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<<   作成日時 : 2014/11/15 14:40   >>

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「あちらは面会を希望しています。とにかく、もう一度よく話し合いをなさった方が」
「絶対に嫌です。私はもう、あの人には愛想が尽きたんです」
「面会を拒否する、ということですか」
「ええ。あの人の顔なんてもう見たくありませんから」

田舎の山間にある一軒の家。
今時珍しい、茅葺き屋根の古民家で、座布団に座った女とスーツ姿で髪を七三分けにした男が向かい合っていた。
女は怒りと悔しさをにじませた顔で、手にしたハンカチをぎゅうっと握りしめていた。

「あの人、私以外の女の人も抱いているんですよ……! 私、もう耐えられないっ」

汚らわしい、と女は言いたげだ。
唇を震わせた、と思うと、女はハンカチで目元をぬぐい始めた。
スーツ姿の男はモニター画面の付いた何かの機械を手に取り、操作を始めた。
やがて画面には文字が表示される。

「向こうでは一般的な慣習のようですが。社会的な地位の高い人には多くの子孫を残す義務がある、と」
「あの人、結婚する時に、私以外は妻にしないって約束してくれたんですよ! なのに、子供が生まれた途端、もういいだろうって言わんばかりに次々……私のことなんかもうどうでも良いんだわ!」
「本当にどうでも良いと思っているなら、わざわざやって来て面会を求めたりしないはずですよ」
「そんなの、信じられるもんですか! あの人、私だけじゃなくて子供のことだってもどうでも良いのよ。子供がハーフだって理由で学校でいじめられているっていうのに、何もしてくれなかったものっ」

女の顔が、みるみるうちに血の気を帯びていく。
スーツ姿の男は、再び機械を操作する。

「その件は、相手方の家族に直接話をつけたそうですよ。……相手の子、転校しませんでした?」
「どうだか。相手の子が転校したのは確かだけど、あちらのご家族の仕事の都合って聞きましたわよ」

荒げた声を元に戻しながら、女は吐き捨てる。
声はともかく、いったん露わにした感情の方はそうそう収まるものではなく、女の顔は赤いままだった。

「とにかく面会はしません。夫にはそう伝えて下さい」

わずかに顔をしかめてため息をつき、女は髪をかき上げた。

「面会を拒否なさると、まずいことになりますよ」

スーツ姿の男は、声を潜めた。

「実は、面会を拒否する場合、あなたを誘拐犯とみなして罪人としてしかるべき対応を取る、とあちらから通達が来ているんです」
「は!? 一体何のことよ」
「あなたは夫に何も告げず、夫のいない間にお子さんを連れてこのご実家へと帰られた。夫の了解を得ないまま子供を連れ去った……つまり誘拐の罪が成立するそうです」
「子供を置いて帰るわけにはいかないでしょう!」

やや赤みが薄れかかっていた女の顔が、再び赤みを増していく。

「ですがこのままでは……」
「誘拐だなんて馬鹿馬鹿しい。あの子は私がお腹を痛めて生んだ子よ、連れて帰るのは当然じゃないの!」

その時、すっ、と二人の近くの障子が開いた。
現れたのは、頑固そうな初老の男とおろおろしている初老の女――女の両親である。

「お前、いい加減にしなさい」
「お父さん」
「結婚というのは一に我慢、二に我慢。だいたい、風習も何もかも違うところに嫁ぐと決めた時点で、苦労は覚悟の上のはずだろう」

むすっとした顔で父親が言えば、

「郷に入っては郷に従えと言うじゃないの。離婚なんて、子供がかわいそうでしょう。暴力を振るわれるとか、生活費がもらえないとか、周りの人達にひどく意地悪をされるとか、そういうわけじゃないなら戻ってやり直した方が……」

隣に立つ母親がたしなめる。

「父さん達は、一夫多妻の苦労を知らないからそんなことが言えるのよ!」

女が感情的に叫んだその時、開いた障子の奥から、とたたた、と軽やかな足音が聞こえ、六、七歳ぐらいの男の子が部屋に飛び込んできた。
一見、パーカーと半ズボンを着たごく普通の子に見えるが――よく見ると目の色は紫色で、耳の先がとがっている。

「こら、おとなしくしてなさい」
「やだよ、家の中にいたってつまんないもん」

男の子は部屋の中を突っ切ると、庭に面している木戸を開けた。
そこから見える庭先の光景は、異様の一言だった。
庭先に、銀色で細長い奇妙な物体が突き刺さっているのだ。
そしてその向こうに見える空を一面に、この庭先に突き刺さったのと同じものが覆っている。
その一つが、キラリと光った。

「あ、パパの船だ!」

男の子が無邪気に目を輝かせ、手を振る。

「やめなさいっ」

女は慌てて立ち上がり、男の子を家の中へと引き入れて木戸を閉めた。

――国際結婚ならまだ話は簡単だった。
だが、相手はろくな交流すらない惑星の人間だ。それも軍の幹部候補というエリートである。
なんでこんな田舎の山奥でそんな相手と出会い、夫婦にまでなったのか。
全ては十年ほど前にさかのぼる。
向こうの宇宙船が故障してこの家の裏山に不時着したことがあり、その際、母星からの迎えを待つまでの間滞在させてもらったのだ。
それが夫婦の馴れ初めである。
滞在は一月にも満たなかったが、すっかり夢中になっていた娘は両親の猛反対を振り切って、駆け落ち同然で他の惑星へと嫁いでしまったのだ。
しかし今回色々と耐えかねて、自ら宇宙船を操縦して実家へと戻ってきたわけである。
庭先に突き刺さった奇妙な物体は乗ってきた宇宙船だ。

無論、この一件で世界中が大騒ぎしている。
スーツ姿の男は政府から派遣されてきた交渉役で、どうにかして穏便に事態を解決するよう厳命されていた。
上手くいけばこれを機に正式に惑星間の友好条約を取り結べる、と上層部は考えているらしい。

と、機械のモニター画面にまた、文字列が表示された。
要約すると内容は、「妻と息子に早く会いたいが、話はまだ付いていないのか」である。
この機械は向こうの惑星から渡された通信機で、現在、交渉に関する情報の送受信に使用されている。
ここで「面会を拒否している」などと馬鹿正直に答えたら、一体どうなることか。
スーツ姿の男は「彼女の両親からも説得が始まっている」とだけ返信し、小さくため息をついた。

まさか軍部の高官が、わざわざ宇宙船を率いて出向いてくるとは。
よほど妻子思いなのか、それとも面目を保つためか……。

(まあ、こっちの知ったことじゃないか)

「息子さんはお父様を嫌ってはいないようですよ。実は良い父親だったのではありませんか?」

スーツ姿の男は、再び説得に取り掛かるのだった。

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