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zoom RSS ゲンカク 9<最終話>

<<   作成日時 : 2016/05/08 09:59   >>

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「さあ起きて下さい。母星に到着しましたよ」

医療スタッフの声に二人が目を覚ますと、すでに宇宙船は母星の港に着いていた。
見る者を圧巻する巨大な母港。いつもは様々な宇宙船が行き交うこの場所に、今は救助隊の宇宙船以外の舟影はない。政府が規制をかけたようだ。

「政府の指定した病院がありますので、そこで精密検査ということになります。ちょうど病院から迎えが来たところですよ」

医療スタッフの指示で、二人はストレッチャーに乗せられた。

「そんな大げさな。歩けますよ」
「毒性のガスを吸ったわけですし、体に負担がかかるのは望ましくありませんよ」

そう言われては仕方ない。二人はおとなしくストレッチャーで運ばれることにした。一台一台に乗せられベルトで固定され、前後に並んで船内を進む。
スロープに向かうまでは天井か横ぐらいしか見ることはできない。
姉はぼんやりと天井を見上げていたのだが、途中で妹が突然叫び声を上げたのでぎょっとした。
医療スタッフも驚いたようで、ストレッチャーは止まった。

「どうしたの、どこか痛いの?」

姉はできる限り身を起こし、先行する妹のストレッチャーを見る。

「あいつよ!」

妹はヒステリックに声を上げた。

「ええ? あいつって?」
「あの星の住民よ! ほら、姉さんだって覚えてるでしょ!?」

妹は横の方向を指さす。だがそこはどう見ても、ごちゃごちゃと計器が取り付けられただけの壁だった。

「そこにいるの、あたしには見えたの、間違いなくあいつだったわ! ロープを伝って降りてきてた奴らのうちの一人よ」

すると医療スタッフはけげんな顔をした。

「……そんな馬鹿な。ここは壁ですよ、隠れる場所なんてありませんよ」

言う通り、そこに人が隠れるのは困難だった。身を隠せそうな大きさの物はない。

「そいつは、今もそこにいますか?」
「今は、そこには見えないけど……」

妹の声が力を失っている。

「でも、目を離した隙に、どこかへ逃げたのかも。あいつらは身体能力がすごいから、誰にも見つからないように移動するぐらいのこと、やってのけるかもしれない」
「あり得ません。交流を持たない惑星から勝手に住民を連れ帰ったりしたら重罪ですし、そのチェックは徹底しているはずです」
「お願いです……ちゃんと調べた方が」

食い下がる妹を見て、医療スタッフが困ったようにため息をついた。

「きっとガスの影響で、幻覚を見たんですよ。緊張状態が続いて、心身もでも大丈夫、搬送先はトップクラスの医療技術を持った病院ですから。後遺症も出ないように治療してくれますよ」

妹の発言が真実かどうかを確かめることもできぬまま、ストレッチャーは再び動き出した。
その壁の横を通り過ぎる間際、姉はちらりとそちらに目をやった。
――指先が、口元が強ばった。
人型のシルエットが見えたような気がしたから。

(どうして? あそこはただの壁なのに)

姉が考え込んでいるうちに、ストレッチャーはどんどん進んでカーテンのあった位置から遠ざかってしまった。
あのシルエットは、気のせいだったのだろうか。
確かめることもできぬまま、二人は病院から迎えに来た車両に乗せられた。





「作戦は成功したか。君は実に優秀だ。隊長に任命して良かったよ」
「お褒めいただきまして光栄です」

見るからに高級そうな調度品が置かれ、窓から手入れの行き届いた庭園を臨み見ることのできる部屋だ。時折、小鳥のさえずりも聞こえる。
救出時に使っていた黒いスーツではなく、制服に身を包んだ救助隊の隊長が何者かと会っていた。
隊長と相手とは年代物の執務机で隔てられ、その後ろ一面にある窓から日差しが差し込んでいる。
相手は立派な革張りの肘掛け付きの椅子に座っているが、こちらに背面を向けているため、顔がわからない。

「で、サンプルは今どこにある」
「救助隊の船に収容してあります」
「おいおい、それじゃあ他人に見られてしまうんじゃないのか」
「いえ、船体の壁の中に隠して収納してありますので、まず見つかることはないでしょう。あの姉妹を病院関係者に引き取らせた後、軍の施設へ運び入れます」

相手が窓の方を向いたまま、ふっと笑うのを隊長は椅子越しでも感じ取ることができた。

「我々とは比べものにならないほどの身体能力と適応能力……ついに最強の兵士が手に入る。我が惑星を弱小とはもう呼ばせん」
「お言葉ではありますが、先に制御する方法を見つけるのが先ではないでしょうか。下手を打てば厄災を招き入れただけ、という結果になりかねません」
「だからこ、そこれからサンプルを徹底的に調べ尽くすのだ。くれぐれも死なせてくれるなよ」

上機嫌のまま相手は続ける。

「あの姉妹には感謝しても良いだろう。おかげで救助という口実であの星に武器を携行して堂々と入り込めた。サンプルの捕獲には武器が欠かせんからな」

と、そこへ通信が入る。相手は隊長を待たせ、応対に出た。
一言二言話をし、通信を切ると苦々しげにこう吐き出す。

「あの姉妹……特に妹の方だが、放っておく訳にはいかなくなったようだ。どういうわけか勘付いたらしいぞ」
「余計なことを世間に公表したり、探りを入れてくるかもしれません。監視を付けます」
「手ぬるい。あの姉妹には、ガスの後遺症を“負ってもらう”ことにしよう。医療スタッフにはカルテの書き換えを指示しておきたまえ」
「はっ」

相手はそこで、一息ついた。

「もし誰かが事実を公にしようとするなら――」

窓の外で、小鳥が飛び立った。やんわりとした風が木の葉を揺らす。

「――姉妹と共に、死ぬまで幻覚を見続けてもらおう」

相手が幻覚を見ているとなれば、何を言っても誰も信用はしない。
サンプルとして連れてこられた異星人がいた、と真実を訴えたとしても世間は馬鹿げた妄想として一蹴してくれる。
騒ぐのはせいぜい、オカルトマニア向けの雑誌ぐらいのものだろう。

隊長は敬礼をすると、その部屋を出て行った。


END

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