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zoom RSS 一人ぼっちのお姫様

<<   作成日時 : 2014/12/13 14:56   >>

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そのお姫様は、きれいなドレスを着せられて、一日の大半を部屋の中で過ごしていた。
部屋の中にいる限り、不自由なことは何一つない。
欲しい物や用事がある時は、テーブルの上に置かれた小さなベルを鳴らす。
そうすれば、いつでも彼女専属の使用人が現れる。あとは何でもそいつに言いつければ済むのだ。
たとえ真夜中だろうと、ひっきりなしだろうと、呼ばれれば使用人はすぐに駆け付けた。

だが一つだけ、お姫様の要望でも叶えられないことがあった。
それは「外出」だ。お姫様は部屋の外へ勝手に出ることを許されていないのだ。
室内においても浴室とトイレへつながる扉以外は開けられない。
使用人が出入りする扉は別にあり、出入りが終わるとぴっちりとすき間なく閉じて壁と一つになってしまう不思議な作りなので、どう頑張ってもお姫様には開けられなかった。

しかし、完全に室内だけでは気分が滅入ってしまい、下手をすると体に障る。
ということで、部屋と扉一枚を隔てたテラスならば出入りしても良いことになっていた。
それも使用人をまず呼び出して鍵を開けてもらわねばならない仕組で、おまけにテラス自体が薄いガラスで覆われているという始末だったが。

「お姫様なのに、なんて自由のない暮らしなのかしら」

今日も今日とて、お姫様はテラスに老いたテーブルセットで優雅にティータイムを過ごしながら、ぷりぷりと怒っていた。
ガラスの向こうには手入れの行き届いた庭が見える。

「仕方がありませんよ。貴女は特別な方で、うっかりお怪我でもされたら一大事なのですから」

お付きの使用人が、男とも女ともつかぬ、だが声でなだめにかかる。
どう見ても人間の風貌ではない。控えめに言って、出来の悪い案山子に似ている。

「だからって、これじゃ退屈だわ」
「では退屈しのぎに、新しい人形などはいかがでしょうか」
「もうお人形には飽きたわ。そうねえ……・何か面白い本を二、三冊持ってきて頂戴」
「承知いたしました。少々、お待ちください」

使用人がテラスから部屋へと戻り――かちり、とご丁寧に鍵をかけていく。
遠ざかる使用人の姿を目で追いながら部屋の方へ目をやると、掃除係が数名、パタパタと忙しなく仕事をこなしているところだった。
お姫様が部屋を出ている間に、彼らは掃除とベッドメイクを済ませてしまうのだ。

まるで掃除の邪魔だから外へ追い出されているかのようだ、と苦々しい思いでお姫様がティーカップを口元に運ぶと、視界の端にひらひらと舞う物が映りこんだ。
思わず目をやると、それは黄色い二匹の蝶だった。二匹は日の光を浴びて、高く高く舞い上がっていく。

あれは確か求愛の行動だったはず、と思い出して、お姫様はため息を一つ。
ああやって誰かと恋に落ちて夫婦になるという幸福は、自分の人生にはない。
自分は姫なのだ。王家の繁栄のためになる相手と否応なしに結婚させられることだろう。
その相手はまだ、決まっていないけれど。





「この建物一体が人間の展示場か。すごい力の入れようだな」
「さんざん宣伝してたからな。パンフレット配ったり、入場割引券配ったりさ」
「人間って確か、保存状態の良い死体から細胞を採取して復活させたんでしょ?」
「ああ。中には脳みそだけ、なんて悪趣味なのも保存されてたらしいけどな」
「えーっと、ここは中世ヨーロッパ風に内装を再現してるコーナーだね」
「わあ、いるいる。あれは……メスね!」
「正解。あの人間のメスは、お姫様ってことになってるんだってさ」
「ひらひらした薄布を体に巻いてるけど、あれは何かしら」
「あれはドレスっていうもので、人間はああいう風に薄布を加工して身につける習性があるんだってさ」
「動きにくくないのかね。あ、こっち見たぞ」
「気のせいだよ。このガラスは特殊なやつで、向こうからはこっちの景色が見えないようになってるんだから。向こうには風景の映像を流してるっていうから、何か気を引く物でも映ってたんだろ」
「そっかあ」
「しかしまあ、何だか哀れだねえ。世話役がいるとはいえ、一匹だけなんて」
「あら? 世話をしているのは同族の人間じゃないの?」
「お前、よく見ろよ。どう見たって人間じゃねえだろ。あれは自動で動く人形だよ。人間の言葉はわかるらしいけどさ」
「世話役を置かないで、人間同士でお互いの面倒を見ればいいのに」
「それは難しいところだよ。人間を複数で置いとくと、相性が悪けりゃ喧嘩ばかりするっていうし。ちなみに、オスとメスで相性バッチリだったら、年中発情して大変らしいよ」
「……その様子は、あんまり見たくないわね」
「見せられても気まずいだけだから……」
「じゃ、じゃあ次のコーナー行こうよ。えーっと、こっちは同じぐらいの年代の、東洋の文化が再現されてるらしいよ」
「人間っていろんな文明を築いてたのねえ」
「その割にあっさり滅んだけどな。同士討ちで滅ぶなんて、よその星でも聞いたことないよ」

灰色の体に三本の腕を持ち、ぬめぬめとしたなめくじのような足を引きずって歩きながら、一つ目の種族の若者たちは次のコーナーへと移動して行った。

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