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zoom RSS ゲンカク 6

<<   作成日時 : 2016/05/05 16:57   >>

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妹は何か、ふわりと体の浮くような感覚を覚えた。
その直後、ギギギと金属のきしむような音がして、とてつもない轟音と衝撃が襲ってきた。
何かにぶつかっただけとは思えなかった。何せその後は上下左右もわからぬほどに船体の中で転がる羽目になったのだから。
とてつもない轟音と衝撃が、うずくまっていた妹を襲う。
ぶつかっただけとは思えない衝撃だった。何せ、その後は上下左右もわからぬほどに船体の中で転がったのだから。
妹は頭をかばうように抱え込み、なるべく小さく身を丸め、舌をかまないように気をつけるぐらいのことしかできなかった。

「いたた……」

ひときわ強く叩き付けられた後、ようやく事態が収まる。
頭ががんがんする。ぶつけて痛む所をさすりながら、妹は起き上がった。

見れば、外の様子を映していたモニターにはざらついた岩肌ばかりが映っていた。
船体の断面図が浮かび上がり、不時着した時にはなかった故障を示している。新たな故障が発生したのだ。
その前で、操作席に座った姉が、前面のパネルに突っ伏している。彼女はシートベルトをしていた。
……その肩が震えている。

「ふ、ふふ、ふ」

泣いているのか笑っているのか、わからない。
妹はそうっと姉に歩み寄った。

「落っこちた。あいつらを追い回してるうちに、崖から落ちた。ここは、谷底だ」

先ほどの事態は、崖を転がり落ちていたせいで起きていたのか。妹は合点がいった。

「……どんどん悪い方に向かってる。あたしのせいだ。あんただってそう思ってんだろ、ええ!?」

姉が感情をむき出しにして吠える。

「きっとあたし達はもうおしまいなんだ、救助隊は間に合わなくて、ここでなぶり殺されるんだ!」
「姉さん、お願いだから落ち着いてよ! あたしは恨んでないし、責めたりしない……それに、救助隊だってちゃんと信号を受け取ってたじゃない、来てくれるわよ」

妹は突っ伏したままの姉の体を引き起こし、その顔を真正面から見据える。
ガスマスクの、目を覆う分厚いゴーグルから見えるその目は真剣そのものだった。

「それよりも、無事に帰ることだけ考えよう? そのためにできることをやろうよ」

それきり、妹は黙って姉を見つめ続けた。
――ややあって。

「……ああ」

一つ、力なくうなずいてから、姉は細かく震えだした。やがてしゃくり上げて泣き出す。「ごめん」と合間に挟みながら。

「あたし、様子を見てくるよ」

その間に姉が落ち着きを取り戻してくれることを願いながら、妹は妹は外へと続くドアをなるべく小さく開け、外の様子をうかがった。
と、出し抜けに強い風が吹いてきた。ドアを、それにしがみつく妹を吹き飛ばしかねないほどの強い風だ。
妹は必死にドアを引き、その風に耐えた。
そのまましばらく待つと、少しだけその勢いが弱まった。妹はようやくまともに外の風景を見ることができた。

船体をぐるりと岩肌が囲んでいる。見上げれば青い空が遙か遠く、小さく見える。
上昇する機能は壊れているし、人力でこの高さを登って脱出するには無理がある。救助隊が来るまで、ここに留まるしかなさそうだ。

妹が少しばかり考えこんでいるうちに、また強い風が吹き付けてきた。

「何なのよ、もうっ」

苦労しながらドアを閉め、ドアを引き続けたためにしびれた腕を振りながら、妹は船室へ戻った。

「ずいぶん高い所から落っこちたみたい。強風が吹いてるし、登るなんてきっと無理……」

妹の報告に、姉の体が小さく強ばる。責任を感じているのだろう。

「そうだ姉さん、ガスはまだ出てる? 救難信号は?」

どうにか気を取り直し、姉はのろのろとパネルを操作する。

「……信号はちゃんと出てる。でも、ガスは……」

姉妹はモニターに映る船体の断面図の一カ所をにらんだ。
ガスを散布する噴霧口の部分だ。そこには故障を示すマークが付いていた。

「だ、大丈夫だよ。こんな所に落っこちたなら、あいつらだってわざわざ襲ってこないよ」

と、船体が強風にあおられて揺れる。ほんの少し浮き上がっては、ごすん、と落ちる動きを繰り返している。

「風、強いね」

妹が軽口を叩く。だがその口調は固く、ぎこちない。

「船が転がっていきそう」

姉は何も答えない。うつむいたままだ。
現実的な話をすると、いくら風が強いからといって宇宙船が転がっていくようなことはない。せいぜい揺れる程度のものだ。今のように。
だが妹は何か話さなければ耐えられなかったのだ。
いつも自分を引っ張っていってくれる姉のふさぎ込んだ姿を、黙って見ていられなかった。

「この風を使って崖を登れないかな。ほら、パラシュートか何かを付けて……」

明るい声と、やや大げさな身振りを交えて妹は話している。
だが本心からのものではない。演技である。それも下手くそな部類のものだ。
無理にそう振る舞っていることは、誰が見ても容易にわかるだろう。

「無謀だよ。強い風にあおられて、カエルみたいに壁面に叩き付けられるのがオチだろうさ」

ぼそりとつぶやいた姉が、不意に腕を伸ばして妹の頭を抱き込む。
妹は右側に身をかがめる少し苦しい体勢を取ることになった。

「……無理に元気づけてくれなくていい。おとなしく、救助を待とう」
「……うん」

妹は目を閉じた。
姉妹でのハグ。子供の頃は身近なものだったが、仕事をする年齢になってからは年に数えるほどになった。
――柔らかな腕の感触と、寄せた頬からじんわり伝わる温もりは二人の心をつかの間、落ち着かせてくれた。

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