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zoom RSS ゲンカク 1

<<   作成日時 : 2016/04/30 16:13   >>

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とある惑星に、よそからやってきた宇宙船が不時着した。
様々な惑星を巡っては珍しい草木を集めるという探索用の宇宙船で、乗っているのは二人の姉妹だった。
体のラインを覆い隠すような、宇宙船用の白いスーツに身を包み、オレンジ色の髪を同じぐらいの長さに切りそろえた二人は、顔立ちをのぞけばうり二つだった。
姉の方はつり上がった青い瞳の、気の強そうな顔立ちだった。対して妹はほっそりした面長で、姉と同じ青い目を伏しがちだった。

不時着の衝撃が収まると、妹の方は姉を不安げに見た。

「姉さん、どうしよう」

そう言って妹は目の前のモニターを指さす。
そこには宇宙船全体の映像が映し出されていて、故障とおぼしき部分が赤く点滅していた。不時着の際に一番衝撃の加わった、機体の下部分に故障が集中している。

「嘆いたって始まらないさ。まずは救難信号を出すんだ」

姉妹はそれぞれ、操作席の前面にあるパネルをあれこれいじり始めた。
ほどなくして、妹は姉の方に向き直る。

「姉さん、信号は無事に出たよ」
「そうか。あとは救助隊を待つしかないね」

妹は、モニターに映る外の風景に目をやった。
外の風景といえば、寒々とした荒野が広がるばかりである。大きな石があちこちに転がっていて、わずかに生えた草が風に揺れている。
生命の息吹を感じさせない風景に、妹は心細そうに肩をすぼめ、胸の前で手をぎゅっと握った。

「救助隊、何日ぐらいで来ると思う?」
「さあ。ここから一番近い救助隊の基地は、宇宙船でも五日ぐらいかかる所にあるようだし、途中で賊にでもあったら、もっとかかるだろうさ」
「そんな……」
「情けない顔するんじゃない。で? 壊れていて使えない機能は?」
「機体を上昇させる機能と、船外に行けるドアのロック。外部からの侵入を防ぐ機能が壊れてる」

その報告に、姉は渋い顔をした。

「まずいね……この星の住民がそれを知ったら、どうなるか」
「どうしたの?」
「この星には住民がいる。大気成分のついでに調べてみたら、こいつらには関わっちゃまずいことがわかったんだ」
「あ、この星、他の惑星との交流がゼロなんだね」

発展具合に極端な差のある惑星どうしがむやみに交流を持つことはその惑星の自然な進化に悪影響を与えるというので、広く禁止されている。
妹はそのことを思い出していた。

「それもあるけど……こいつら、あちこちに集落を作ってるけど、かなり排他的な性質でさ。おまけに身体能力がとんでもなく高いんだよ。あたし達の何倍も足が早いし、力もある。もし見つかったら……穏便にはまず済まないだろうね」

姉はパネルに指を滑らせ、モニターにある映像を映し出す。
それはこの惑星に住む者達の生活の様子だった。
乱雑に切り出したであろう石と丸太でできた家々が立ち並ぶ場所。
染め物の技術はまだなく、植物や毛皮を加工しただけの粗末な衣類に身を包んでいるものの、住民達は一見、姉妹とさほど変わらないように見える。
だがその目。それだけが異質だった。皆、凶暴さとどう猛さをたたえた鋭い瞳をしていたのだ。

「まるで獣だね」
「見た目が凶暴そうなだけっていうのなら、まだ良いけどね」

画面はやがて、人間だらけの映像に切り替わる。
争う二つの勢力。男達が、不格好な刃物の形に打ち直した鋼を敵対する勢力の者に振り下ろす。あるいは若い女をさらい、子供を笑いながらなぶり殺しにしている。
――およそ、知性、というものからはかけ離れた光景。
妹はこれ以上見たくない、と言わんばかりに目をそらし、唇をかんだ。

「今回、武器は携行してない。もしも出くわして殴り合いにでもなったら、まずこっちに勝ち目はないよ。あっさり殺されるならまだしも、なぶりものにでもされたら……」

姉は映像を消すと、ため息をついた。

「それでだ。宇宙船に近づくと恐ろしい幻覚が見えるガスを散布しようと思う。ガスマスク、持ってきてただろ」

妹は一瞬、息を止めて姉を見た。

「姉さん、本気なの……?」
「あっちの文明に接触せず、なおかつ身の安全を確保する方法なんてこれしかない。遅かれ早かれ、連中はここへ来るよ。空から何かが降ってきた、なんて大事件が起きたんだ。絶対に確かめに来るさ。降ってきたのは神様か、それとも恐ろしい魔王か……どこぞの惑星で信じられていた予言のように考えるんじゃないのかね」

姉が肩をすくめる。
妹は目を閉じ――やがて、「ガスの散布に同意します、船長」と告げた。
たった二人しか乗らない船だが、いないと船を動かせないという理由から姉を船長として登録していた。
それを改めて認識するのは、せいぜい何かを申請する時ぐらいのもので、このところ忘れかけてさえいたが……この日初めて、妹は姉を「船長」と発音した。

自分達より未熟な文明の星の住民相手に、幻覚を見せるガスをまくことへの罪悪感や葛藤はある。
だが、映像の中で悲鳴を上げていた女性達のことを思い出すと……あんな目にあうのは嫌だった。

姉は妹の言葉に複雑な顔をしたが、「乗員全員の同意が得られたものとみなす」と応じた。

「ガスマスク、持ってきてただろ」
「うん」

姉の言葉に、妹は操作席の下部分の床板を開ける。
そこには顔全体を覆う黒いガスマスクが二人分入っていた。
植物を採取しようとする場所にガスが蔓延していた場合に使うため、持ってきていたのだ。

二人がそれを装着すると、どちらがどちらか判別することがさらに難しくなった。
ガスマスクの下にある顔立ちの違いだけが、二人を明確に分ける材料だったのだから仕方ないことである。

姉妹はガスマスクを装着し追えると、無言でそれぞれの操作席に座った。
ガスは操作席に一つずつ、散布するためのスイッチが取り付けられている。
二人がそろってボタンを押さないと、ガスは出ない仕組みである。

幻覚を見せるガス。なぜこんな物が宇宙船に装備されているかというと、他惑星の住民との不用意な接触を避けるためである。
ガスは散布をやめればやがて分解され、無害なものに変わる。
また人体に残ることも、依存性が発生することもない。あくまでも一時的な幻覚症状である。

とはいえ他の惑星の住人に干渉することに違いはなく、乗員全員の同意があった上で使用すること、という規定はあった。
そのためにそれぞれの席にスイッチがあるのだ。

「ガスの散布、開始するよ」

3,2,1――

二人は、そろってボタンを押した。
すると、音も無く宇宙船全体から薄い膜のような物が広がり、やがて周りの風景に溶け込むようにして見えなくなった。

「これで宇宙船には近寄らないだろう。あとは、少しでも早く救助隊が来ることを祈るしかないね」

ガスマスク越しでくぐもった姉の言葉に、妹は硬い表情でうなずいた。

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