もそっと布の端を持ち上げて、赤やら黄色やら黒やら、色んな髪の頭の隙間から向こう側の景色をのぞき見た。
――その先に見えたのは、高い塀にぐるりと囲まれたごつごつした石造りの建物だった。

「ずいぶん立派だこと」
「ありゃ、城じゃないのか? 王様の城ってあんな感じなんだろう?」
「城? その割には寂しそうだよ」
「あんた王様の城なんか見たことあんのかい」
「ねえよ。なんとなくそんな気がしただけさ」

様々な憶測が飛び交う中で、私は震えが止まらなかった。

あれが城? 冗談じゃない。
私には、あの建物が監獄にしか見えなかった。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ネガイネガワレ 4 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる