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zoom RSS おばあちゃまの日

<<   作成日時 : 2015/01/17 14:18   >>

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今日は「おばあちゃまの日」だ。
みんなでおばあちゃまに会いに行く、っていう日。
だから今日は、朝からお母さんとお姉ちゃん達がバタバタしてる。

「ちょっと、洗面台いつになったら空くのよ。早くどいてくれない?」
「隣で一緒に使えばいいじゃん」
「やあよ。狭いとメイクしづらいもの」
「机の上に鏡置いて使えば済む話でしょうに」
「だよねー、お姉」
「小さい鏡でメイクすると、顔全体で見たバランスが崩れるの!」
「そこまで力入れてメイクしたって、誰も見てないわよーだ」
「何ですってえ!?」
「こんな狭い所でケンカしないでちょうだい……」

洗面所の方から、お姉ちゃん達の声が聞こえる。
大人って、メイクしなきゃいけないから大変だ。
いつだったか「あんたは良いわよね、まだメイクしなくていいだもん」って、二番目のお姉ちゃんに言われたことがある。

「ほら、いつまで朝ごはん食べてるの! あなたも早く着替えて支度しなさい」

目玉焼きの黄身をぷにぷにつついてたら、お母さんに怒られた。
さっきまでエプロン姿だったけど、今はびしっと淡いグリーンのスーツを着てる。

「ほら、これに着替えて。もたもたしないの」

ハンガーにかかった洋服を見せながら、お母さんがわたしを急かす。
白いブラウスに地味なグレーのプリーツスカート。そしてこれまた地味なネクタイが付いてる。まるで学校の制服だ。

「まだ目玉焼き全部食べてないよ」
「そんなの、残しちゃいなさい!」

……お母さんが怖い顔してる。
しょうがない。
目玉焼きの黄身に未練はあったけど、えいやっと食べてしまった。
お母さんは残しちゃえって言うけど、残したらきっと後で怒られるし、そもそも嫌いだから残してたわけじゃないもん。

そんなこんなで準備して、お母さんの車に乗って出かけた。
おばあちゃまに会うために、何だっけ、えーと、難しい名前のついた建物まで行かなくちゃいけないんだけど、そこがちょっと遠いからいつも車に乗って行くのだ。
途中で二番目のお姉ちゃんと三番目のお姉ちゃんが音楽をかけるかかけないかでちょっともめたりしたけど、それ以外は特に何事もなく、車はその建物に到着した。
三角屋根の、白くて大きな建物が窓から見える。
ここに来るのは一年に一回、わたしは十五回目だけど(赤ちゃんの時にも連れて来られてたらしい)、何度見てもやっぱり圧倒される。
別に怖い思い出も、嫌な思い出もないんだけど。

「お母さん、駐車場に車を置いて来るから。あなた達は先に行ってなさい」

お母さんの言葉で、お姉ちゃん達とわたしは車を降りて、建物に入った。
中に入ると、こっちに背中を向ける格好で、大勢の人が長椅子に座っていた。
うちはちょっと来るのが遅かったようで、家族の人数分空いてるところは無かった。

「どうしよう」

一番上のお姉ちゃんを見上げたら、

「仕方ないわ。空いているところを見つけて、バラバラに座りましょう」
「ほらー、誰かさんがメイクにこだわってもたもたするからー」
「うるさいわね、大体、あんたが……」
「静かにしなさい」

後からやってきたお母さんにたしなめられて、わたし達はそれぞれ空いている場所を見つけて座った。
やれやれ、と思ったところで、後ろから誰かが背中をつついてきた。
振り返ると、学校の友達だった。

「おはよ〜……ふああ」

友達はあいさつするなり、あくびをした。

「おはよ。なんだか眠そうだね」
「まあね、昨日ちょっと夜更かししちゃって」
「おばあちゃまの前で居眠りなんかしちゃダメだよ」
「わかってるって……ふああ」

いやこれ多分ダメな気がする。
大丈夫かな、とゴーン、と厳かな鐘の音が聞こえてきた。
いよいよだ。おばあちゃまに会う時間がやって来たんだ。

わたしは顔を引きしめて、前を向いた。
前の方にはステージがあって、その後ろ一面が灰色の幕で覆われてる。
黒いスーツを着た女の人がステージの真ん中に立って、マイクを握る。

「これで全員そろいました。では、始めます」

静かな声で女の人が話し始める。

「今年度亡くなった者は三十五人です。うち老衰が十八人、病死が六人、事故死が四人。そして悲しいことに自ら命を絶った者が二人いました」

あちこちから小さなため息が聞こえる。

「命を粗末にした者がいたことも嘆くべきことですが、さらに嘆かわしいことは、命を絶たせるほど追いつめた者と、助けもせず傍観していた者がいたということです。おばあちゃまもさぞ、胸を痛めておいででしょう」

女の人がうつむく。声が悲しそうに震えてる。

「私達は母娘であり、姉妹。一つの生命体とさえ言っても過言ではない存在なのです。みな一つとなって、社会の発展と向上に尽くしていかなければならないのです」

そう言うと、女の人は顔を上げた。

「来年度はおばあちゃまを悲しませずに済むよう、努めてゆかねばなりません。さあ、おばあちゃまにお会いしましょう」

女の人の言葉と同時に、ステージの後ろを覆っていた灰色の幕がさあっと開いた。
幕が開いた向こう側に見えたもの。
一面ガラス張りの壁の中で、大小様々なチューブにつながれた、ほとんど内臓のむき出しになった骨格標本みたいな物。
これがわたしの――ううん、みんなのおばあちゃま。

――遠い遠い昔、世界規模で戦争があった。
生き残った人類は、ただ一人。おばあちゃまだけだった。
おばあちゃまは、奇跡的に残っていたクローン製造の施設で自分の細胞からクローンを作り、復興に取り組んだ。
そのクローン達が寿命を迎えると、またクローンを生み出した。
最初は十年も生きられない個体ばかりだったけど、研究と改良の結果、およそ四十年ぐらいは安定して生きられるようにまでなった。
そうして世代が出来て行き、上の世代の者が下の世代の物を「娘」「妹」とみなして、擬似的な家族の形をとることになった。
やがて年老いたおばあちゃまは、自分自身をいざという時のための細胞のストックにするよう子供達に命じた。
おばあちゃまは、こんな風になりながらもまだ生きているのだ。

――学校で、そんな風に教わった。

わたし達はみんな、おばあちゃまのクローンなのだ。
おばあちゃまとわたしは、同じ顔。お母さんもお姉ちゃん達も、黒いスーツの女の人も、この建物の中にいる人も、全員がおばあちゃまと同じ顔。
髪型や着ている物、年齢や肉の付き具合なんかの違いはあるけれど、性格だってバラバラでケンカもするけど……それでも、わたし達は「同一人物」なのだ。


今日は「おばあちゃまの日」。
みんなが、おばあちゃまに会いに行く日。

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