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zoom RSS ゲンカク 2

<<   作成日時 : 2016/05/01 15:42   >>

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ガスの散布を済ませると、姉妹は食料の在庫の確認をした。
幸いにして酸素の濃度は故郷の星と変わらぬとわかった。飲み水の方も、大気中から水を作ることができる装置を取り付けているため確保できる。
だが食料の方はそうもいかない。無くなったらそれまでだ。特に今回は外へ出て集めに行くわけにもいかない。
救助隊が来るまでどう過ごすかは、食料の在庫にかかっていた。

これまでの航行でも消費していたため、もしかしたら持ちこたえる分は残っていないのでは、と姉妹は危惧していたが……。

「姉さん、食料は一応、あったけど……」

妹は目の前のそれを指し、口ごもる。
銀色の袋にパッキングされた、吸い口付きのスティック状の物体が、姉妹の前のテーブルにこんもりと積まれている。
これらは携帯食である。中身はゼリー状で、ガスマスクを外すことなく吸えると宣伝されている。
この時代のガスマスクは全て、携帯食の吸い口を取り付ける部分があった。そこに取り付ければガスマスクをしたまま栄養が取れる仕組みである。

「ああ、すっかり忘れてた。前の航行の時に積んだやつだね」

姉が一つを手に取り、つぶやく。

ちなみに、この携帯食一つで一日分のカロリーが取れる。
その点だけを見れば優れた携帯食といえるが……実は味の方がすこぶる不評である。
フルーツの味を付けたというが、それが薄っぺらいのだ。
率直に言うと「不味い」の一言。吸えば吸うほど気が滅入る、と言う者もいる。
おかげで売れ行きはさっぱりである。定期的に投げ売りされるほどで、この宇宙船に積んであったのも、以前の航行の準備の際、少しでもコストダウンを、ということで姉が選んだからである。

それがそっくり残って、ここにある。おかげで数の方は充分である。
一日に一人一つとして、五日どころか十日以上は持つだろう。

「これならガスマスクしたままでもいける。良い買い物をしたよ」
「良い買い物って……安いから買っただけでしょ。これ、不味いって評判だよ」
「この非常事態に、味にケチつける気かい。腹に入る物があるだけ、ありがたいだろ」
「それはそうだけどさあ……」
「救助隊が来るまでの辛抱だろ。我慢しな」

と、そこへピーピーという高い音が響き出す。
姉妹はハッとした様子で、モニター画面の方に顔を向けた。

操作席前のモニターは、宇宙船に備え付けてあるカメラで四方向の外の様子を映し出すように設定されており、四分割でそれぞれの風景が映っている。
そのうちの一つ、南側を映している箇所に異変が起きていた。
荒野の中に転がる大きな岩の陰から、一つ、また一つと丸い物が突き出ている。
姉はパネルを操作し、そのエリアを拡大して映し出した。

「あっ!」

妹が声を上げる。
岩の陰に突き出た丸い物の正体は――こちらをうかがう原住民の男達の顔だった。
よく見れば男達はそれぞれ、武器らしい物を持っている。映像で見た、あの不格好な刃物の形に打ち直された鋼である。
おそらく不時着した時の衝撃音を聞きつけて、何事かと様子を見に来たのだろう。
盛り上がった筋肉に鋭い眼光。映像で見ていた時とは違い、今彼らがこの場に存在しているという事実が、姉妹を緊張させる。

「姉さん、あいつらだ」
「やっぱり来たね。早いうちにガスを散布して正解だった」

姉妹は固唾をのんでモニターに映る男達をじっと見つめる。
ガスを散布したのだから、宇宙船には近寄ってこれないはずである。
それでも警戒心を抱かずにはいられなかった。

一方、男達の方も見慣れぬ巨大な物体に警戒した様子で、手にした武器を構えたまま、じわりじわりと距離を詰めてくる。
その足が、不意にぴたりと止まるのを姉妹は見た。

唐突に、男達から絶叫が上がった。
叫び声は次々に連鎖していき、辺り一面にこだました。

彼らはガスを吸いこみ、幻覚を見たのだ。どんな恐ろしいものを見ているか定かではないが、こけつまろびつ走って行く者、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら逃げ去る者などで画面は賑やかになった。
映像で見た凶暴さは微塵もない。まるで大きなな犬を怖がって逃げる幼児のようだ。
なんだか滑稽に見えて、姉妹はどちらからともなく吹き出した。

「ガス、ちゃんと効いてるね」
「ああ。これに懲りて、もう来ないでくれることを祈るね」

その時、モニター画面の端にポンという音とともに数字が現れた。その数字は少しずつ減っている。

「ガスの濃度が下がってる。また散布しないと」
「賛同しますよ、船長」

妹が少々おどけた様子で賛同すると、姉は軽く頭を振った。

「おふざけはやめな。今は緊急事態なんだよ」

やがて叫び声は聞こえなくなり、画面の中にも人影はなくなった。
――その後、日が沈んでも男達はやってこなかった。
姉妹はガスの濃度を見張るため、交代で眠りについた。


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