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zoom RSS あなたの特技は何ですか

<<   作成日時 : 2016/12/17 17:53   >>

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「特技って何かあります?」

誰かにそう聞かれたら、「何もありません」って答えることにしている。めんどくさいから。
つまんない奴だという顔をされることもあるけど、世の中人に言えるほどの特技を持ってる奴の方が少ないんだから別に気にしちゃいない。

――けど。

「えっ、何もないんですか? 先輩、地味ー」

顔に出すだけに留まらず、口に出しちゃう人がいるっていうのが問題だ。

「悪い?」
「やだなー、悪いなんて言ってないですよ」

笑って顔の前で手を振っている、いかにも学生時代から目立ってました、みたいな見た目の女の子。こいつは私の職場の後輩ちゃんだ。
普段は名字で呼び合ってる。要するにあまり親密じゃない。

「先輩のことは尊敬してますってー。お仕事できるし−」

嘘だ。そもそもお前、日頃から私のこと小馬鹿にしてただろ。気づいてないと思ってんのか。

「あたし、特技いっぱいなんですよ−。ガーデニングやるし、編み物やるし、お人形も作るし」

それって趣味とどう違うんだ、なあ。
頼むから、私の目つきが悪くなってることに気づいてくれ。
グラスのジュースと氷をストローでかき混ぜながら、引きつってきた唇をぎゅっと閉じる。
ああやだ。何でこんな可愛くもない後輩ちゃんとお茶しなきゃいけないんだろ。
先にお店でジュース飲んでぼうっとしてたのは私なのに、店に入るなり「せんぱーい」なんて声かけてきて、挙げ句同じテーブルに座っちゃって。
……おごらせたいのか? そうか、なら払ってやるから出てってくれ。帰ってくれ。どっか行ってくれ。頼むから。

「特技ない人って、人生つまんないんだろうな。かわいそー」

あ?

私は、ダンッとグラスをテーブルに叩き付けるようにして置いた。
派手で目立つことを信条とするタイプの人間からしてみると、地味な見た目の私がそういうことをするのはとっても面白いらしい。

「ん? どうしたんですかあ?」

にやにや笑って、後輩ちゃんはこっちを見つめてきた。

もう黙っておれん。めんどくさいから人に言わないだけで、特殊な能力なら持ってるんだからな。
……見ていろよ、お前、三秒経ったら笑ってられないぞ。

「特技って言えるかどうか、微妙かなって思うんだけど……見せてあげるよ?」

私は後輩ちゃんの目の前に右手の人差し指を伸ばすと、くるくると回してみせた。トンボにやると目が回るっていうあれと一緒だ。

「先輩、もしかしてあたしの目を回そうとしてます?」

まだ小馬鹿にした顔の後輩ちゃんの体から、ばり、と音がした。

「へ」

間抜けな声。
目の前の後輩ちゃんの体が、もりもりと膨らんでいく。
着ている服はあっという間に縮んでいって、ただの布きれと化して床にひらひら落ちた。
淡い色のジャケットも中に着ていたシャツも、スカートもブーツも……身につけていた下着も全部。

悲鳴と絶叫が入り交じる。

「きゃ!」「えっ、何あれっ」「撮影かなんかじゃないの?」「すっげえマッチョ!」

何やらスマホで撮影しているらしい音も聞こえ出す。
三秒で姿形が別人に成りはてた後輩ちゃんは、しばらくあわあわした挙げ句、泣き声のようなものを発しながら店を飛び出していった。
あーあ、まだ支払いしてないのに。
私はジュースを片手に、テーブルの上の伝票を拾い上げる。
……まあ、払える額だし、ここは出しておこうか。





――私の特技は、三秒間念じながら相手の目の前で指を回すと、老若何女問わずどんな人でもムッキムキの筋肉モリモリなマッチョにすることです。
解除はできません。あらかじめご了承ください。



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