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zoom RSS 私の愛する彼

<<   作成日時 : 2014/12/28 14:59   >>

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私は今、彼のことで悩んでいます。
彼とは付き合い出してから半年ぐらいになりますが、つい最近、とんでもない秘密が発覚したのです。
二股をかけていたとか、実は結婚をしていたとか、同性の方が好きだったとか、そんなものではありません。
それらが些細な問題にすら思えるほど、彼の秘密は衝撃的でした。

彼は、人間ではなかったのです。
何かの例えだとかじゃありません。彼は本当に人間ではないのです。


「これから時間ある? 僕の部屋に来ない?」
「行くわ。コンビニでお菓子買って行くから、コーヒー淹れて頂戴ね」
「本当にコーヒー好きだよね」
「コーヒーなら何でも良いわけじゃないのよ。あなたの淹れてくれるコーヒーが、一番口に合うの」
「お褒め頂いて光栄ですよ、と」

二人でぶらぶら散歩に出かけた帰り道で、茶目っ気たっぷりにほほ笑む、目の前の彼。
でもその表情は、鋼の骨組みの上に特殊な加工を施された柔らかい肉質の素材を乗せた作り物の成したものなのです。


彼の「秘密」が判明したのは、今から一月前のことでした。
その日、私達は二人で街を散歩していました。
手をつないで他愛ない話をしながら、あるお店の前を通りかかった時、ドカン、という爆発音が耳をつんざき、吹き飛ばされて道に転がる羽目になりました。
後で聞いたところによると、厨房で漏れたガスに引火して爆発が起きたのだそうです。
彼は爆発で飛んできた破片から私をかばい、腕に大ケガを負いました。
傷口を止血しようとハンカチを取り出し、彼の腕を引き寄せて――私は自分の目を疑いました。
腕にできた傷からは血が一滴も流れず、それどころか裂けた部分からまっすぐな鋼の棒がのぞいていたのです。
驚きのあまり悲鳴すら上げられずにいる私を、彼は自分のマンションの部屋へと連れていきました。
そこで彼は自分の正体を私に告げたのです。

「だますつもりじゃなかったんだ。本当のことを言って君が離れて行ったらと思うと、言い出せなくて……」

彼は、地球を監視するために別の惑星から派遣されてきたのだと言いました。
自分のような他惑星からの「監視官」は大勢いる、とも。

「あなた、人間じゃなかったのね」
「ああ」

ため息交じりに彼は短く答え、硬い表情を浮かべたままうつむいていました。
きっと、私の反応を知るのが怖いのでしょう。
秘密を告白することがどれほど勇気のいることか、私だって知っています。
その秘密を共有してもらえるか、拒絶されるのか、それとも言いふらされてしまうのか……色々な不安がぐるぐると駆け巡るものです。

でもその時の私は、まったく別のことを考えていました。
一つの疑問が浮かんできて、それで頭がいっぱいになってしまったのです。

「……ねえ」

私は勇気を出して、その疑問を彼にぶつけることにしました。

「どうして私と恋人になろうと考えたの? 周りに怪しまれないために、身内を作ろうと思ったの?」
「それは違う! 本当は、現地の人間と個人的に親しい関係になるのは最大のタブーなんだ。でも、僕は……どうしても、どうしても誰かに君を取られたくなくて……」

苦悩した様子の彼。
利用するために私を選んだわけじゃないのだと知って、私は安心しました。
彼が人間だろうとロボットだろうと、私への気持ちに偽りはなかったのですから。

「私、あなたのことが大好きよ。人間じゃなくてもいい。他の惑星から来たロボットだっていい。だからずっと一緒に……」
「いや」

彼はゆっくりと首を横に振り、

「これは僕の本当の姿じゃない。君に覚悟があるのなら、本当の僕を見せようと思う」

他の惑星から来たロボットだという以外に、一体どんな秘密があるというのでしょうか。
私は黙ってうなずきました。
私を真剣に想ってくれている彼。たとえどんな姿であろうとも彼は彼だ、という思いが、私にそうさせました。

彼は自分の頭に手をやると、何かをカチカチといじりました。
すると彼の頭部が小さなモーター音を立てていくつかのパーツに別れ、鉄の箱のような物が露わになりました。
その箱が開くと、飛行機のコクピットのように複雑な機械に囲まれた椅子と、そこに腰かける小さな小さな、人間とはかけ離れた姿の生物が現れました。
大きな耳と細長い指を持つ、芋虫のような生物が。

「これが僕の本当の姿なんだ」

その生物は、彼と同じ声でそう一言、私に告げました。

――もちろん、彼の見た目だけに恋をしていたわけではありません。
出会いは、道に迷った様子の彼を見過ごせずに私が声をかけた事。
それからは顔を合わせるたびに立ち話をして、だんだん仲良くなっていって。
そんなある日、私が男友達と二人でいるところに彼が割り込んできて、唐突に「彼女は渡さない」と言い出して、大騒ぎになって、なんだかんだ誤解も解けて、そこから正式なお付き合いをすることになって……。

思い出すと、今でも胸のどこかが暖かくなって、ほほえましい気持ちになります。
彼のことは、大好きです。愛しています。その気持ちに嘘や偽りはありません。
ただ、一つだけ。一つだけ、わからなくなることがあるのです。それが、私の悩みなのです。

私の愛する「彼」は、一体誰なのでしょうか。
人間の形をしたロボット? でもそれはいわば『乗り物」で、中に小さな生物が乗っていなければ動くことはない。
ロボットを操っている小さな生物? でも芋虫のような見た目から、私は表情を読み取れない。手をつなぐことだってできない。


「やっぱり、コーヒーにはシュークリームだよね」
「クッキーも買っていこうよ」

今目の前にいる、私の愛する「彼」とは、一体どちらを差しているのでしょうか?

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