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zoom RSS ゲンカク 7

<<   作成日時 : 2016/05/06 14:03   >>

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船体を揺らす風の音にも慣れた頃、姉妹は妙な物音を聞いた。
がんっ、ごんっ、と何かが船体にぶつかる音である。ただし音はその二回きりでやんだが。

「何の音?」

妹はいぶかしげに顔を上げた。

「雨やひょうの降ってきた音にしては変だね」

姉は画面を切り替え、外の様子を確認する。

「何だっていうんだよ、こいつら」
「えっ」

姉の声に、妹は顔をそちらに向けた。
呆然とする姉の眼前、モニターには崖の上の様子が映っていた。

「姉さん」

隣で妹がおののいている。
モニターには、三人の男が下へ……つまり谷底にいる姉妹の宇宙船に向けて、長いロープを垂らして降りてくる様子が映っていた。
さらにカメラを切り替えると、船の周りに二人の男が張り付いて、見回している。
おそらくこの五人は、偵察として差し向けられたのであろう。あの物音は、先に降りてきた二人が着地した時のものだったのだ。
いくらロープが長いとはいっても、谷底まで届く物はそうそうあり得ない。彼らの使っているロープも途中までの長さしかなかった。
だが彼らにとって、ロープの長さなど些細な問題だったようである。
彼らはロープを伝って途中まで降りてくると、そこから飛び降りて着地していた。
通常ならば、着地の負荷で足が砕けるか折れるかするような高さである。だが、彼らは足を痛めた様子もなく平然としている。

救助隊は言っていた。彼らの身体能力と適応能力は高い、と。
たった今、姉妹はその能力の程を具体的に知ることができた。これに加えてガスへの適応もしているとなれば――姉妹にとっては絶望的な状況といえる。

「どうしようっ、あいつらが……」
「しっ」

姉が人差し指を立て、悲鳴混じりな妹の言葉をさえぎる。

「そうだ、警報、警報はどうしたの」

妹は音にびくつきながら、声をひそめた。
彼らが接近してきたらいつも鳴っていたピーピーという高い音。今回は聞いた覚えがない。

「そこまで壊れちまってるんだろ、くそっ」

そうこうしているうちに先ほどと似た音が三つ、聞こえた。モニターに目をやれば、五人がそろっているのがわかる。
姉妹は弾かれたように、船内のある一点に目を向けた。
唯一外へとつながっているドア。今はロックが壊れていて、外からの侵入を防ぐことができなくなっている。
妹は音を立てないようドアに近づき、それを力一杯に引き続けた。
もし彼らにここから入れると気づかれたらおしまいである。

いくら身体能力が高いとはいえ、人力でいくら叩いても宇宙船に穴が開くことは無い。
だから、救助隊が来るまでここを死守すれば助かる、と姉妹は考えていた。

男達は何やら声を上げながら、船体の周囲を動き回っているようだったが……突然、その声が消えた。

「何だろう」

その時、ドアを引いていた妹の腕が引っ張られた。外から誰かがドアを開けようとしていて、その動きに引っ張られたのだ。
必死に戻そうとするも、しょせんは女性一人の力。ドアには頭一つ分入りそうな隙間ができてしまった。
妹は見た。その隙間から、丸いガラス玉のような目が二つ、こちらをのぞき見ている様を。

何事かを、船の外にいる相手は叫んだ。先ほどまでとは違う声のようだが、誰の声かなんてわからない。
それに答えているらしい声も複数聞こえてくる。

(見つかった!)

妹は恐ろしくなって、ドアから手を離してしまった。

「姉さん、姉さんっ」

恐怖から足がすくんで動けない。妹は半狂乱で泣き叫んだ。
その背後で、ドアは完全に開けられてしまった。

「いやっ、触らないでよ!」

ドアから現れたそいつは、姉の目には奇妙な生物にしか映らなかった。
つるりとした何かで全体を覆い隠していて、目玉の部分にガラス玉のような物がついている。
そいつは暴れる妹の体を押さえ込み、何やら巻き付けるとドアの外へと引きずり出そうとする。

「姉さん、助けてえええっ!!」

子供のように泣き叫ぶ妹。
――そのうち、その声は聞こえなくなった。

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